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挿話「岬と綾」11

1度だけー。 寝ている蒼史朗に寝惚けたフリで、そっと唇を重ねたことがある。寝返りを打った弾みで触れてしまった体で。 一瞬掠めるだけの、キスとも言えないキスだった。でもドキドキして、朝まで眠れなかった。蒼史朗は熟睡していて、まったく気づいていなかったはずだ。 ダメだ。息が出来ない。苦しくて、キツく引き結んでいた唇が緩んでしまう。すかさず湿った熱がその隙間をこじ開けて侵入してきた。 「んんぅ…んっ、んー…っ」 岬とベンチの背もたれに挟まれて、もがく度に背中が擦れて痛い。 綾は、自由になる手をめちゃくちゃに動かして、爪をたてて引っ掻いたり叩いたりした。 普段、バイオレンスとはまったく無縁なのだ。蒼史朗とたまに喧嘩はするが、口喧嘩やじゃれ合う程度で取っ組み合いの喧嘩なんかしたこともない。自分よりガタイのいい男から、こんな一方的で圧倒的な暴力を受けた経験がないから、どうしていいのか分からなくて混乱していた。 死にものぐるいの抵抗に、岬が唸るような声を漏らして身を捩った。いったん唇を離して、痛そうに顔を顰める。 「引っ掻くなよ。爪、痛い」 理不尽な暴力を受けているのはこっちなのに、岬はイライラした声で文句を言うと、顔を押さえつけたままで膝の上に乗り上げた足を乱暴に動かした。岬の膝が、グッと股間に押し付けられる。急所に圧力をかけられて、綾はひゅっと息を飲んだ。 「やめ…っ、やめて」 「黙れ」 鋭く遮られ、ビクッと身体が竦む。岬の顔が再び迫ってきて唇を押し付けられた。 「んっっ」 怒りの形相で凄まれて、股間を膝で押し潰されて、綾は更に混乱した。 怖い。意気地がない自分が情けなくて惨めだが、下手に動いたら急所を潰される。岬は怒ったら手加減をしない気がした。 岬の腕を掴み締めていた手から、徐々に力が抜けていく。 涙がびろぼろ零れ落ちて、堪えきれずにしゃくりあげた。 岬はちょっと動きを止め、体重をかけていた膝を少しだけ浮かせると、促すように舌で唇をつついてくる。 無駄な抵抗をするよりも、この狂気じみた岬の行為が早く終わって欲しい一心で、綾は嫌々、自ら唇を開いた。 潜り込んでくる。岬の舌が。 咄嗟に逃げようと奥に引っ込めた舌を、無理やり絡め取られた。 「んんっふ、…んっく、んぅ」 ちゅくちゅくと吸われる。 綾は鼻で浅い呼吸を繰り返した。ふぅふぅくぅくぅと子犬が鳴くようなみっともない声が、鼻から漏れてしまって恥ずかしい。 ぎゅっと目を瞑ると、目尻から涙が伝い落ちた。 岬の膝が、じりじりと動いて、制服のスラックス越しに下腹部を撫で回し始めた。 さっきは痛みと恐怖で竦み上がっていたソコが、優しく刺激されたせいで変な熱を帯びていく。 ……や……だ……。

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