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挿話「岬と綾」8

「…っ」 岬の質問に、綾はぎゅっと口を引き結んだ。 さっき、岬は変なことを言い出した。妙に確信のある口ぶりで。そのことには触れられたくない。 「あの子も進学だろ?同じ大学、目指してる?」 「……岬さんに、関係ないだろ」 「やっぱりそうか。だったら、やめとけ」 「あんたに、関係ないだろ」 綾は語気を荒げた。そのことには触れられたくないのだ。 「関係あるよ。おまえが東京の大学に行くかどうか。それによって俺のこれからの生活にも大いに関係がある」 岬は真面目な顔で言い放った。 「……は?なに、それ」 「家を出ようと思ってるんだよね、俺。今、住むとこ探してる。でもさ、東京って家賃高いだろ?だからルームシェアしたいんだ、出来たら」 綾はぽかんと口を開けて、岬の顔を見つめていた。蒼史朗のことを突っ込まれるかと思ったのに、話が思いがけない方向に飛んだ。 「ルーム……シェア」 「うん。最近多いんだぜ。2人以上で部屋借りてシェアするやつ。それ専用の物件なんかもいろいろ出回ってる」 「そうなんだ……」 「家賃はなるべく安い方がいい。でもさ、あんまり古い物件や狭い部屋は嫌なんだよな。だからルームシェアでそこそこ良さげな部屋に住みたいわけ。こないだ見せてもらったやつなんか、デザイナーズルームでさ。すごいお洒落だった。なんかドラマとか雑誌で出てきそうなやつ。家賃も滅茶苦茶高かったけどな」 ご機嫌な様子で話し続ける岬に、綾は眉を顰めた。 部屋を探しているのは分かった。 家を出たいのも。 だが、それがさっきの話とどう繋がるのだろう。岬との会話は、話の内容があちこちに飛んでいくから、反応に困るのだ。 「ね、岬さん」 「ん?なに」 「岬さんの部屋探しと俺の大学のこと、なんか関係ある…の?」 困惑しながら話を遮ると、岬はにこっと人懐っこい笑みを浮かべて 「あるよ、もちろん」 きっぱりと言い切って口を噤んだ。 ……や……だから、あるよ、じゃなくて。 どう関係あるのか、その説明を聞きたいのだけど。 「あの子と同じ大学はやめとけ、綾。おまえがどんな勉強したいのか、話、聞いてやるよ。いろいろアドバイスもしてやるから」 また話が飛んだ。 いや、さっきの話に戻った? どの話題も肝心なことには触れないままで、変なもやもやばかりが増えていく。 岬はこちらの困惑には、まったく気づいていない。 ……っていうか…… 気づいていて、わざと核心から外しているような感じがする。 にこにこと楽しそうな岬の顔を見ていても、何を考えているのかさっぱり分からない。

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