岬の顔が滲んで歪んだのは、自分が泣いているからだと気づいた。 「なに……言ってんの？」 ぐすぐすと涙声になってる。嫌だ。 「綾、俺は」 「同じって、なに？俺は、蒼のこと好きなんか、…っ…違う、恋とか、……っちが」 「なあ、綾、」 「勝手に、俺のこと、分かんないでよ！」 両肩を掴む岬の胸に手をあてて、近すぎる彼の身体を必死に押し戻す。堪えきれずに、熱くなった目から涙が零れ落ちた。自分を見つめる岬の目が痛そうに歪む。 そんな目で見るな。 勝手に暴くな。 ずっと独りで隠してきた気持ちを。 誰にも分かってもらえないと、最初から諦めていたのに。 急に理解者面して、飛び越えてくるな。 「綾、ごめん。俺の言い方が悪かった。違うんだ。俺はおまえに、」 「こ…っ……っ恋なんか、してないっそんなわけ、ないじゃん！」 声が震える。涙が、ボトボトと溢れ落ちていく。 「親友っ、なのに！そんなわけ、ない……！」 「じゃあどうして泣くんだよ。そんな、辛そうな顔して」 綾は言葉を詰まらせ、首を激しく横に振った。頬に伝い落ちた雫が飛び散る。 格好悪い。 みっともない。 こんな馬鹿みたいに泣くなんて。 でも、涙が引っ込んでくれない。 嫌なのに。 岬の顔が急に迫ってきた。綾は息を飲み、腕を突っ張らせる。 ……やだ……っ。 吐息が顔にかかる。仰け反っても、背もたれにあたってそれ以上動けない。 焦って背けようとしたが、先回りした岬に唇を押し付けられた。 「……っ」 頭が混乱した。何が起きてるのか、分からない。思考停止する。 綾は反射的に口をぎゅっと噤んだ。 柔らかいものが、唇を塞いでくる。外そうとしたら、顔を両手で押さえ込まれた。 逃げられない。 「っや、……っむ、」 動けないように固定されたまま、塞がれた口をちゅっと吸われた。 キスされているのだと、ようやく気づいた。 頭の中が真っ白になる。 岬の唇が蠢いている。重なる唇が薄く開いて、隙間から熱く濡れたものが触れるのを感じた。 ……っ。やだっ。 必死にもがいた手で岬の腕を掴み、爪をたてた。ものすごい力で顔を押さえつけられていて、ビクともしない。 ……やだっ。やだやだやだっ。やめろってば！ 隙間から出てきた湿った熱が、引き結んだ唇をこじ開けようとしている。 どこで息をしていいのか分からない。 苦しくて、だんだんぼーっとしてきた。 苦し紛れに爪でガリッと引っ掻いた。動ける両足を必死にばたつかせる。 岬の身体が、膝の上にのしかかってきた。 怖い。逃げられない。