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「…なぎば…ゃなぎば…柳葉!!」 俺は、体を揺すられる感覚で目を覚ました。 「…?」 「柳葉!しっかりしろ!なんかあったのか?」 ぼやっとした視界の中目を凝らすと、自分の肩を揺らす酷く焦った顔をした森がいた。 焦った顔もイケメンだな。なんて、思考はボヤけて現実味を帯びない。 「…も…り?」 「あぁ。大丈夫か?何があった?」 心配そうに森が顔を覗き込む。 ぼんやりとその顔を見つめた。 頭がふわふわして思考が回らない。 「…っぁ」 キュッと喉が閉まる感覚がした。 「しっかりしろ、柳葉!」 肩を掴んでいる森の力が強まる。 右肩に鈍い痛みが走って、ようやく頭が現実に戻る。 「ひっ」 俺は、森の手から逃れるように力任せに後ずさる。 俺の中に戻ってきた思考は、強い恐怖感だった。 「…柳葉?」 「…ゃだ」 俺の体がガクガクと小さく震え始める。 俺はトイレの端っこで身を小さくして頭を抱える。 「柳葉?どうし…」 パンっ 軽い音が響いた。こちらに差し出される森の手を無意識に振り払っていた。 「…さぃ…ごめんなさぃ…」 体の震えが徐々に大きくなっていく。 頭では、目の前にいるのは森だとちゃんと理解しているはずなのに心が頭について行かない。 どうしても、さっきの男の面影を重ねてしまう。 どうやら俺は、深い恐怖心を植え付けられてしまったらしい。と心のどこか冷静な自分が分析した。 ガクガクと体の震えは止まらない。 息が苦しくなっていく。 喉がひゅっと音を立てる。 「柳葉…?」 「ごめん…なさぃ…ごめん…さぃ…おねがぃ…やめて…」 頭の中で男の狂った顔が再生される。 それが更に恐怖心を煽った。 何度も俺の名前を呼ぶ森の声が不快に耳を撫でる。 嫌だ。気持ち悪い。辞めて。 もう空っぽのはずの胃からまた、吐き気が込み上げる。 「柳葉、落ち着いて…」 森の手が俺に向かって少し伸びる。 俺の体はそれ以上に震え、体を縮こませる。 俺の肩に触れかけた森の手が、ぎゅっと握りこまれた。 …殴られる。 とっさに目を閉じて奥歯を噛み締める。 「玲っ!」 そう聞こえた後に、肩をガっと掴まれる。 体がビクッと震えるが、俺が逃げるより先にグイッと引き寄せられた。 「…ぁ」 力なく前に倒れた体は、硬い胸板で受け止められた。 そのまま苦しいほどの力で抱きしめられる。 「玲…落ち着け。深呼吸して。大丈夫。ここには俺しかいないから。」 そう言いながら俺の背中をゆっくり撫でる。 森より一回り小さい俺は、森の胸に埋まる。 爽やかなフローラルな香りが鼻を撫でた。 苦しいほど抱きしめられた俺は、その温もりでようやく少しずつ冷静さを取り戻す。 「…」 体の震えがやんで行く。 でも、森の腕の力は一向に緩まらなかった。 「玲…落ち着いた?」 俺の肩に頭を載せた森が低い声で呟いた。 耳にかかる吐息が擽ったい。でも、心地よく感じた。 「ぅ…」 目頭が熱くなるのを感じた。 じわじわと目に涙が溜まる。 喉と鼻の奥がツンと傷んだ。 「…」 森は背中を撫でていた手で子供をあやす様に俺の頭を撫でた。 いつもは煩わしいはずなのに、頭を撫でる森の手に今は救われていた。 「ん…ふっ…あぁ…ひっ…うぅ…くぅ」 堪えようとすればするほど、変な鳴き声が漏れた。 でも、森は笑いもしないでずっと頭を撫で続ける。 そのせいで余計に涙が止まらなかった。 「あぁぁああっ…ひっ…うわぁぁぁっ…んっ…」 俺は、もう堪えることも忘れて森の胸の中で子供のようにワンワン泣いた。 涙は止まることを知らなかった。 森はずっと頭を撫で続けていた。 俺はこの日、ようやく涙を流せたのだった。

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