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第4話

「ッ、な……何す」 「おい、なんの匂いだ。香水か? お前……俺がいない間に誰と会った」 「痛った……放……ッ」 めり込むほどの強さで掴まれた腕がミシミシと音をあげる。 痛い……! 「やめ、っ……仕事だ、て言ってんだろ……ッ」 「本当に仕事か? 嘘つきやがったら許さねえぞ」 「な、んで嘘つくんだよっ! 本当に何もな……ンっ」 強引に重ねられた唇。 両手を背後で押さえつけられると、息苦しさから逃げられなくなる。 「んふ、っ……ん……ふ、は……」 歯列をなぞり、絡み合う舌。 浅くなる呼吸を癒してくれる手はどこにもない。 嫌だ……こんな関係、もう嫌なのに。 「はぁっ、は……んぅっ……克、やっ」 「あー……早くお前のケツに俺のをぶち込みてえっ」 「っ、風呂……もう沸いてるから入れよ……ッ」 「気が変わったわ。スーツ脱げ」 「え、ちょっ……」 ボタンが外れ、肩から滑り落ちる上着。 ソファに押し倒されたかと思えば、欲情した克彦と目線が交わってしまう。 「克、彦っ……」 「私服よりもえっろい、お前のその格好……」 言い終えると同時に、克彦の唇がシャツ越しに乳首を吸い上げる。 ビクンと大きく跳ねる体が怖い。 兄弟なのに、こんな事をしているのは普通じゃない。 何度もそう訴えたかった。 だけど俺には、それができない。 「んぁ、……ハッ、あ、そこはっ……」 ガリッと噛まれた瞬間鈍痛が走り、克彦の肩を強く掴んだ。 「はぁっ……あん、んっ、も、やめて……」 「……イヤイヤ言う割に、痛いの好きだろ。はぁ……優斗、お前は俺だけのもんだ。誰にも渡さねえ」 「あぁっ、ん、やっ……痛いッ……克彦っ」 露出したペニスをぐちゃぐちゃと手に潰され、激しい痛みに襲われる。 痛みが好きなわけない。 俺は克彦が、克彦のセックスが嫌いなのに……! 「フハハ……いい気分だなァ、親の目がなくなって優斗は完全に俺のものだ。邪魔する奴もいねえし、そんな奴がいたら俺が殺す……」 「違っ……んんッ、あ……苦し、っ」 「そろそろ良いだろ。早くここに俺のを」 「は、あぁ……っ、舐め、ちゃッ」 後攻を舐められてガクガクと震える体を自分では抑えることができなかった。 目尻に溢れ出てくる涙は、乱暴な克彦をさらに獣と変えた。 「俺が怖いのかよ、優斗……怖いよなぁっ、学歴も腕力も財力もないお前には俺がいないと無力、なんだよッ……」 「んあぁッ……!」 容赦なく後攻へ挿入された性器が俺の内臓を抉るように中を突いた。 痛くて、苦しくて、哀しい。 毎日行われる地獄の儀式。 克彦はまるで呪いにかけられた悪魔だった。 こんな生活が6年も続いているこの事実に、俺の心臓は既に抵抗すらできなくなっていた。 「__はっ……はぁ、……」 体が痛い。 セックスを終えると、何もなかったように克彦は風呂へと消えていった。 腹部に出された精液を拭う気力もない。 仕事を始めたら、何か変わるかと思っていた。 こんな生活も、こんな哀れな感情も、なくなるはずだと信じて疑わなかった。 「……何も……変わらない、じゃないか……」 克彦に追いつくことなんて無理だ。 逆らうこともできない。 能力のない俺1人で生きていくことは、絶対的に不可能なんだ。 「ああースッキリした。おい、次お前入れ」 「……」 克彦が原因で、煙草と刺青は大嫌いになった。 肩から背にかけて刻まれた一生取れない龍の画。 こんなのでよく内定をもらえるものだと言いたくなるが、克彦はよく悪知恵が働く。 賄賂やお世辞、洗脳口述なんて日常だろう。 「汚ねえから早く行けっつってんだよ。聞こえねえのか?」 「っ、ごめん……」 軽く蹴られた程度なのに、腕が痺れて感覚を不安定にさせた。 無力、役立たず、才能なし、奴隷。 俺の価値は全部……最悪だ。

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