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挿話「岬と綾」7
聞き間違えかと思った。
岬の声に、さっきまでと違う少し重い響きを感じたから。
綾が探るような目で岬の顔色を窺うと、岬はゆっくりと瞬きをしてからこちらをじっと見つめて
「あれ。疑ってる?ほんとだよ。綾に会って、ちゃんと話がしてみたかったんだ」
「……どうして……俺?……っていうか、なんで今さら?」
従兄弟なのだ。同じ県内ではないが、昨夜の母との会話では、数年前から関東地方に住んでいると言っていた。交流を深めたいなら、もっと早くにいくらでも機会はあっただろう。
何故今頃になって、こんな唐突に?
「やーっと、自由に動けるようになったからさ、俺。母親の束縛とかいろいろ、ね」
「……束縛……?」
「うん。おまえってさ、俺の母親に会ったこと、ある?」
ベンチにふんぞり返っていた岬が、急に身を乗り出して膝を詰めてくる。綾は驚いて少し仰け反り
「会ったことは、あるよ。叔母さん、だし。小さい頃とか、岬さんも一緒に家に来たじゃん。何回か」
岬はますます身を乗り出してきて
「な、な、どんな印象?俺の母親」
「え……どんな、…って……」
これは何を期待しての質問なんだろう。
綾は困惑して、近すぎる岬から顔を背け
「普通の、おばさん」
「普通か?あいつ、ちょっと変だろ」
綾は岬を横目で睨みつけた。
「なに?何、言わせたいの、俺に」
「そんな怖い顔するなよ。おまえ、女の子みたいな顔だな~。睫毛なっが」
話題がころころ変わる。しかもこちらが一番気にしているコンプレックスを狙い撃ちだ。
綾はますます顔を顰めて
「岬さんってすげぇ失礼。話も訳わかんないし。俺……帰る」
ムッとして立ち上がろうとすると、腕をぎゅっと掴まれた。
「ごめん。悪かったよ、そんな怒るなって。な、まだ帰るなよ。もっと話そうぜ」
こちらは本気で腹をたてているのに、岬は何だか楽しそうだ。
……ほんと、訳わかんない……この人。
綾は掴まれた腕を捻じるようにして振りほどいた。
「俺と話したいって、叔母さんのこと?だったら俺、話すことないよ。知らないから」
「いや、あいつのことはどうでもいいんだよ。俺はおまえのこと、もっと知りたい。綾、高校3年だろ?進路とかどうするんだ?」
また唐突に話題が変わった。
綾はすぐには答えずに、じとっと岬を横目で睨みつけた。
「大学進学?就職?」
こちらの不機嫌なんか全く頓着せずに、岬は畳み掛けてくる。
「……進学……するつもりだけど」
「何処の大学?地元?」
「答える義務、ない」
「親友くんと同じ大学行くのか?」
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