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挿話「岬と綾」20

綾はイライラしていた。 自分が意志薄弱で、押しの強い相手に逆らえない性格なのは自覚している。 でもだからって、岬の自分勝手な理屈に押されて、結局は一緒に買い物をしている自分にムカつく。 「綾、やっぱさっきのなんか変な形の野菜、買ってみようぜ?」 ちょっとはしゃいでいるような岬の声音に余計にムカついて、綾はボソッと突っ込んだ。 「……母さんのメモに、そんなの書いてない」 「ばーか。メモの通りにただ買うのなんかつまんないだろ?小学生の初めてのお使いじゃないんだからさ」 「……なにそれ?どういう理屈?頼まれたものだけ買って帰るのがお使いじゃん」 「いいんだよ。メモのやつは全部カゴ入れたんだから、こっからはアレンジ。あれ買って帰ってさ、おばさんに料理してもらおうぜ」 ヘラヘラと楽しげな岬の笑顔から、綾はぷいっと目を逸らした。 相変わらず強引で気ままな男だ、岬は。 自分とは真逆な性格なのだろう。 山道を抜けて遠回りで団地から通い慣れた県道に出た時、綾はほっとして岬より先にずんずん歩き出した。 ここを真っ直ぐに数分歩けば最寄り駅に着く。岬とはとっとと別れて電車に乗ってしまえばいい。一緒に買い物なんか行くつもりはもちろんなかった。 ……そう、思っていたのに……。 岬はすぐに早足で追いついてきて、同じ電車に乗るとピタッとそばに張り付いてきた。 無視を決め込む自分に話しかけてきはしなかったが、ドアの脇の狭いスペースで壁に寄りかかってスマホをいじる自分を、閉じ込めるようにして前に立ち身体を押し付けてくる。 綾は時折、スマホから顔をあげて、岬をちろっと睨み付けた。目が合うとへらっと笑って(電車、混んでるんだから仕方ないだろ)とでも言いたげに首を竦める。 家の最寄り駅で降りるまでの辛抱だと、綾は無視し続けていた。 そして降車まであと2駅になり、こちら側のドアが開いた瞬間、岬に腕を掴まれてぐいっと引っ張られたのだ。 不意打ちをくらってよろけたまま、岬に無理やり電車から引っ張り降ろされかけた。 咄嗟に抵抗して文句を言ってやりたかったが、ホームには電車に乗りたい人たちが列を作って待っていて、(モタモタしてないで早く降りろよ…)という無表情無言の圧をかけてくる。 綾は結局何も言えぬまま、岬と一緒にホームに立ち、乗っていた電車を呆然と見送った。 「……なに、やってんの?降りる駅、違うじゃん」

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