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【アンバーカラー・ドロップキャンディー】結月みゆ

――――そのメールは突然送られてきた。 『今度の日曜日、夏祭りで屋台出すから遊びに来いよ!屋台、お前の大好きなチョコバナナだぞ!いっぱい用意しとくからさ!ぜってー来いよ!』 差出人は……花守 尚(はなもり なお) もうかれこれ数年前から連絡を取っていない幼馴染みだ。 これ、絶対メール送る相手間違えてるよな…… そもそも俺、チョコバナナ好きなんて一回も言ったことないし、いっぱいて……子供じゃあるまいし。 それにしても文面からも滲み出るチャラさは相変わらずだな…… 多少の懐かしさを感じながらも、眺めていたスマホを胸ポケットへと仕舞うと、小さくため息を吐いた。 ** 俺、黒河 慶介(くろかわ けいすけ)と尚の家は隣同士で幼稚園から高校生になるまでずっと一緒だった。 俺たちが住む町は田舎でとても小さな町だったこともあり、高校まではみんな同じ所へ通う。 もちろん俺たちも高校までは一緒で、その先は俺は他県の大学、尚は地元で就職と別々になった。 「慶介は頭もいいし、大学行けよ。俺めんどくせーから地元で適当に就職する」 いつだったか、そんな会話をしたのを覚えてる。 あれも確か、夏祭りに一緒に行った時だったな。 あれ、何年前だろう…… それから俺は大学卒業後、地元には帰らないまま就職をしてしまった。 就職をして数年、それなりに責任ある立場になり、毎日に疲れていたある日に突然届いた尚からのメール。 違う誰か宛かもしれないけど、久しぶりに帰るのも悪くないかと、俺は夏祭りの日に地元に帰省することに決めた。 ** 「おーい!慶介!久しぶりー!スーツで祭りとか相変わらずくそ真面目だな!」 急な休日出勤からの帰省でスーツ姿のままだった俺を見つけるやいなや尚が駆け寄ってきた。 「大声出すな、休日出勤だったんだよ。つーか、メール間違えて送られてきたぞ」 「メール?あぁ、LINE知らないし、メールしたんだよ、メアド変わってなくてよかった~」 「あれ、俺に送ったのか?間違いじゃないのかよ」 「違うよ、慶介に会いたいから送った。そんなことよりさ、ほら、チョコバナナ!」 さらっと流されたけど、尚がぽつりとこぼした一言に少しだけ動揺してしまった。 「なぁ、慶介?聞いてんのか?」 相変わらずな尚が二本のチョコバナナを差し出しながらしつこく聞いてくる。 「き、聞こえてるよ。久しぶりに会っていきなりチョコバナナかよ」 「へ?いいじゃん別に。相変わらず真面目だなって秒で分かったし」 「秒って……つーか、お前その格好なんとかしろ。上半身裸だし……」 上半身は裸で、ハーフパンツにエプロン姿の尚は同性の俺から見てもなんというか…… 「裸じゃねーよ、エプロンしてるしー」 「そういう問題じゃないだろ」 「相変わらず真面目だなぁ、お前。あ、さては……俺見て欲情した?」 「はぁ?!するかよ、馬鹿!」 エプロンの裾をヒラヒラとさせながらおかしなことを言う尚を一喝して、手に持っている二本の内の一本を奪った。 昔からそうだった。 尚は俺のことなんてお構い無しにズカズカと俺の領域に踏み込んでくる。 でも、それが嫌なわけじゃない。 だから厄介なんだ…… 人の気も知らないで……まったく…… そんなことを思いながら、それを一口、二口と味わっているとなんだか懐かしい気分になってくる。 「甘っ……」 「でも美味いだろ?」 「ああ……」 「あ、なぁ、ちょっと場所変えない?」 「え、店いいのかよ」 「俺の他にも手伝いいるし、一人くらいばっくれたってバレないって」 人混みを掻き分けるように、それを持っていない方の手を取られ、尚に手を引かれ俺たちは歩き出す。 神社を拠点に屋台が並ぶ真っ直ぐな大通りを逆走するように歩き、だんだんと人も疎らになってきて、さすがに心配になってきた俺は尚に声をかけた。 「なぁ、どこまで行くんだよ」 「いいところ。花火がすげーよく見える特等席連れてってやる」 「花火?」 「もうすぐ始まるんだよ」 そう言えば、駅に降り立った時に見かけた祭りのポスターに花火って書いてあったかも…… 「花火……久しぶりだ」 「だろ?ずっとさ、また一緒に見たいって思ってたんだ……」 少し前を歩く尚が、静かにそんなことをぽつりと呟く。 「尚……」 どう返事をしたらいいか分からないままの俺の声を遮るように、尚がすかさず口を開く。 「ほら、ここだよ!よく見えるだろ?」 いつの間にか着いたその場所で、尚の声の先に視線を移すと、神社の真裏に位置する場所からちょうど綺麗な花火が見えた。 「ほんとだ……」 「な?ほら、こっち座ろうぜ!」 夏祭りの賑やかさが遠くに響き、周りにも人は誰もいない。 聞こえてくるのはズドンッという花火の定期的な音と地響き。 そして、嬉しそうにチョコバナナを頬張る尚。 「お前、美味そうに食べるよな」 「……ん?ほうか?」 ほうかってなんだよ……なんか、可愛いな…… ふと、そんなことを思った自分にびっくりしていると、尚が不思議そうにこっちに身を屈めた。 「お、おい、近い……」 「なんだよ、今更恥ずかしがるなよ~」 「ちがっ……て、こっち来るなっ」 昔からスキンシップは激しい奴だったけど、それも相変わらずで、そんなこいつといると少しずつ一緒に過ごした時間を思い出す。 あの頃俺は…… 「慶介……どうした?なぁ?」 「え……いや、なんでもない。あ、そうだ……こ、これやるよ」 自分の気持ちを思い出す前に、無理やり話を逸らすようにさっき買ったそれを尚の口の中に突っ込んだ。 「ん?!あまっ!」 「べっ甲飴……さっき買った。これ見てたらなんかお前思い出してさ」 くまのダイカットの琥珀色の飴を見かけた時、尚になんとなく似てて買ってしまった。 そうだった…… 今日みたいに夏祭りに来たあの日、尚と進路の話をしている時、俺は自分の気持ちに気づいてたくせにそれを口にすることはしなかった。 俺とは正反対の尚のことを違う意味で好きだと自覚したあの日。 『慶介は大学に行けよ、俺……馬鹿だからさ、大学なんて無理だし地元に残って適当に就職するから』 なのに、そう言われて、俺は何も告げられないまま自分の気持ちに蓋をしてしまった。 そうだ、あの時も二人して飴を買ったんだった。 「なぁ、尚……」 「慶介……俺さ、久しぶりにお前に会えて嬉しかった!ずっとさ、会いたかったんだよ!」 「それさ、さっきも聞いたな」 「だよ……な……。えっと……俺……」 飴を頬張りながら屈託のない笑顔で必死に話す尚と、夏祭りというイレギュラーなイベント……そして、ぶり返す想い。 色んな想いが……なんて言うか…… ――――俺の中の何かに触れた気がした…… 「え……今……慶介?」 飴を咥えたまま固まってる尚の後ろで色鮮やかな花火が見える。 「……ずっと、好きだったんだよ……尚のこと」 ……気づいたらそう口にしてた。 「う……そ……」 「嘘じゃない。高校時代の頃からずっとな。言わないまま想いに蓋をして今までいたけど、久しぶりにお前に会ったらさ……我慢できなかった。ごめんな、今更言われても戸惑うし……そんな目で見てたなんて……気持ち悪いよな」 言ってしまったものはしょうがないともう一度謝ろうとした次の瞬間、俺の耳には信じ難い言葉が聞こえてきた。 「お、俺だって……慶介のこと……ずっと好きだった……だから……」 そう口にした尚が、「だから、嬉しい」と呟き照れくさそうにしている姿が花火の明かりに照らされて一瞬だけ見えた。 ** 「……あのさ、お前……そんなキャラだったっけ……ッ……て、そこ……やだッ」 「は……ッ?」 「意外と……ん、……ッ……性欲……強い」 「……ッ……淡白そうに見えて、実はそう、かもな……ッ……おい、締め付けるなって……」 自分でも性欲は強い方ではないと思っていた。だけど、尚を前にするともっともっとと求めてしまう。 だから、いい年して青姦とかどんだけ我慢出来ないんだよと苦笑しながらも、高く伸びた草に隠れるように誰もいないその場所で俺は夢中で尚を抱いた。 今までの想いを流し込むように何度も何度も尚の中に吐き出すと、声にならない声をあげながら「もっと」とせがまれる。 「……慶介……ッ……もっと、ちょうだい……ッ」 「お前、エロすぎだろ」 ハーフパンツと下着をずり下げ、裸エプロン状態の姿で俺に感じている尚を見下ろしていると、中に埋まる俺のモノが更にデカくなる気がした。 「も……んッ……大っきい……ッ……また、イく……ッて」 「……俺も……ッ……ヤバい」 「あ、んッ……気持ち……ッ……いいッ」 「あぁ……ッ……俺も」 突き上げる速度を上げると尚の声が一際大きくなる。 「もうちょい声……抑えろって……ッ」 「だって……ッ……激しッ……あ……あ、んッ」 誰もいないとはいえ、些か心配になってきた俺は声をキスで口を封じると、そのまま腰を振り続けた。 そしてお互いが限界まで行くと、尚の中へと再びそれを流し込むと同時に尚も熱を吐き出す。 「あ、……ッ……慶介……好き……ッ」 「尚……俺も……ッ……好きだ……」 絶頂の中で告げられた言葉の意味を噛み締めながら、俺も同じように返すと、尚は幸せそうな表情を浮かべた。 ** その後、尚から聞いた話では、俺たちが初めて出会った時……多分、幼稚園児だった頃、俺は「一番好きな食べ物はチョコバナナ!」だと言っていたらしい。 「俺、全く覚えてない……」 「マジかよ」 だから……そういう事だったのか…… 「慶介?」 「いや、何でもないよ」 そんな昔のことを覚えてるくらいにお前は―――― 「尚、ありがとな……」 END 感想はこちらまで→ 結月 みゆ(@miyu19790244)

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