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挿話「岬と綾」28

いったん深呼吸してから電話に出る。 事故の衝撃になんとか耐えてくれたと思っていたスマホは、角が歪んでそこから画面に小さな亀裂が走っていた。 「……もしもし」 『お、あや…か…?んじゃ、おまえは無事かよ』 少し咳き込むような蒼史朗の声。酷く緊張して聴こえた。 「え…?あ、」 『や、田積にさ、おまえ休んだ理由聞いたら、事故ったって』 田積というのは自分のクラス担任だ。 「あ~……」 『風邪でもひいたかと思って気楽に質問したらさ、田積のやつ、なんか深刻な顔して「おまえにもまったく無関係じゃないからな。他にはまだ漏らすなよ」って前置きして教えてくれたんだよ。事故で怪我したから休みだって』 なるほど。たしかにそれは間違いじゃない。 アスファルトに腕と足を擦っただけのかすり傷だったけれど、自分も怪我をしている。 でも… 「あ、うん。僕は、平気。ただ、」 『んじゃ、おばさんか?車の事故?怪我、ひでえの?』 「ううん。母さんも大丈夫。怪我したのは…」 『あ、ちょっと待てよ。周りうるさくて聞こえねえわ。廊下出る』 こちらの言葉を遮り、蒼史朗の声が急に遠ざかる。そのまま待っていると再び唐突に 『おばさん、入院?』 「ううん、母さんじゃなくて、」 『じゃあやっぱ、おまえか?今、ひょっとして病院?』 蒼史朗は何故かすごく慌てた感じで、こちらの返事を待たずに畳み掛けてくる。 「ううん。お昼ちょっと前に、病院から帰ってきて」 『……マジか。あ~、俺これから教室、移動だわ。んじゃ、家にいるんだよな?おまえ』 「あ、うん、蒼?あの、」 『わかった。また後で電話する。じゃな』 蒼史朗は早口でそう言うと、ブツっと電話を切ってしまった。 綾はスマホの画面をじー…っと見つめた。 ……通じたかな?話。蒼、なんかいまいちわかってない気がするけど……。 時計を見ると、これから授業の時間だ。 また後で電話をくれると言っていたから、その時に落ち着いてちゃんと説明すればいいだろう。 綾はスマホをポケットに突っ込むと、ベッドから立ち上がった。 身体は怠くてまだ眠りを欲していたが、よく考えたら昨日から何も食べていないのだ。 ホッとしたせいで急にお腹が空いてきた。 岬もきっと空腹のはずだ。 綾は少しふらつきながら部屋を出ると、階段を降りて下のリビングに向かった。

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