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【抜けるほど愛してる】蒼月 月丸

「あぁっ!!もぉ!!何で俺がこんな事しなきゃなんねぇんだよ!!」 「大口開けて騒いでんじゃねぇ!!唾が飛ぶだろう!!」 「てめぇの方がうっせぇだろうが!!」 近所の神社を中心とした夏祭り。 商工会も積極的に参加をしている為、俺も店の手伝いとして毎年かり出されている。 今年も、去年やって大好評だったチョコバナナで参加中……俺は悲鳴をあげた。 もう朝から何本バナナを剥いたか!! バナナ臭いし、チョコの甘ったるい匂いに頭は痛くなるし! 「朝から何を大声を出してるんだ」 凛とした声が響いて……顔を上げるとこのクソ暑い中、涼しそうな顔をしてスーツを着た唯貴(ゆき)が立っていた。 「おう!唯貴か、土曜日なのに仕事か?大変だなぁ……哲太!てめぇも見習え!!」 「この祭りの為に休みとれっつったのは親父だろうがっ!!」 「お久しぶりです。おじさん」 和やかな笑顔は布団を売りつけられそうな嘘くささがある。 唯貴は昔からくそ真面目で、楽しければオールOKな俺とは真逆だった。 それでも小学生までは一緒に遊んでいたけど、中学に上がる頃にはあまり関わる事が無くなっていった。 と、言うよりも寧ろ目の敵にされる様になった。 風紀委員長をしていたあいつは服装検査や頭髪検査の度に俺ばかりしょっぴいた。 こそこそと隠れていても嗅ぎ付けてきて、追いかけられた。 その頃からこいつは俺の天敵となって……こいつの所為で内申点はがた落ちだ。 もちろん高校は別れ、フラフラしていた俺と違い、名の知れた大学へ行って、企業に就職した唯貴をよく引き合いにだされ、親にドヤされたもんだ。 カエルの子はカエルだから仕方ねぇだろうと思うが……それもこれも唯貴の所為だ。 「けっ!さっさとご出勤なされたらどうですかねぇ」 出来れば見たくなかった顔を朝から見る事になるとは……。 「へぇ……哲太でも作れるもんなんだ。チョコバナナって簡単に出来るもんなんだな」 唯貴が顔を近づけ手元を覗き混んでくる。 何かつけているのか爽やかな香りが鼻に抜けた。 「はぁ!?これでも俺の手際は他のチョコバナナ屋が尻尾を巻くレベルだぞ!?食ったら違いが分かるんだよ!」 果物ナイフを唯貴に向け挑発仕返すが、溜め息まじりにその手は払われ、 「仕事が早く終わって祭りに間に合えば、買いにきてやるよ」 唯貴は片手を上げてスタスタとスマートに去って行った。 くっそぉ……澄ました顔しやがって気にくわねぇ。 昔は俺の方が背も高くて、俺の後ろを『哲ちゃん、哲ちゃん』って、ついて回ってたくせに……。 ・・・・・・ 今回は出店場所の抽選結果が良かったのか、単純に祭りの客が増えたのか、祭り開始から客が途切れない。 在庫はあっという間になくなり、一日目は早めに切り上げた。 2日目……調子に乗った親父がバナナを急遽倍増させやがった。 バナナ……バナナ……バナナ……チョコ……チョコ……バナナ……バナナ。 気が遠くなる様な単調作業の繰り返しに買いに来た子供達に「これ以上買うんじゃねぇよ」と睨んでいると親父に頭を殴られた。 黙々とバナナを剥いて、串を刺し、チョコをつけて並べていく。 ……結局、唯貴は来なかった……別に来て欲しかった訳じゃねぇけどな! 先程からデートと思わしき男女が目の前を行き交う。 あぁ〜俺も可愛い彼女とお祭りデートしてぇ……。 浴衣姿の可愛い女の子達が目の前を通り過ぎていく。 「お姉さ〜ん!!チョコバナナ買ってってよ!何なら俺のバナナ食べてくれても良いけ……ぶっ!!」 「品のねぇ事、店の前でほざいてんな!!客が減るだろ!!」 親父に殴られた俺を女の子達が汚物を見る様な目で見ながら去って行った。 「祭りは楽しむもんだろうが!!ナンパぐらい大目にみろや!!」 ………人目につかない建物裏に移動させられた。 ジャリッと玉砂利を踏む音がして、顔を上げると白い浴衣姿の唯貴が立っていた。 「哲太……チョコバナナ……俺にも食べさせろ……約束したろ」 「ああ?食いてぇなら親父に言えよ」 頭を下げて、悲鳴が出せないほど驚いたのを隠しながら親父の店を指差した。 暗闇の中、真っ白な浴衣がオバケに見えた。 「……哲太のが良い」 「は?…………はあ!?」 唯貴はバナナと果物ナイフを持った俺の前にしゃがみ込むとズボンから俺のモノを取り出して咥えやがった。 「唯貴……てめぇ……く」 流石は男同士と言うべきか……ポイントを良く分かっておられる。 俺のモノを必死で咥える唯貴の睫毛がふるふる小刻みに震える。 最近ご無沙汰だった所為もあり……快感に逆らえない。 あの唯貴の口に……俺のモノが……チラリと上目遣いで見上げられた瞬間…… 「いっでぇぇぇっ!!!」 ナイフを思い切り握り込んでしまい、指から血が流れ落ちる。 「どうした!哲太!?」 俺の叫び声を聞いて駆けつけた親父は俺の手を見て心配するどころか頭を殴って来る。 「食べ物扱う奴が手を怪我してどうする!!もうてめぇはいい!!あっち行ってろ!!」 「手から血を流してる息子に心配の一言もねぇのかよ!!」 「そんくれぇでガタガタ騒ぐな!!今は一本でも多く売る事の方が大事なんだよ!!在庫として余らせる訳にいかねぇだろ!!」 こうして俺はお袋にサイズの合ってない絆創膏を貼られ、お袋にバトンタッチして邪魔だと追い出された。 唯貴はいつの間にか消えていた。 バナナの匂いをさせながら祭りで賑わう境内を降りて脇の獣道へ入った。 少し進んで祭りの喧噪が小さくなる頃、岩壁が現れる。 小さい頃……俺と唯貴がみつけた秘密基地。 穴とも言えない単なる窪み。 それでも小さい頃はワクワクして、放課後2人で林を探検しては笑い合っていた。 小さな窪みに置かれた古タイヤ……まだ残ってたんだ。 そのタイヤの上に唯貴が膝を抱えて座っていた。 唯貴は俺とケンカするといつもここで俺を待っていた。 唯貴の隣りに腰を下ろすと唯貴はゆっくりと顔を上げた。 「哲太……手……すまなかった……」 「あ?いいよ。大した怪我じゃねぇし、おかげでサボれるし」 それより先に謝る事があるだろう……。 唯貴はうな垂れて膝に顔を埋めて小さくなって何も喋らなくなった。 デカくなったクセに……こういう所は変わらない。 俺はここに来る前に屋台で買っておいたべっこう飴を唯貴の口に無理やり突っ込んだ。 驚いて顔を上げた唯貴の顔が綻ぶ。 唯貴の笑顔……久しぶりに見た気がするな。 「哲太……覚えてるか?小さい頃もこの祭りで迷子になって泣いてた俺に『泣くな』ってべっこう飴くれたよな……」 「あぁ……そんな事もあったかもな」 覚えてるも何も……俺の初恋だった。 今でこそ俺よりデカくなって顔つきも男らしくなったが……あの頃の唯貴はサラサラな黒髪にパッチリした目で本当に美少女みたいだった。 男と分かった時はショックを受けたが『哲ちゃん、哲ちゃん』と追いかけて来る姿に悪い気はしなかった。 「べっこう飴も嬉しいけど……俺は約束通り、哲太のチョコバナナ食べに来たんだ……最後まで食べさせて……」 ひやりと冷たい指が俺の頬に触れた。 その異様な程の冷たさに胸がザワリと騒いだ。 「唯貴……」 金縛りにあった様に体が動かない俺の唇に……冷たい唇が重なり舌が入り込んで来た。 「ん……んん……」 甘い……。 2人の舌の間で甘い飴が解けていく。 Tシャツの裾から入り込んで来た唯貴の冷たい手のひらが汗ばんだ体に気持ち良い……。 「ん……」 唯貴の歯が首筋を甘く噛む。 唯貴の手はスルスルと俺の胸から脇腹、そして下腹部を撫でながら、俺のズボンを下ろした。 「ま……マジで……やる気?」 ここまで来てその先が分からない程子供じゃない。 「駄目……?」 昔から唯貴のねだる様な目には敵わなかった。 それに加え、金縛りに囚われたままの俺の体は唯貴に抱き上げられて……唯貴の膝の上に乗せられた。 唯貴の舌が口内で蠢く……。 「あ……ぅむ……んん……」 キスなんて慣れた事なのに……男同士でもノリで何度もした事あるのに……唯貴とキスをしているという状況にひどく興奮させられる。 唯貴の手が俺の尻肉を割って……唯貴の猛りを押し付けられ……ちょっとその気になっていた甘い空気は吹き飛んだ。 「イッイデェ!!痛ぇよ!!抜けっ!!抜けよ!唯貴!」 世のゲイ達はこんな痛みに耐えてんのか!? 噛み締めた奥歯がギリギリと音を立てる。 「相変わらず色気が無いな……哲ちゃん」 「色気って何だよ!そんなもんあるかっ!!」 唯貴も痛いのか、眉間に寄った皺が色気を醸す。 これが色気か。 唯貴は苦悶の表情を浮かべながらも腰を動かそうとする。 「待って!!太いって!入らねぇってば!!」 「駄目……もう十分待った。もう我慢なんて出来ない……」 容赦なく肉壁を押し広げながら唯貴のモノが入り込もうとする。 「ひっ!あぁ……痛い…痛い!!唯貴ちゃん……」 白い浴衣にしがみつくと大きな手が俺の膝裏を大きく持ち上げた。 「哲太……力抜いて」 「分かんねぇよぉ……もう止め……ぅんんんっ!!」 目を開けて唯貴を見上げた瞬間、圧倒的な存在感で俺の中を唯貴のモノが貫いた。 一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、じわじわと痛みが追いかけて来る。 「痛い……酷い……酷いよ、唯貴ちゃん」 ボロボロ涙が子供みたいに溢れて、自分の意思では止められない。 こんなに痛いのに唯貴は抽送を始めた。 ゆっくりと抜かれかけたモノがまた奥まで入り込んで来る。 唯貴の膝の上で揺さぶられ、俺は痛みに泣きじゃくるしか出来なかった。 「俺の事、嫌いな癖に何でこんなことするんだよ……」 いや……嫌いだから嫌がらせでやってるのか? 「俺は哲太が好きだよ」 「嘘だ。中学上がった途端、俺に近づくなって……風紀検査で俺ばっか目の敵にするし……」 「だって俺、哲太しか見えてなかったし」 「高校だって勝手に遠いとこ行ったじゃんか」 唯貴の冷たい手が頬を包み込む。 「寂しかったのか?でも、あの時哲太には彼女がいただろ……側で見てるのが辛かった。ずっと哲太の隣りにいたのは俺なのに……あのまま哲太が側にいると襲ってしまいそうだったから離れたんだよ」 素直な哲太、可愛い……と囁かれて抱きしめられた体に、激しい突き上げを与えられる。 「あうぅっ!!やっ!!唯貴ちゃん!!あっ、ああっ!!」 「哲ちゃんっ!!好きっ!!」 抱きしめられ、唯貴の体がブルリと震えた……。 終わった……? この痛みからやっと解放される……そう薄目を開いた俺の目の前で……。 「べっこう飴……くれた時から、ずっと哲ちゃんが好きだった……」 ふわりと笑って……その笑顔は徐々に薄れ……消えた。 消えた……消えた……? ……ゆ・う・れ・い…… 「うぎゃあぁぁぁぁっ!!!」 腰の痛みも忘れ、足を縺れさせながらなんとかズボンをあげて親父の元へ走った。 「親父っ!!親父ぃ!!唯貴がっ!!唯貴が幽霊で!!オバケで!すぅって!!」 「煩せぇっ!!忙しいんだ!向こういってろ!!」 聞く耳持たず追い返された。 そうだ!唯貴……唯貴の家!! 唯貴の家のインターホンを連打するとうんざりした唯貴の弟が顔を出した。 「和也!!唯貴、唯貴はっ!?」 「兄貴ならいま入院してる」 「入院!?昨日はピンピンしてたぞ!?」 「昨夜、階段から落ちて救急車に運ばれたんだよ」 階段……救急車……? ハラハラしなが聞き出した病院へと自転車を飛ばし、面会時間ギリギリに病院へ飛び込んだ。 廊下で見覚えのある人物を見つけて駆け寄った。 「おばさん……」 「哲ちゃん……来てくれたの?唯貴も喜ぶわ」 おばさんの目尻に溜まった涙にドクドクと心臓が大きく脈打つ。 おばさんは下のコンビニに用が有ったらしく、教えて貰った病室へ一人で向かうと、ベッドに横たわる唯貴の横顔が見えた。 「唯貴!!何で!?何で死んじまったんだよ!!」 病室に飛び込み、その胸に覆い被さった。 「あんなやり逃げなんて狡い!!言い逃げなんてふざけんな!!俺はまだ何も答えて無いっ!!」 わんわん泣く俺の頭が誰かに叩かれた。 「病院で大声出すな……迷惑だろう」 冷めた目に迷惑そうに睨まれる。 「へ……唯貴……生きてる?」 「勝手に殺すな……寝ていただけだ」 唯貴は大きくあくびをした。 「へ?寝てた?だって……幽霊……え?」 疑問だらけのまま、面会時間は終了して大声を出していた俺は逞しいおばちゃん看護師さんに引きずり出された。 次の日、そわそわしながら仕事を終えて病院へ向かおうとしていると、唯貴が病院から帰って来たところに出くわした。 「もう退院したのか?」 「一応頭を打ってたから検査で入院していただけだからな」 そういう唯貴の頭にはまだ包帯が撒かれていた。 「なぁ、本当に生きてるのか?本物?」 唯貴の足を確認してみたがちゃんとあった。 「取り敢えず、部屋に上がるか?」 家の中へ入る様に促され、素直に従った。 久しぶりの唯貴の部屋。 小さい頃とは違って暗めのトーンの落ち着いた部屋……思わずキョロキョロと見回した。 「悪いな……まだ本調子じゃないんだ」 俺に断り唯貴はベッドに横になった。 そんな中、押し掛けて悪いとは思うけれど、確かめずにはいられなかった。 「なぁ……救急車に運ばれたって……何があったんだ?生死の境をさ迷ってた……とか?」 「2日前の夜中、会社の帰りに神社の階段から落ちて救急車に運ばれたんだ。受け身は取ったから大事には至らなかったが、それでも頭を打ってたからな。一応入院させられた」 大袈裟なんだよ……と唯貴は自分の頭を撫でた。 良かった、元気そうだ。 幽霊を見た身としては気が気でなかった。 「何でそんな遅く神社なんかに……」 「お前のチョコバナナを買いに行く約束してただろ。予想外に遅くなって……でも一応行ってみた」 約束って、あんな一言の為に……。 「でも……階段から落ちるとか結構ドジなんだな」 喜んでいる自分を誤魔化すように悪態をついた。 「バナナの皮……すべった」 「……へ?ネタ?」 バナナの皮って……まさか。 ダラダラと冷や汗が溢れ出した。 不当労働に、遊べない欲求不満、来ると言っていた唯貴は姿を現さない……イライラしながらバナナの皮……結構適当にゴミ袋に投げ込んでた。 片付ける時も袋を引きずってたし。 落としたのは……俺か? 「何であんな所にバナナの皮が落ちてたんだろうな?」 あ……この目は確信してる目だ。 「ごめん……俺……かも?」 俺とは断言出来ないが、俺でないとも言い切れない。 「暗くて慌ててたからな……まぁ、俺の不注意だ」 頭を下げた俺に唯貴はクスリと小さく笑い……ドキドキ胸が高鳴る。 そう言えば俺、唯貴とセックスして告白までされたんだった……幽霊にだけど。 魂だけ抜け出して……会いに来てくれたのか……。 「でも……幽霊になってまで来るって……どんだけ真面目だ」 「は?幽霊?」 自分が幽霊になってた記憶はないのか。 「そうだよ……幽霊になって祭りに来たじゃん」 「え……うそ……あれは夢で……まさか……」 唯貴にとって夢の世界の事だったのか。 顔を真っ赤にして慌ててるって事は……やった事を覚えてんだよな。 唯貴の事を好きかどうか……なんて分からない。 けれど初恋。 唯貴に触られてドキドキした。 痛かったのは嫌だったけど、唯貴としたのは……嫌じゃなかった。 元々深く考えるのなんて得意じゃない。 言おうか……言うまいか……悩んで悩んで俺は顔を上げ……る事は出来ずに、視線をそらしたまま唯貴の布団を掴んだ。 「……傷物にされたんだ……責任、取ってくれるよな?」 俺の言葉に一瞬目を見開いた唯貴は……嬉しそうに微笑んだ。 「そうだな……責任取るよ……ずっと側にいて下さい、哲ちゃん」 温かな唇が俺の唇を包み込んだ。

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