118 / 126

挿話「岬と綾」22

家の最寄り駅で電車を降りると綾はさっさと歩き出した。自宅までは徒歩で15分ほどだ。 「おーい、待てよ」 岬が追いかけてくるのを無視して、歩く速度をあげる。 「なあ、待てって。そっちじゃないぞ」 ……はあ?そっちじゃないってどういう意味だよ。家、こっちだし。 内心突っ込みながら無視を決め込み、いつも通る近道へと向かった。 「こら、無視すんな!」 国道を突っ切って向こう側に渡ろうとした時、追いついてきた岬に腕を掴まれた。すかさずその手を振りほどき 「うるっさいなぁ。買い物ならちゃんと付き合っただろ。もう絡んで来ないでよ。近道、こっちだから!」 振り向きざまに睨みつけると、岬は肩を竦めて 「そうじゃなくてさ。もう一軒、付き合え」 「はあ?どこに?」 偉そうな言い方がムカつく。 「電気屋。たしかあっちの通りに量販店あっただろ?イヤホンさ、片方なくしちゃったんだよね」 そんなこと、こっちの知ったことじゃない。 「だから、なんで俺がそれ、付き合わないといけないわけ?店の場所わかってるんなら、一人で行けばいいじゃん」 イライラしながら答えると、岬はへらっと笑って 「や、ついでに綾のイヤホンも買ってやろうと思ってさ」 「……?」 意外な答えが返ってきて、綾は眉を顰めた。 「俺の……?……なんで?」 「ん?いや、今月、バイト代けっこう入ったんだよね。今かなりリッチなわけ、俺。で、可愛い従兄弟くんにちょっとプレゼントって思って」 「……要らない。貰う理由、ないし」 「来月って綾、誕生日だろ?俺、たぶんその頃には家に帰っちゃうからさ」 綾はますます眉を顰めた。 これまで全く交流のなかった従兄弟なのだ。 今さら急に誕生日プレゼントだなんて言われても……。 「ほんと、要らない」 「これ、見て?」 岬は言いながらポケットに手を突っ込み、手のひらサイズのケースを差し出してくる。 「今、めちゃくちゃ人気のやつ。しかもこれ最新モデルだぜ?」 綾は目を見開いて、岬の手のひらを覗き込んだ。 たしかに岬の言う通り、それはクラスの男子の間でも今日まさに話題になっていた、発売されたばかりのイヤホンだった。 実物を見るのは初めてだ。 綾は顔をあげて岬をじと…っと見つめて 「なくしちゃったのって、これのこと?」 「そ。買ったばっかなのにさ、片っぽどっかに落としてきたっぽい」 「うわ……」 それは最悪だ。 人気のモデルの最新ver.だから、高校生の自分にはそう簡単には手に入らない値段なのだ。 「仕方ないからもう一個買おうと思ってさ。で、綾にもこれの色違い、買ってあげるよ」 ドヤ顔をする岬を、綾は胡散臭げに睨みつけた。 「どうして、俺に?ってか、そんな高いやつ、貰えない」

ともだちにシェアしよう!