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挿話「岬と綾」6

こんな所で昼寝なんかしていたからだろう。 近くでよく見ると、岬のふわふわ緩くパーマのかかった髪の毛には、枯葉や草の種のようなものがあちこちに絡まっている。 綾は、尻をもぞもぞさせて少し岬から離れると、横目でちろっと岬の顔を睨みつけた。 「……髪の毛」 「ん?」 「バカがついてる」 「は?バカ?」 虚をつかれたように、岬がキョトンとした顔になる。 「草の……種?バカって言うでしょ。草むら歩いてると、服とかにいっぱい付くやつ」 岬はこちらの視線を辿って自分の髪の毛に手をやると、顔を顰めながら絡まっているものを外して、指先に摘んでみせた。 「バカって……言うのか、これ」 「え、言わない?都会っ子だね、岬さんって」 「岬。呼び捨てでいいって言ったろ?さん付けとか、ケツがムズムズする」 「年上に呼び捨て、俺、出来ない。そんなに親しいわけでもないのに」 すかさず言い返すと、岬は楽しそうににやっと笑って 「へえ、意外。おまえって結構言うね。もっと大人しいお坊っちゃんだと思ってたわ」 岬はくくく…と喉を鳴らして、髪の毛から外した草の種を指先でピンっと弾いてこちらに飛ばした。 そのひとつが目に近い頬の上に当たる。 綾はきゅっと顔を顰めて 「痛っ。岬…さんこそ、ガキくさい。もっと落ち着いた大人の人かと思ってた」 岬は声をあげて笑うと 「いいね、その反論。おまえ、やっぱいいわ。親しくはさ、これからなればいいんだよ」 屈託のない岬の笑顔にドキッとして、綾は慌てて目を逸らした。 これから親しくなればいい。 それはそうなのだろうが、急激に距離を縮められても、どう反応していいのか分からないのだ。こういう自分の陰気な性格が嫌いだが、どうしようもない。 「俺は別に、親しくならなくていい」 「そう?でも昨夜よりは親しくなったじゃん。こうしてちゃんと会話、出来てるでしょ」 ……それは……そっちが一方的に、だけど。 綾は口に出さずに反論してみた。 でも岬の言う通り、さっきより全然緊張していない。知らないうちに、まんまと岬のペースに乗せられている気がする。 「学校サボって、なんで家に来てるの?」 話題を変えると、目の端に映る岬は首を竦めて 「綾に、会いたかったから」 ボソッと呟いた。 ……え……?

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