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挿話「岬と綾」23

「俺が綾に贈りたいって思ったから……って理由じゃ、納得出来ない?」 揶揄うように顔を覗き込まれて、綾は思わず身を引いた。 「……キモい」 「あ。ひでぇ~。なにその反応」 岬はまったく堪えた様子もなく笑い飛ばすと 「ま。俺、まだバイトだけど結構な高給取りなわけよ。大学卒業したら今よりもっと稼げる。だからさ、これぐらいポンッと買ってあげられちゃうんだよね」 「バイト……って。就職決まってる会社の?」 「そ。大学入ってすぐに始めたからな。もう長いんだよ。4月からは本格的に幹部補佐として働くし」 綾は目を丸くした。 「幹部……補佐?それって結構偉い人?」 岬はふふんっと鼻で笑って 「まあ、偉いっちゃ偉いかも。リーダー、主任ときて幹部補佐だからな」 「バイトなのに……?」 綾が不信の眼差しを向けると、岬はまた楽しそうに笑って 「ま、いろいろあるんだよ、バイトって言ってもさ。綾にはまだわかんないよなぁ。高校生ちゃんだから」 「……っんと、ムカつく。その言い方」 綾は苛立ちを顔に出してぷいっとそっぽを向くと 「とにかく要らない!あんたからプレゼントなんか貰ったら、後で何を要求されるかわかんないし」 「そう言うなって。ツンデレだな、綾は」 ふざけて伸ばしてくる岬の手をパシっと叩き落とし、綾は背を向けると国道を渡ろうと歩き出した。 まともな会話にならないのだ。岬とは。 これ以上相手にしていたって時間の無駄だ。 今日は帰ったらやりたいゲームがあるし、苦手な歴史のレポートを作らないといけない。 この男のせいで、随分時間を無駄にしてる。 ぷりぷりしながら道を渡りかけて、綾はハッとした。脇道から出てきた車が、スピードも緩めず右折してこちらに突っ込んでくるのが、まるでスローモーションのように見えた。 ……あっっっ、 「危ない!!」 咄嗟に動けなくなった綾の腕を、叫んだ岬が掴んでぐいっと引っ張った。バランスを崩した身体が、向いている方向とは逆にぐにゃりと曲がる。次の瞬間、バンっとものすごい音がして、岬の身体に包み込まれた。そのまま2人でもつれるようにして、硬いアスファルトに倒れ込む。 「……っっつぅ…っ」 急ブレーキの音と、誰かの悲鳴が聴こえた。 綾は思わず瞑ってしまっていた目を見開いた。自分の上に岬の身体が覆いかぶさっている。首だけ動かして周りを見ると、道路の端に止まった車から、飛び出してきた運転手の青ざめた顔が見えた。 「大丈夫か?!あんた」 バタバタと他にも周りから駆け寄ってくる。 心臓がばこばこして、キーンと耳鳴りがした。 「救急車っ」 駆け寄ってきた1人が叫んでスマホを耳に当てる。 「おい!しっかりしろ!」

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