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挿話「岬と綾」18

岬に半ば引き摺られるようにして、さっきとは方向の違う公園の奥へと歩いていた。 途中、何度か足を踏ん張って抵抗したくなったが、その度に公園の入り口にいた彼らの姿が脳裏に浮かぶ。 逃げ出したかった。早くここから。 「どこ、行くんだよ?」 公園の反対側の入り口から出て、細くくねった山道を歩く。公園を出てからもう随分経った。学校の裏山にこんなに足を踏み入れたことなんかない。 掠れた綾の問いかけに、岬は歩くスピードをゆるめた。 「どこって、山ん中……?」 「なんでそこ、疑問形?こんなとこまで来ちゃって、岬さん、道、分かってんの?」 岬は急に立ち止まり、呑気に辺りを見回してから首を傾げた。 「さあ?俺、地元じゃないし」 綾は目を見開いた。 「じゃあなんで、そんな自信満々に歩いて来ちゃったの?こんな山奥に来たら帰れなくなるじゃん」 岬はようやく掴んでいた腕を離してくれると、くしゃっと人懐っこい笑顔になって 「大丈夫だろ。ガキじゃないんだから、迷子になんかならないさ。それより、落ち着いた?」 笑いながら顔を覗き込まれて、綾はぷいっと顔を背けた。 そうだった。 見たくないものをうっかり目撃して、思わず涙が滲んでしまった自分の顔を、岬に見られてしまった……のだろうか。 ……うわ……。格好悪い……。 岬に突っ込まれて、蒼史朗のことなんか好きじゃないと突っぱねたのに、結局はみっともない醜態を晒してしまった。 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。 「別に、俺、」 「キツイよなぁ、ああいうの。ノンケってさ、こっちの気持ちなんか分かんないから、すげぇ残酷」 誤魔化そうとした言葉をあっさり遮る岬の声音に、妙に実感のこもった苦々しさを感じる。 綾はちらっと岬の横顔を盗み見た。 「気持ち……分かるの?岬さんに」 「分かるよ。俺もおんなじ思い、したことあるからな」 岬は遠くを見るような目をして、ぽつんと呟いた。 ……じゃあ本当に…… 岬は自分と同じなのだろうか。 同性を好きになって、こんな風に傷ついたりしたことがある……? 誰にも言えずにずっと1人で、どうしようもない気持ちを持て余していた。この自分のやりきれない思いを、岬なら分かってくれるのだろうか。 不意に、無性に聞いてみたくなった。 もし、岬が自分と同じ側の人なら。 好きになってはいけない相手を好きになってしまった経験があるのなら。 どうやってこの思いを封じ込めるのか。 どんな風にして忘れてしまうことが出来るのか。 大切な親友を失いたくない。 蒼史朗に、知られたくない。絶対に。 だから、何か上手い方法があるのなら、教えて欲しい。

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