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第15話
「……ん、美味しいですね。これ」
特別好きなわけでもない抹茶を一口飲んでみたが、思っていたよりいける。
「お前って、本当育ち良いな」
「……どこがですか」
「そういうところだよ」
「?」
どこに対しての言葉なんだろう。
ひとりでに感慨に耽っている松本さんがずるいと感じた。
そういう、優しい目を俺に向けないでくれ。
「陸のやつ、駄々こねるのが得意だから気をつけろよ? くっつき虫みたいにお前に引っついてる未来が見えるぞ〜」
「いいですよ、別に。ちょっと、可愛いですし」
「可愛いだろ。椎名とは別の可愛さがあるよ」
「……」
俺はこの男に殺されてしまうのではないか。
無自覚に言葉を発する行為が、俺にはどうしようもなく辛く、耳を塞ぎたくなる。
それを吐き出してしまうのも、怖い。
「仕事……教えてもらえませんか」
本当に言いたいことは隠して、松本さんの隣で小さくなった。
克彦の束縛がない今の時間がもう一生こないような、そんな大きな不安が胸の内で渦巻いている。
「椎名」
「はい……何で、んっ……」
一瞬、なにが起こったのか分からなかった。
唇にふれた生暖かい感触、絡み合う吐息、心臓の音。
どの言葉を選んでも伝えることのできない高揚感に、思わず目の前が霞んだ。
「っ……! な、なにして……るん、ですかっ」
「……悪い、今日はどうも欲求不満らしい」
「は……っ!? いや、あのッ……まつ、」
サァッと血の気が引くと同時に、腕や脚が麻痺していく。
抵抗のできないまま押し倒される俺はまるで、自ら誘っているようだった。
「な、ん……っ」
「挿れねえよ。触るだけ」
「ッ……」
掠れた声が、耳の奥を刺激した。
いつもの鬱陶しい松本さんの面影などなくなっている。
今までの彼は全て演技だったのではないかと本気で疑いかけるほど、雰囲気がまるで違う。
俺を誘惑するような官能な瞳。
首筋を這う唇は艶めいていて、目が向けられない。
「松、本さんっ……どう、し、んんっ……」
何年ぶりかの克彦じゃない人肌は、思っていた以上に俺の心を狂わせた。
熱い、苦しい……
松本さんの指が乳頭に触れると、全身がビクッと身震いする。
「やっ……そこ、は……っ」
「椎名……」
「ん、ふぅっ……あっ、」
こんな事が克彦にバレたら、俺は……っ
脳内で思っていることと自身の体は別人のようだった。
口先がふれるだけで甘い声が漏れだし、自ら手を開いて欲する。
どれだけ禁忌を犯していると頭で分かっていても、その手から逃げ出せない。
目尻から溢れた涙が、最早どの感情からきているのか正常な判断もできなくなっていた。
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