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第66話

「これ、良いですね」 「ん? どれだ」 液晶テレビが並ぶコーナーで、40型のテレビに高画質の動画が流れている。 確か克彦の家にあったものは36型で、あれでもかなり大きいと思っていた。 「お前、そもそもテレビ見んの?」 「見ないです」 「なんだよそれ」 「ニュースは新聞かスマホのアプリで十分かと思って」 「いや、テレビで放送してんのはニュースだけじゃねえから……」 光回線に繋ぐとかなんとか、よく分からない。 俺はその手の知識にかなり鈍いらしい。 「ゆうしゃん、手つなぐ」 「あぁ。はい、おいで」 べったりくっついてくる陸の手を握る。 今でこそ普通に可愛いと思えるが、俺の知らない奥さんとの血が流れていると思うと少し心苦しくなることもやっぱりあった。 陸は俺の事をどう思うだろうか。 そんなの、分からないけど。 「すみません、一人暮らし用の冷蔵庫を探しているんですけど」 近くにいた店員に声をかけると、陸は「せんぷうき!」と手を離して行ってしまった。 「いらっしゃいませ! 冷蔵庫ですね。ご予算はどのくらいお考えですか?」 「2万以内……はさすがにないですか」 「中古で値下げしているものなら本体5,700円でございますが……少し超えても良ければ、税込21,600円の物がございますよ」 チラ、と陸の方を見てみれば松本さんに抱えられ扇風機の風に涼しんでいた。 中古はちょっとな…… 「じゃあ、2万の方を見てみたいです」 「かしこまりました。すぐお近くなんですけど、ご案内しますねっ」 送り主の書かれていなかった封筒。 使うことに少し抵抗があったが、用事であればメモ書きでもあるだろうと松本さんに言われ、奇妙だが使うことにした。 松本さんでもなければ誰なんだろうと未だに謎だ。 「それでは、こちらが契約書の控えになりますので。ありがとうございましたっ」 「ありがとうございます」 結局、2万円台の冷蔵庫を購入し落ち着いた。 陸は相変わらずはしゃぎ回っていて、その度に松本さんに捕まえられている。 「お子さん、可愛らしいですね」 「え? あぁ……可愛いです」 「どちらのお子さんなんですか?」 やっぱり、そうなるだろうな。 実際はそうなんだけど。 「あの人の子供です。付き添いで来てくれて」 「そうなんですねっ、ご友人と来られる方はなかなかいらっしゃらないのでとても素敵です」 微笑む店員のお世辞に素直に笑い返すことができなかった。 付き合っていますと言ったら、どんな顔をされるのだろう。 恐らく、奇異な目を向けてくる。 男と男が付き合うなんて世間的には普通じゃないんだ。 「おお、おかえり。悪いな、陸が暴れるから」 「いえ……良いやつが買えました」 「そうか、それは良かった。おい陸、少しはジッとしろよっ」 松本さんなら、どう答えただろうか。 陸のはしゃぎ具合は留まることを知らず、まるでオモチャ王国に来たように目を輝かせていた。 普段なかなか来ない家電量販店とはいえ、反応が初々しくて困る。 「陸、勝手に触ったらダメだろ? 落としたら大変なんだから」 「いいよってかいてあるもん!」 「それは大人がって事だよ。小さい子が何でもかんでも触ると危ないだろう」 「ボクおとなっ」 「はいはい。ほら、俺が取ってあげるから見たいものあったら言って」 松本さんと違って、こういう時どう言えば良いのかいまいち分からない。 他人の子であるのは間違いなくて、偉そうに叱るのもどうなんだろうか。 「ゆうしゃん、おこった……?」 「怒ってないよ。陸はまだ子供だから、勝手な事したらダメって言ってるだけだよ」 瞳をうるつかせる陸は苦手だ。 好きなようにさせてやりたい気持ちと、そうばかりはいかないという気持ちが交差して困惑してしまう。 松本さんは、5年も1人でこの悩みと戦ってきたのだろうか。 「陸もさわりたい……っ」 「触ってもいい。触ってもいいから、ちゃんと俺に言って? じゃないと、壊れたりした時に父さんがお店の人に頭を下げるようになるよ」 「パパが、あやまるの……?」 「そうだよ。別に欲しくない物だって買わないといけなくなるから、松本さんが困るし。それはイヤだろ?」 「いやだ……パパこまるのいやっ」 思わず口許がほころび、陸の頭をなでた。 優しい子だな…… 松本さんに似て、愛情深い。

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