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【チョコバナナは恋の味?】SIVA

八月中旬。 金城嵐太(きんじょうあらた):「うぅわっちぃー!!!んだよこの暑さ…やる気なくすなぁ」 金城紀夫(きんじょうのりお):「おらさぼってねぇで準備しろってんだ。お前が寝坊したお陰でばったばたじゃねぇか」 嵐太:「いて!ケツ蹴りすんじゃねぇ!オラァ」 紀夫:「ってぇな!おめぇやり返すにもほどってもんがあんだろ!」 入道雲が遥か彼方に見える中、稲荷神社では年に一度の祭りの準備が進められている。 がたがた大きな音を立て文句をたれているのは金髪で健康的な肌の青年、息子の嵐太(あらた)。その前で尻をさすりながら包丁とまな板を取り出しているのが父親の紀夫。 嵐太は実家の仕事を手伝いがてら夏祭りの時には出店を出してチョコバナナを売っている。 昔より随分と減ってしまった出店だが、がそれでも毎年欠かさず出店している店があった。 ほかのどの店よりも列ができ老若男女に人気なその店はどこの祭りでもある至って普通のチョコバナナの店。 紀夫:「おい嵐太。ここに置いておいた包丁何処やった」 嵐太:「んなもん知るか。俺はずっとこっちにいたんだよ」 首をひねりながら辺りを見まわしていると ??「相変わらず賑やかいですね」 声のする方へ視線を向ける二人。 嵐太:「お、おぉぉぉぉ!!!颯天(はやて)ぇ!!!え?何?いつこっちに帰ってきたんだよ。帰る時は連絡しろっつてんだろぉ」 紀夫に向かって包丁のある場所を指さしながら苦笑いを浮かべているスーツ姿の男、奥村颯天(おくむらはやて)。 紀夫:「おぉ。久しぶりだなぁ颯天。店はまだだが、バナナ食べるか?」 紀夫はそう言ってまだ皮をむいていないバナナを差し出す。 両手を上げて遠慮する颯天はちらりと奥にいる嵐太をみる。 颯天:「お前そのカッコ……」 颯天に言われ自分の格好を改める嵐太。 嵐太:「ん?なんだよ。ハーパンにエプロンだってあちーんだからなー何ならなんも履かなくても―――――颯天:「それはやめろ」 気を取り直した颯天は口元を隠しながら視線を逸らし「別にその格好だっていいけど、恥ずかしくないのかよ」とつぶやいた。 嵐太:「別に人の格好何て誰も見ないってぇ。それよりほれ」嵐太は剥きたてのバナナを割り箸にさして颯天の口に押し込んだ。 颯天:「んごっ!!」 嵐太:「バナナ克服できたか?」 颯天:「んな、何をいきなり……」 割り箸を持ちながらバナナを一口頬張る颯天は眉間に皺を寄せている。 颯天:「……」 嵐太:「ってかお前は暑そうな格好してるな。ネクタイってしなくてもいいんじゃねぇの?クールビザ(・・・・・)ってやつ?」 颯天:「クールビズ(・・)な。なんでビザになるんだよ馬鹿か。俺はこうじゃないと落ち着かないんだよ」 嵐太:「へぇへぇそうですか。ん。こっちは甘いバナナだ。チョコたっぷりかけといたぞ」 満面な笑みを浮かべバナナを差し出すと、颯天はドロッとかかった出来立ての茶色い液体を人差し指で少し舐めとりながら「あっち……ん、やっぱお前が作るバナナチョコなら食べられる」そう言って人差し指を口に入れ込んだ。 嵐太:「なんかその仕草エロ」 颯天:「なっ!!!」 突然言われ思わず赤面する颯天。 嵐太:「なぁもっかいやってくれよ今の。すげーエロかった!!!」 颯天:「や、やるわけないだろ。チョコバナナ、旨かった。ありがとう。おじさんそれじゃ屋台頑張ってください」 颯天は紀夫の返事も聞かずに立ち去ってしまった。 嵐太:「なんだ??」 紀夫:「お前また変な事言ったんじゃねぇだろな?」 嵐太:「別に言ってねぇし。祭りが始まったら迎えに行ってやるか」 *** 太陽も暮れ、灯篭に灯りがともり稲荷神社は地元町内の人達や、他の町内から来た人たちで賑わいを見せ始めた。 嵐太:「やい、親父!ちょっと颯天迎えに行ってくるわ」 紀夫:「やいって言い方が気に食わんが、こっちはいいから颯天と一緒にお稲荷さんにちゃんとお参りしてこいや」 嵐太:「あぁ?不愛想極まりない親父が売り子って商売成り立つのかよ」 紀夫:「うっさい!お前が帰って来るまで持ちこたえてやるわ!」 紀夫は嵐太の尻を蹴り上げながら見送った。 嵐太:「くそ親父の蹴りはいてぇんだよ」 尻をさすりながら颯天の家に向かった。 嵐太:「はーやーてー!祭り行こうぜ!?」 玄関のインターホンを鳴らし声を上げた。数歩下がり颯天の部屋だろう場所に視線を向けると電気が消えたのが見えた。 思わず口元が緩んだのを自覚しながらまた一歩下がり颯天が出てくるのを待った。 颯天:「行ってきます」 ゆっくりと扉が閉まり門の外に出てきた颯天は目の前にいる嵐太の格好にまた目を丸くした。 嵐太:「店抜けだしてきたんだからそのままの格好で当然だろ。そういうお前だってスーツのまんまじゃん」 颯天の言いたいことが分かったのか先に言われてしまい口をつぐんだ。 ニッとはにかんで「行こうぜ」そう言って先を歩く嵐太の背中を見ながらまた頬を赤らめる颯天は「はぁ……」とため息を漏らしながら後を追いかけた。 稲荷神社につき賑やかな人の声や祭囃子の音を聞きながら「この風景は小さい頃から変わらないな」ふと漏れた颯天の声に見上げる嵐太。 颯天:「ん?」 自分の発言が無意識だったのか、嵐太が自分を見ている事にキョトンとした顔で首を傾げた。 嵐太:「や……なんでもない」 颯天:「お参りしていこう」 嵐太:「おう、そうだった親父にも言われてたんだ。お参りして早く店に戻らないと」 二人は賑やかな参道を抜け灯篭の灯りだけになっている神社の中を歩いた。 颯天:「嵐太と二人でこうやって歩くのも久しぶりだな」 嵐太:「だなぁ。俺は何時でも一緒に歩けるけどなー」 雲一つない満点の星空が散りばめられている夜空を見上げながら嵐太は当たり前のように言った。 その言葉が颯天はドキッとなりながら生唾を飲み込んだ。 密かに思い続けていた気持ちがついに幼馴染にバレてしまったのかと思い視線を泳がせていた。 嵐太:「んぉ?どーしたー?颯天」 いつの間にか隣に歩いていたはずの嵐太が先にいて、自分は歩くのをやめていた。 颯天:「あ、あぁごめん。なんか目にゴミが入ってさ……」 嵐太:「まじ?大丈夫かよ」 心配そうに近づいてくる親友に罪悪感を覚えながら背中を向けた。 嵐太:「おい、マジ大丈夫かよ」 颯天:「大丈夫だから、お堂の方、いこ」 距離を取りながら先を行く颯天の後ろを今度は嵐太がついてくる。 普段は会話何てなくても気まずいと思事なんてなかった二人。 嵐太:颯天(……き、きまずい……) 二人は同時にそんな事を思っていた。 沈黙を破ったのは颯天の方だった。 颯天(はやて):「なぁ嵐太(あらた)。お前好きな子とかいないの」 どうしてか聞かずにはいられず口にしてしまってから、後悔することになった。 嵐太:「いるよ。ずっと昔から好きな人が」 やっぱり、そう口にしたかったのに「……そう、なんだ」それが颯天の限界だった。 もう自分の気持ちは押し隠して応援するしかない、そう考えた。 嵐太:「でもさ、俺的には結構アピってるつもりなんだけどな?全然気が付いてくれねぇわけよ」 ちらりと視線を颯天に向ける。颯天はしゅんとした表情で地面を見つめている。その手はぎゅっと握り拳を作って……。 ゆっくりとした足取りでお堂の前に到着した二人は賽銭を投げ入れ目の前の鈴をガラガラと鳴らし二例二拍手してからしばらく手を合わせ、それを終えると深くお辞儀をしてお堂に背を向けた。 嵐太:「何話した?」 颯天:「近況報告」 嵐太:「ぶはっ!なんだそれ」 帰り道はいつもの通り、わちゃわちゃとくだらない話をしながら出店まで戻った。 途中の金魚すくいのおっちゃんに嵐太が捕まり片手に三匹の金魚が入った袋を顔の前に垂らしながらニヤニヤとしている。 その視線の先に棒飴を口に入れながら他の出店を見て歩く颯天を捉えている。 嵐太:「好きってお前のことなんだけどなぁ。気付かないもんかね……」 パクパクと口を動かしながら嵐太を見ているようで見ていない…なそんな角度で金魚は泳いでいる。 嵐太:「まるであいつと一緒だな」 颯天:「嵐太、お前の所の店列が出来てる」 嵐太:「うぉっ!まじだ!親父のタコになった顔が目に浮かぶぜ。颯天!ちょっと行ってくる!」 颯天:「うん……あ、嵐太」 走る動作に入っていた嵐太は体を前のめりにさせながら振り返った。 颯天:「落ち着いたらっていうか、終わってからでもいいんだけど……話たいことがあるから」 嵐太:「今言えないのか?」妙に真剣な眼差しの颯天を見て嵐太はそう聞き返していた。胸騒ぎを覚え後でじゃいけない気がしていた。 姿勢を戻し、颯天と向き合って嵐太は颯天の次の言葉を待った。 颯天はそのあとを切り出そうとはせずただ黙って棒飴を舐め始めた。 見かねて棒飴を持っている腕を掴んだ。その拍子に飴が口から外れその飴を嵐太が舐めるのを見た颯天は目を見開き驚いた。 しばらく何が起きたか分からなかったが目の前の嵐太の顔を見ていたら自分の気持ちにかけていたストッパーが音を立てて外れた気がした。 颯天:「ずるい」 ぎょっとした嵐太は颯天の大胆な行動に固まっている。 なにがずるいのか、なにがどうなって唇がつきそうなくらいの距離に自分たちはいるのか頭が真っ白になった。 嵐太:「えっ……と……」 颯天:「……嵐太が悪いんだ」 嵐太:「いや、いやいやいやいやいやいやちょいまち。え、ん?俺が悪い?何が?」 近距離のまま会話が続く。 颯天:「気持ちは伝えるつもりはなかったんだ」 嵐太:「うん、う、ん?」 颯天:「はぁ……」 颯天は大きくため息を漏らした。 颯天:「嵐太。もう限界」 嵐太:「なにが?」 颯天:「店が終わってからじゃ気持ちが溢れてしまうから、今言わせてくれ」 嵐太の鼓動は颯天に聞かれてしまうんじゃないかってくらいどくどくとなっている。 颯天:「嵐太。俺嵐太の事がずっと好きだった」 嵐太:「は?」 颯天は真っ赤な顔をしながら、小さく頷いた。 嵐太:「あぁ……えっと……ずっとって?」 颯天:「ずっとだよ。昔から。でも気持ちは言えないでいた」 嵐太:「なんで」 颯天:「だって嵐太、好きな人いるって言ってたから……」 嵐太:「確かに。でもそれはっ……待って。え、まじ?嘘じゃない?ジョーク?からかってる?」 颯天:「冗談で言えるほど、俺に余裕があると思うか?」 嵐太:「クソ真面目な颯天が嘘つけるわけないし、ジョークを言える程ボキャブラリーがあるわけないもんな」 颯天:「ちょっと言い過ぎじゃない?」 嵐太:「あぁ!ごめっ!悪気があって言ったわけじゃないんだ!」 クスクスと小さくわらう颯天につられ嵐太も小さく笑う。 近づきすぎる距離に気づいた颯天がようやく我に返り勢いよく離れた。 押される形になった嵐太はよろけながら棒飴を咥え颯天をみつめた。 颯天:「返事は別にいらない。ただ俺の気持ちを伝えておき────嵐太:「好きだ」 ニッとハニカミ颯天を見る嵐太は嬉しそうにしている。 嵐太:「俺の好きな人ってお前だもん。お前の告白に嬉しすぎて『俺だって大好きだぁぁぁ』って発狂したいくらい、今めちゃめちゃテンション上がってる」 まさかの返答に言葉が見つからない颯天。 嵐太:「チョコバナナ美味いって食ってくれるあの顔がずっと忘れられなくて、エロ過ぎる顔にキスしたくて堪らなかった」 颯天:「……」 一歩近づき颯天の手を取り 嵐太:「やっと両想いだ」 その言葉が妙にしっくりきて颯天は深く頷いた。 *** 後ろ手にこっそり恋人繋ぎをしている二人を見つけた嵐太の父紀夫は大きな声で息子を呼ぶ。 その声に面倒くさそうにしながらも返事を返す嵐太を見ながら「後で親父さんには事情を話した方がいいね」と言った。 嵐太:「真面目か!んなん別にいいって。あいつはきっと全部わかってるから」 隠していた手を前に出し堂々と店の前に立った。 颯天:「ちょっ……あ、嵐太」 紀夫:「やぁぁっと帰ってきたか!早く店まわせぇ!くそ息子!」 嵐太:「あぁん!?誰がくそ息子だ!これ見ろっ!いいだろ!俺にもようやく春が来たぜ!もう夏だけど……親父より先に恋人ゲット!」 嵐太は繋いだ手を高く掲げて紀夫に見せつけた。 顔から火が出るほど恥ずかしい颯天は、チョコバナナを買い求める客の目を気にしながら手を急いで下ろした。 颯天:「あ、後で事情はお話しますから」 紀夫:「くそぅ。嵐太に先こされちまったか……颯天!だったらお前も店ぇ手伝え!」 颯天:「え、えぇっ!?」 嵐太:「お前の好きなチョコバナナ、たんまり食わせてやるからなっ!」 颯天:「……既に胸焼けしそうだ……」 店はまた一段と賑をみせ稲荷神社祭りの名物店になったのは言うまでもない。 ……fin

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