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第63話
「松本さ……ん……」
「…………それはつまり、俺を意識してるって事で良いんだよな」
「っ」
逞しく鍛えられた腕が腰を抱く。
それだけで反応する下半身が恥ずかしく、松本さんから離れようと体を動かした。
「確かにお前に気持ちが悪いと言われてからどこまで踏み込んでいいのか分からなくて距離を置こうかと思っていたよ。だけどな、俺はお前を避けてねえし社員寮を優先したのも嫌いだからじゃない」
「松……」
「本当にお前を嫌だと思ってんなら、んなガキみたいな嫌がらせするかよ」
「で、でも……冷たかった、のは」
「…………あれは正直、俺から逃げる椎名にイラついていた。お前、結構繊細なんだな」
宥めるように背をなでる松本さんの手が優しくて、これは夢だと思った。
俺が創り出した妄想ではないだろうか。
そんな思い込みをしてしまうほど、松本さんが俺の事を見てくれていたのだという事実が信じられない。
「結婚までした相手と突然別れてそう簡単に割り切れねえって思いたいんだろうけどな……俺が考えていたのはそうじゃない。母親の顔も知らない陸の前に、血の繋がらない女を堂々と連れて来れなかっただけだ」
「…………」
「お前がどう思ってんのか知らねえけど、世間を知らないガキが歳上に気遣うなよ。お前が思ってるほど俺はヤワな男じゃない」
「松本、さん……」
陽気で人当たりの良い松本さんは、根が真面目で責任感の強い人なんだと初めて知った。
子供思いで、仕事に真剣で、人情に厚くて男らしい。
自分とは正反対の男に強く恋焦がれる俺の胸は先ほどから痛いくらいに鳴っている。
顎を支えられ唇が重なると、指先がひどく震えた。
「もう……離れて、くださいっ……」
「離さねえよ。それより俺が前に言ったの、まだまともな返事もらってないんだけど」
「…………え?」
「"付き合うか"って、あれ……俺は結構本気で言ったんだけどな」
「ッ____」
い、今……なんて……?
聞き間違い、じゃない。
松本さんの口からその言葉が出てくるとは想像もしていなかった。
「付き合ってください……の方が信憑性あるか?」
「そ、そんな学生みたいな、っ」
「だってお前、反応がすっげーウブだし。…………今度は逃げんなよ、椎名」
「っ! …………んぅっ」
脇腹をなぞるように愛撫され無意識に声が漏れた。
松本さんの真摯的な表情とは裏腹に、長い指先は卑猥に動く。
「言えよ」
「…………です」
こんなに近くにあって、求められて、誰が拒絶できるというのだろうか。
「……付き、合いたいです……松本さん、……っ」
言って、しまった……
加速する心臓の鼓動が、俺のなのか松本さんのものか分からないほど体が密着している。
震える手は一向に治まらず、優しくキスをされた俺は厚い胸に縋りつくことしかできなかった。
「____いや、っ……陸が、起き、あんっ」
カーペットの敷かれた床に押し倒され、松本さんの硬くなった性器が中を突く。
薫さんとは違う、苦しいほどに快感が襲ってきて声が抑えられない。
「ふ、んあっ、松本……さんっ、んん……激し、っ」
「あぁ……? お前が、どこの誰かも分からない奴に犯されて腹が立ってんだよっ」
「あぁんっ、そこ……はっ」
薫さんに嫉妬している松本さんがどうしても信じられなかったが、それ以上に俺を求めて大きくなる陰茎の感触が恥ずかしくて仕方なかった。
もう一度欲しいと期待していたモノが、俺の性感帯を刺激する。
苦しい……松本さんが好きすぎて、苦しい。
「あ、んっ……もっと……も、っ」
もっと欲しい。
松本さんので、グチャグチャになるまでしてほしい……
強欲な自分に心底愕然とする。
それでも体は正直で、どんどん欲が溢れてきた。
「はっ、はぁ……っあ、あぁ、苦しっ……」
「良いって、言えよ椎名……」
「っ……ふ、んう…………良い……気持ち、良いですっ……」
赤くなる顔を隠し、消え入りそうな声で言った。
松本さんの笑う声が聞こえ、益々涙が溢れ出てきた。
「可愛い……」
「っ……可愛く、ないです」
「他の男に触られたって思うとすんげえムカつく……お前が二度とバカな行動しないよう、監禁でもして1日中犯してやりたい気分だよ」
「な……ッ」
頬に落ちてきたキスの意味が、今まで思っていたよりもずっと重いものに感じた。
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