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挿話「岬と綾」15※
綾はそっぽを向いたまま、唇をぎゅっと引き結んだ。
そんな質問、意地でも答えてやりたくない。
こちらの気持ちなんかお構いなしで、体格差にものを言わせて無理やりイかせられたのだ。気持ちよくて射精したのは事実だけど、身体が勝手に反応しただけだ。
「答えないと、またするよ?おまえのここ、まだ硬いし」
「離してったら。なんで、こんなこと、するんだよ」
したり顔の岬を横目で睨みつけ、綾は声を詰まらせながら再び抗議した。もっと激しくなじってやりたいのに、弱々しい声しか出ない自分が情けない。
「おまえが……好きだから?」
……なんでそこ、疑問形?
「うそだ。ほとんど会ったこと、なかったのに」
「ん~。綾が知らないだけ。俺は何度もおまえのこと、見てたけどね」
綾は驚いて、岬の顔を見つめてしまった。岬は何を考えているのかさっぱり分からない顔でにこっと笑うと
「気づかなかった?」
「きもっ。ストーカーだろ、それ」
岬の言葉が本当なら、それはちょっと怖すぎる。
岬はくすくす笑い出して
「冗談。久しぶりだよ、綾の顔見たの。美人になってて驚いた」
「び……美人って、なに、それ」
「おまえ、ちっちゃい時も女の子みたいだったもんな。おばさんの後ろに隠れてさ、警戒心強い仔猫みたいな顔してこっち睨んでた。俺が話しかけても無視してさ、とっつきにくいガキだったよね」
楽しそうに思い出話を始める岬の手は、まだしっかりソコを握ったままだ。
子どもの頃のそんな格好悪い話を、懐しそうにしみじみ語るようなシチュエーションなんかじゃ、全然ない。
「いいから手、離してってば。あんたと昔話なんかしたくない俺は、」
「怒るなよ、そんなに毛逆立ててさ。身体は素直で可愛いのに、ツンデレだな」
綾は黙り込み、ぷいっと顔を背けた。
さっきからまったく話が噛み合わない。
こちらが何を言っても、のらりくらりと論点を外されて、徒労感が増すだけだ。
綾は、むにむにと指を動かし始める岬の手首を握り締め、必死にソコから引き剥がした。
「もう一回、イっとく?」
「…っふっざけんな!」
意外とあっさりソコから手を離した岬が、耳元に口を寄せてくる。
「なあ。もっと違うこと、教えてやろうか?」
「いらない。これ、犯罪だからね。強制わいせつ罪」
「でも嫌がってなかったぜ?可愛い顔して喘いでた癖に」
反射的に、綾は岬の手を思いっきり引っぱたいていた。
「っつ、いって~」
「っ最低だよ、あんた。大っ嫌いだ」
「俺は綾のこと、好きだな。久しぶりに会ったら超俺好みに育ってたもん、おまえ」
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