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挿話「岬と綾」22
家の最寄り駅で電車を降りると綾はさっさと歩き出した。自宅までは徒歩で15分ほどだ。
「おーい、待てよ」
岬が追いかけてくるのを無視して、歩く速度をあげる。
「なあ、待てって。そっちじゃないぞ」
……はあ?そっちじゃないってどういう意味だよ。家、こっちだし。
内心突っ込みながら無視を決め込み、いつも通る近道へと向かった。
「こら、無視すんな!」
国道を突っ切って向こう側に渡ろうとした時、追いついてきた岬に腕を掴まれた。すかさずその手を振りほどき
「うるっさいなぁ。買い物ならちゃんと付き合っただろ。もう絡んで来ないでよ。近道、こっちだから!」
振り向きざまに睨みつけると、岬は肩を竦めて
「そうじゃなくてさ。もう一軒、付き合え」
「はあ?どこに?」
偉そうな言い方がムカつく。
「電気屋。たしかあっちの通りに量販店あっただろ?イヤホンさ、片方なくしちゃったんだよね」
そんなこと、こっちの知ったことじゃない。
「だから、なんで俺がそれ、付き合わないといけないわけ?店の場所わかってるんなら、一人で行けばいいじゃん」
イライラしながら答えると、岬はへらっと笑って
「や、ついでに綾のイヤホンも買ってやろうと思ってさ」
「……?」
意外な答えが返ってきて、綾は眉を顰めた。
「俺の……?……なんで?」
「ん?いや、今月、バイト代けっこう入ったんだよね。今かなりリッチなわけ、俺。で、可愛い従兄弟くんにちょっとプレゼントって思って」
「……要らない。貰う理由、ないし」
「来月って綾、誕生日だろ?俺、たぶんその頃には家に帰っちゃうからさ」
綾はますます眉を顰めた。
これまで全く交流のなかった従兄弟なのだ。
今さら急に誕生日プレゼントだなんて言われても……。
「ほんと、要らない」
「これ、見て?」
岬は言いながらポケットに手を突っ込み、手のひらサイズのケースを差し出してくる。
「今、めちゃくちゃ人気のやつ。しかもこれ最新モデルだぜ?」
綾は目を見開いて、岬の手のひらを覗き込んだ。
たしかに岬の言う通り、それはクラスの男子の間でも今日まさに話題になっていた、発売されたばかりのイヤホンだった。
実物を見るのは初めてだ。
綾は顔をあげて岬をじと…っと見つめて
「なくしちゃったのって、これのこと?」
「そ。買ったばっかなのにさ、片っぽどっかに落としてきたっぽい」
「うわ……」
それは最悪だ。
人気のモデルの最新ver.だから、高校生の自分にはそう簡単には手に入らない値段なのだ。
「仕方ないからもう一個買おうと思ってさ。で、綾にもこれの色違い、買ってあげるよ」
ドヤ顔をする岬を、綾は胡散臭げに睨みつけた。
「どうして、俺に?ってか、そんな高いやつ、貰えない」
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