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挿話「岬と綾」13※

冗談じゃない。 こんな所で脱がそうとするなんて、タチの悪いイジメと同じだ。 「やめろって!」 綾は半分涙声で鋭く叫んで、岬の手をパシッと叩いた。岬は怯む様子もなく平然とバックルを外すと、さっさとベルトをゆるめて、スラックスのホックも外した。 「ね、ほんと、やめてって」 阻止しようとするこちらの手を、うるさげに払い除ける。呆気なくファスナーをおろされ前を寛げられて、綾は顔を歪めた。 「岬っ、やだっ」 窮屈そうに押し込まれていたモノが、下着ごと隙間から勢いよく前に出る。制するよりも先に、岬はすかさずソコを手で掴んだ。 「んっ、」 ビクンっと身体が大きく震えた。 岬のしなやかな指が自分の昂りを握っている。スラックス越しより手の感触や熱が生々しく伝わってきて、身体が硬直してしまった。 ……あ……やだ……。 「おまえ、可愛い。感じてる顔、してる」 岬の囁く声に、さっきまではなかった甘さが滲む。握る手の力が緩んで、ゆっくりとさすり始めた。 「んぁ……」 嫌なのに、声が出てしまう。内腿が引き攣れる。擦るというより優しく撫でられている感じだ。ソコから沸き起こる疼きに、身体の熱が一気にあがった。 そんな場所を他人に触られるなんて、気持ち悪い。でも身体は正直に気持ちいいと反応している。 払い除けたい。でも、気持ちいい。 感情と感覚が真逆の反応を示していて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。 ……やだ、……ぁ……や、だぁ…… 岬の手首を握り潰しそうなほど掴み締めていた。ゆっくりと、じわじわと、上下に動くその手を、押さえつけたいのかもっと動かしたいのか、もう訳が分からない。 今まで感じたことのない、快感だった。 自分でしている時とは、全然違うのだ。 初めて、自分の中に眠る雄の本能の荒々しさに気付かされた。抗いがたい欲望に、理性が押し流されていく。 「気持ちいいんだな、綾。腰、揺れてる」 吐息だけで囁く岬の声は満足気で、残酷なのにすごく優しくて甘い。 「ぁ、や……っだ、やめ」 掴み締めた岬の手首にギュッと爪をたてた。それが精一杯の抵抗だった。 岬は痛みに顔を顰めながらも、手を動かすことをやめてくれない。 「大人しくしてな、綾。すぐ終わるから。俺はおまえを、気持ちよくしてやりたいだけ」 岬は相変わらず優しく囁いて、今度はトランクスの中に手を入れてきた。 「あ、っ」 直接、触られた。 綾は、ショックで大きく目を見開き、自分を見下ろしている岬の目を呆然と見上げた。 岬の顔が、ゆっくりと近づいてくる。 「目、瞑ってろよ」 近すぎて焦点がボヤける直前、岬は何故かちょっと哀しげに微笑んだ気がした。

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