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挿話「岬と綾」21

「降りる駅、ここだよ。駅裏にデカいスーパーあるだろ」 「スーパーになんか、俺、行かないから」 掴まれていた腕を乱暴に振りほどき、すかさず反論すると、岬はちょっと困ったような顔で笑って 「あ……そっか。じゃあ俺、勘違いしてた?綾も買い物、付き合ってくれるんだと思いこんでたわ。……ごめん」 また訳の分からない理屈で丸め込まれるかと身構えていたのに、あっさりと素直に頭をさげられて、綾は戸惑った。 「……え、いや、俺」 「じゃ、改めて誘ってもいいか?帰り道一緒だしさ、買い物、付き合ってよ。な?それとも他になんか用事とかあった?」 ニカッと屈託なく笑う岬に、綾はウロウロと目を泳がせ 「……別に……用事なんて、ないけど」 「じゃ、決まりな。行こうぜ、綾」 肩をポンッと軽く叩くと、岬は階段に向かって先に歩き出す。綾は電光掲示板を上目遣いで睨みつけ、次の電車が来るまで40分ほどあるのを確認して首を竦めた。 ……なんか結局……上手く丸め込まれた気がするんだけど……。 ちょっと腑に落ちない。でもいつまでもグズグズ渋っているのもなんだか格好悪い気がして、綾ははぁ…っと大きなため息をついて岬のあとを追いかけた。 「母さん、絶対に怒るよ」 「大丈夫だって。おばさん優しいもん」 「や、怒るでしょ。余計なもんばっかり買ってるもん、あんた」 岬が両手にぶら下げているスーパーの袋のうち、母さんのメモに書かれていたものは小さい方の袋に全部収まってる。もう一個のデカい袋は岬が勝手に選んだものばかりだ。 岬は急に立ち止まり、ひょいっと後ろを振り返ると 「大丈夫だって。俺の分の食費って、うちの母さんがおばさんに渡した金だぜ。おばさん、食べたい物があったら何でも買ってこいって言ってたし?」 ケロッとした顔でそう言う岬に、綾は唖然とした。それならそうと最初から言ってくれたらいいのだ。そしたらこんなに気を揉む必要なんかなかったのに。 「……あんたって……」 「あんたじゃないだろ、岬、だろ?」 「……岬……さんって、ほんと、コミュニケーション出来ない人だよね?」 綾が憮然として文句を言うと、岬は不思議そうに首を傾げた。 「ん?そうかぁ?俺、自分じゃ社交的な方だと思ってるけどな」 ……や、社交的……かもしれないけど……なんか会話が成り立たないんだよね……。

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