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第27話

「とぅっとぅるとぅ〜っ」 陸はやけに楽しそうだ。 IHの加熱ボタンを押しフライパンを置いて調理に取りかかる。 今日は茄子を使うか。 「おばあちゃんね、ゆうしゃんのこといったら会ってみたいゆってた!」 「えぇっ、言ったの……?」 「うんっ」 自由すぎる息子の空気が読めない行動に悪いと口を開こうとしたが、椎名の横顔は少し嬉しそうだった。 「……あの、松本さん」 「ん? なんだ」 「失礼、だったらすいません。東京で産まれたと聞いてましたけどご両親は……?」 「それが、海外にいるんだよな」 「へ? 海、外……ですか」 自分には想像もつかないのだろう。 俺も両親がイギリスに住んでいるという事実が、未だに謎でやれない。 元々、海外旅行が好きだった2人が出会い結婚をしたんだ。 家族全員自由人ばかりが集まっていてもおかしくはない。 「なんか……凄いですね、色々」 「だろ? 突拍子もないことを簡単にするやつばっかなんだよ。陸も陸で、"ゆうしゃんと動物園行きたいー"とかいきなり言い出すしな……」 「動物園?」 「いきたい! ゆうしゃんといきたいぃっ」 やり切れないこの気持ちを、どう吐き出せばいいのだろうか。 職場でも家でも、椎名はモテモテだ。 先が思いやられる…… 「____松本、さんっ……ちょっと、」 陸が眠りにつきお互いが風呂を終えた頃になると、理性という名の糸が寸前まで切れかけていた。 ソファに押し倒した椎名の首筋に顔を埋め、石けんの匂いに下半身が熱くなる。 「さっき……入った、のに」 「どうせお前。入る前に言ったら「汗かいてるから」とか言って渋るだろうが……」 「……っ、ん……熱、い……」 椎名の妖艶な体つきに不釣り合いなアザ。 こんなか細い体にどうして手をあげられるのかが理解に苦しむ。 「さ……触る、だけ……ですよね」 「ああ、触るだけだよ。触るだけ……」 そう言いながら唇で乳首にキスを落とせば、ビクンと大きく震えた。 「ッ……触る、だけじゃ……!」 「椎名、大人の世界はお前みたいに綺麗なやつばかりじゃないんだぞ?」 「なっ……それを言えば、なにしてもいいとか思ってませんかっ」 「溜まってんだよ……優しくするから、怖いなら目つぶってろ」 「や、め……っ、はん……」 乳首を舐めると身をよじって感じるのに、無理やり声を抑えようとしている。 震える手で必死に口元を塞ぐ姿には、不謹慎だが不思議な高揚感を覚えた。 「椎名、声を抑えなくていい。2階にまでは届かないよ」 「っふ、ん……別に、気持ちいいわけじゃ、な……ぁっ」 強がっているのか。 それとも、感じること自体怖いのか。 どちらにせよ、椎名の甘く漏れる声に反応して勃ってしまっている。 これをどうにかしたいのだが、強引に挿れるのは気が引けた。 「はっ……はー……こん、なのやっぱり……おかし、ぃです」 頬を真っ赤にし、苦しげに呼吸をしている椎名の緊張を解いてやりたいと微かに思う。 「……なぁ、椎名。本当に折れてないよな、ここ」 「な、んで……そんな嘘つくんですか。鎖骨や肋骨が折れているなら……普通はもっと、痛いです」 家庭内暴力は家族であろうと法に違反する行為だ。 椎名が不利になる確率は極めて低いというのに、病院には行けないと言う。 自分を大切にしてくれと心の底から言いたかった。 上司として、だけではないような気もするが。

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