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って…おかしいだろ。俺。
俺は1人、教室の机の上で頭を抱えた。
昨日あんなことがあったのに、森のおかげで俺の精神状態は学校に来れるところまでは復活していた。
それは本当に有難いというか、なんというか。
昨日、部屋に帰って1人だったらきっと未だに便器とにらめっこをしていたかもしれない。
森がいたからこそ、何とかなったというのは言うまでもなかった。
だがしかし…
俺はなんで昨日、あんなことになったんだ?
トイレで抱きしめられた所までは百歩譲ってよかった。
でも、なんでその後キスなんかしたんだ?しかも男と…会ったばかりのやつと…
1度や2度じゃなくて、何度も何度も…ディープに…
思い出すだけで顔が火照るのが分かった。
っていやいやいや…あれは事故だ。
きっとお互いなんの他意もない。
いつも通り、普通に接すればいい。
自分に何度もそう言って、言い聞かせる。
「玲…?どうした?」
前の席の悠貴がひょこっと顔を覗く。
「あぁ、いや別に?なんでもない。」
「そ?昨日からちょっと変だけど…。昨日あれから部活来ないしさ、結構心配したんだからな…」
悠貴が少し怒ったように言う。
「悪かったよ…ちょっと体調崩してさ…?」
俺は適当に笑って誤魔化す。
「しっかりしろよ、もうすぐ試合なのに…」
「分かってるよ」
「まだ顔色もちょっと悪いし…」
「っ!」
そう言いながら、俺の頬に触れる悠貴の手に少しだけビクッと体が震える。
回復と言っても、昨日のことがなかったことになったわけでは消してない。
しっかり俺の中に恐怖心は刻み込まれているようだった。
「だ、大丈夫だから。悠貴は俺の心配より自分の心配してくれよ。エース。」
俺は軽く悠貴の手を払って、茶化すように言った。
その直後、後ろのドアがガラッと音を立ててあき森が入ってくる。
俺の心臓はドクンっと大きく波打った。
「あれ、森君!今日は仕事ないんだ?」
悠貴が気さくに話しかける。
俺も心の中で平常心。平常心。と唱える。
「お、おは、よっ…」
なんて出来るか…!?
俺は思いっきりカタコトに噛む。
無理だろ普通に。昨日、事故とはいえキスした相手だぞ。
平常心なんてそんな器用な事、不器用な俺に出来るはずもない。
顔は、森の方を見つつも頭の中では盛大に自分へのブーイングが飛び交った。
「はよ…」
けど、そんな俺を他所目に森は驚く程いつも通りのトーンで返す。
って…あれ…?気にしてるのは俺だけ?
なんて、ちょっと心がモヤッとざらつく。
「今日は一日中いるの?」
そんな俺の葛藤なんてつゆ知らない悠貴があっけらかんと聞いた。
「あぁ。」
もちろん森は、いつも通りクールに返す。
その一瞬、横目でちらっと視線があった。
俺は容易にドキッと波打つ。
けど、その視線はものの数秒でなんでもなかったかのように逸らされた。
結局その日、学校で俺と森が会話(?)したのは朝のその1回だけで森は始終隣の先で外を眺めたり本を読んだりイヤホンを付けたりと人を寄せつけないオーラを放っていた。
何度か、移動教室や昼飯に誘おうと試みたが昨日のことが気がかりでついには1度も切り出せなかった。
良く考えれば、芸能人なんてキスの一つや二つぐらい普通なのかもしれない。
気にしてるのは俺だけで、森にとっては些細なことなのかもしれない。
俺は授業中ずっとそんなことを考えては何故だか少し心を痛めた。
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