103 / 126

挿話「岬と綾」7

聞き間違えかと思った。 岬の声に、さっきまでと違う少し重い響きを感じたから。 綾が探るような目で岬の顔色を窺うと、岬はゆっくりと瞬きをしてからこちらをじっと見つめて 「あれ。疑ってる?ほんとだよ。綾に会って、ちゃんと話がしてみたかったんだ」 「……どうして……俺?……っていうか、なんで今さら?」 従兄弟なのだ。同じ県内ではないが、昨夜の母との会話では、数年前から関東地方に住んでいると言っていた。交流を深めたいなら、もっと早くにいくらでも機会はあっただろう。 何故今頃になって、こんな唐突に? 「やーっと、自由に動けるようになったからさ、俺。母親の束縛とかいろいろ、ね」 「……束縛……?」 「うん。おまえってさ、俺の母親に会ったこと、ある?」 ベンチにふんぞり返っていた岬が、急に身を乗り出して膝を詰めてくる。綾は驚いて少し仰け反り 「会ったことは、あるよ。叔母さん、だし。小さい頃とか、岬さんも一緒に家に来たじゃん。何回か」 岬はますます身を乗り出してきて 「な、な、どんな印象?俺の母親」 「え……どんな、…って……」 これは何を期待しての質問なんだろう。 綾は困惑して、近すぎる岬から顔を背け 「普通の、おばさん」 「普通か?あいつ、ちょっと変だろ」 綾は岬を横目で睨みつけた。 「なに?何、言わせたいの、俺に」 「そんな怖い顔するなよ。おまえ、女の子みたいな顔だな~。睫毛なっが」 話題がころころ変わる。しかもこちらが一番気にしているコンプレックスを狙い撃ちだ。 綾はますます顔を顰めて 「岬さんってすげぇ失礼。話も訳わかんないし。俺……帰る」 ムッとして立ち上がろうとすると、腕をぎゅっと掴まれた。 「ごめん。悪かったよ、そんな怒るなって。な、まだ帰るなよ。もっと話そうぜ」 こちらは本気で腹をたてているのに、岬は何だか楽しそうだ。 ……ほんと、訳わかんない……この人。 綾は掴まれた腕を捻じるようにして振りほどいた。 「俺と話したいって、叔母さんのこと?だったら俺、話すことないよ。知らないから」 「いや、あいつのことはどうでもいいんだよ。俺はおまえのこと、もっと知りたい。綾、高校3年だろ?進路とかどうするんだ?」 また唐突に話題が変わった。 綾はすぐには答えずに、じとっと岬を横目で睨みつけた。 「大学進学?就職?」 こちらの不機嫌なんか全く頓着せずに、岬は畳み掛けてくる。 「……進学……するつもりだけど」 「何処の大学?地元?」 「答える義務、ない」 「親友くんと同じ大学行くのか?」

ともだちにシェアしよう!