体の中のありとあらゆる水分を流したところでようやく俺の涙は止まった。 どれぐらい泣いていたのだろうか。 目は重く腫れていつもの半分しか開かない。 すがりつくように泣いていた森の胸元は俺の涙と鼻水でびしょびしょだった。 ｢ごべん…｣ 泣いたせいで鼻が詰まって上手く話せない。 泣いてスッキリして少し冷静になった俺は、ようやく森から離れた。 自分の手に視線を落とすと、さっきより随分と震えが収まっているように見えた。 ｢落ちついた？｣ 優しい声色の森がそう訪ねるので、俺は力なくコクリと頷いた。 そうすると、小さく｢よかった…｣と呟いて立ち上がる。 ｢じゃぁ、俺着替えてくるから出てこれる状態になったらリビングおいでよ。｣ そう言って、森はトイレを出ていく。 1人取り残された俺は、部屋の中だと言うのに何だかすごく不安でそれが原動力となった。 俺は、クシャクシャになった顔を洗って風呂場で軽くシャワーを浴びる。 俺に残った男の液を身が擦れるほど擦り落とす。 着ていた制服を洗濯機に突っ込んで近くにあった部屋着に腕を通す。 そして、バタバタと足音をたてながらリビングに入った。 森はとっくに着替え終わっていた様でちょうど両手にマグカップを持ってキッチンから出てくるところだった。 俺はその姿に何故か大いにほっとして少しだけ口角があがる。 森が目でソファを促したので腰を落とすとすぐ横に森も腰を落とす。 ｢ココア、好き？｣ さっきまでの焦った顔も困った顔も優しい顔もしていなかった。 初めて会った時同様読みずらい無表情の顔だった。 でも、声色はさっきのそのままで優しくてそのちぐはぐ感が少しおかしい。 ｢…ん、好き。｣ そう言って、森からココアを受け取った。 鼻をココアのいい匂いがくすぐる。 俺は、ゆっくりとココアを啜った。 俺はココアなんて普段は飲まないから、森が持ってきたものなのだろう。 ｢…何があったか聞いていい？｣ 俺の目を真っ直ぐ見て森が尋ねた。 俺はその瞳と数秒見つめあって節目がちに目を逸らした。 ｢…強姦…された…｣ 油断をしたらまた泣きだしそうな程に声は弱々しくしか出なかった。 驚いたのか森は数秒動きがフリーズしていた。 ｢…誰に…って聞いていい？｣ ｢分かんない…多分…3年の…ラグビー部の人｣ 俺は思い出そうと頭の中にさっきの光景を浮かべた。 体がまたガクガクと震え出すのが分かった。 ｢3年…学校の人？｣ ｢ぅん…俺…怖くて…力…強くて…なんも…適わなくて…｣ ｢うん｣ 横で森が眉を寄せる。 そんな顔をさせたくて話している訳じゃない。 そう思うのに、また押しつぶされそうな恐怖心に見舞われる。 ｢それで…俺、なんも出来なくて…怖くて…痛くて…でも…やめて…もらえなくて…｣ 口の中で言葉をつなぐ。 ｢それで…気づいたら…レイプ…されてた…｣ ｢うん｣ マグカップを持つ手がガクガクと震えてココアが揺れる。 でも、それを森に悟られたくないと思っている俺がいた。 落ち着け。落ち着け。 俺は懸命に自分に言い聞かせる。 ｢俺…強姦…男に…されたの…｣ ｢うん…｣ ｢い、1回目じゃ…なぃ…今までにもあった…｣ また横で森がフリーズする。 眉間のシワが余計に寄る。 ダメだ。そんな顔しないでよ。 なんでか分からない。俺は、森の悲しそうな顔を見たくないと思ってしまった。 俺は無理やり口角を上げた。 ｢べ、別に…男が男に…強姦されたぐらい…どうって…ことっんんっ｣ 無理やりな笑顔で乗り切ろうとする前に、口を柔らかいもので塞がれた。 それがキスだと気づくのに少しだけ時間がかかった。 少しの間に俺の口を塞いで離れる。 ｢言いたくないことは…言わなくていいから…｣ ほんの数センチの至近距離。吐息が顔にかかる程の距離で森がそう言った。 そして、またすぐ唇に感触が戻ってきた。 ｢んっ…ぁん…んんー…はぁっん…んんっ｣ 俺は上手く息が出来なくて、唇が一瞬離れる度に変な声が漏れる。 ｢れぃ…｣ 森の声が甘く溶ける。 なんで昨日あったばっかの奴とこんなことしてんだろうとか、そんなことより気持ちよくて考えられなかった。 ｢…はぁっんんっ…んぁっ…んー…｣ 少しずつ理性が倒壊する音が聞こえたような気がした。 息が上がって苦しいはずなのに、離れがたかった。 ずっとこうしていたいとさえ思った。 もう脳内は完全に思考をやめてしまっている。 ただ欲望のままにお互い唇を重ね合った。 ｢んっ…はぁ、れい…もぅ｣ 森が俺の肩を押した。 唇が強引に引き離される。 俺はとっくに腰が抜けてしまっていた。 まだ足りない。 頭の中でそんな事を思ったが最後だった。 ｢はると…もっと…｣ 理性のメーターがあるとするなら、完全に振り切れていた。 森と至近距離で目が合って、どちらともなくまた唇を重ねた。 ゆっくりと後ろに重心がかかり、腰の抜けた俺は呆気なく後ろに倒れる。 森が覆いかぶさるように俺の唇に唇を重ねる。 ｢ぁんっ…んんっ…はぁんっ…はっ｣ 口内にゆっくりと舌が進入してくる。 お互いの舌を絡めるように撫でると、歯の裏や頬の裏上顎をなぞるように舌を這わせる。 俺もそれに必死に応えようと一生懸命すがりつく。 森の腕に必死に捕まって、森を求める。 結局、俺が安心して眠ってしまうまでその行為は続いた。