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挿話「岬と綾」17

草むらを掻き分けながら、公園の中央を突っ切ってずんずん歩く。少し遅れて駆け寄ってきた岬が、当然のように隣に並んで歩き出したが、完全に無視することに決めた。 母さんからのお使いを引き受けたのは岬の勝手だ。自分は関係ない。 事故とはいえさっきあんなことをしてしまった相手と、どんな顔をして仲良く買い物なんか出来るというのだ。 背の高い垣根の間をすり抜けて、公園の出口へと急いだ。早く家に帰ってシャワーを浴びてスッキリしたい。岬との恥ずかしい行為の全てを、熱いお湯で洗い流してしまいたかった。 「あ……、綾、ちょっと待って」 岬が囁いて足を止める。 綾はそれを無視して更に足を踏み出しかけて、視界に飛び込んできた光景にハッとして足を止めた。 公園の入り口から少し入って右側の、大きな木のそばに人影が見える。 そこまではまだだいぶ距離があるはずなのに、一瞬で人影の片方が蒼史朗だとわかった。 もう1人は女子だ。うちの学校の制服を着ている。下校の時、蒼史朗と一緒にいた隣のクラスの楡井あか里。蒼史朗が告られてひと月ほど前から付き合い始めたカノジョだ。 ドクンっと心臓が嫌な感じに跳ねた。 道路からは見えない所で、2人は寄り添いあっている。蒼史朗が何か言いながら、指先を彼女の顔の脇に伸ばした。彼女の頬にくるんと巻いた後れ毛がかかっている。彼女が何か答えて笑うと、蒼史朗は首を傾げながらその後れ毛を指先でつつく。彼女が上目遣いに蒼史朗を見上げてまた何か言った。蒼史朗は首を竦めると、手のひらを彼女の頬にそっとあてた。 2人の身体がゆっくりと近寄る。頭ひとつ分背の高い蒼史朗が屈みこむ。 綾は目を逸らせずにいた。 見たくないのに。 2人がイチャついている姿なんか。 どうして真っ直ぐに帰らずに、寄りにもよってこの公園になんか立ち寄るんだろう。 目の奥がツンとなる。 見ちゃダメだ。これ以上は。 でも……動けない。金縛りにあったように。 ……ほんと、馬鹿みたいだ。 2人のシルエットが重なり合う直前、不意に大きな手が伸びてきて両目を塞がれた。 不意打ち過ぎて、ビクッと飛び上がってしまう。 「見るなよ」 ちょっと怒ったような低い声。 岬だ。 向こうの2人のやり取りに気を取られて、岬がそばにいることも忘れていた。 綾は金縛りが解けたようになって、慌てて目を塞ぐ岬の手を掴んだ。がっちりと覆われていて、払いのけられない。 「見たくないのに、見るな」 岬は低い声で重ねて言うと、片手で目を覆ったままでぐいっと引き寄せた。綾は抵抗する間もなく、岬の腕の中にすっぽりと収まる。 「……っ、や」 「いいから、来いって」

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