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13-2 ドキドキは自然現象で
「將梧 」
落胆しつつ足を速める俺の腕を掴み、御坂が自分の口に指をあてる。
頷いて、足音を忍ばせてドアの前まで近づいた。
「何度も言ってるでしょう。僕はあなたとつき合う気はありません」
「俺のどこが気に入らないのか、何が不満で何が足りないのか教えてくれ」
「興味がないんです。あなたが素晴らしい人間かどうかは関係ない」
「だから、俺を知ってほしいんだよ。試しに1ヶ月間つき合ってみて、興味が湧かないなら諦める。友達以上のことはしない」
「下心のある男のそばにいるほど、僕がバカに見えますか」
目を合わせた御坂と、ドアの前からそっと離れる。
「アタリでよかったな」
リラックスした表情で御坂が息をついた。
「痴話ゲンカっていうか、鈴屋が斉木をフッてるだけだね。安心した」
「このまま終わればいいけど……ほかの二人と凱 も中にいるかな? 涼弥はいないし」
「もう少し聞くか、ドアんとこから覗いてみるか……」
部室のドアは、美術室と同じように上部にガラス面がある。
「中見てみるよ。凱 もここにいれば、とりあえず様子見でいこう」
ドアの下に戻り、横から少しずつ室内が見えるところまで顔を出す。
天文部の部室は思ったよりゴチャゴチャしてなくて、スッキリと片づいてる。
中ほどに6つくっつけて置かれた業務机みたいなテーブルがあって、その周りにパイプイスが並んでて。そこに向き合う格好で鈴屋と斉木が座り、はじっこで水本がケータイをいじってるのが見えた。
凱と江藤は……いた。
ドアから斜め向こう側の窓の近くで、二人並んで立ち話をしてる。何やら楽し気に笑いながら。
そして。
窓の端に俺と同じように僅かに覗かせる顔がある……涼弥だ。
「凱もいる。江藤と水本も。あと、窓の外に涼弥がいた」
ドアから離れて御坂に伝える。
「何かあったら援護するとして。凱は江藤と普通に笑って話してるから、とりあえずは大丈夫そうだな」
「そうか。昼休み中ここにいるわけないし、あいつら出てくるまで一応待っとく?」
「お前はここで様子見てて。俺、涼弥のとこ行ってくる。もし中がマズいことになったら、その時は……」
「わかった。臨機応変で」
御坂を残し、廊下のすぐ先にある非常口に向かった。
ドアの鍵が開いてるってことは、涼弥もここから外に出たんだろう。万一の時は、窓からのほうがアクションを起こしやすいと思ったのか。
校舎を回ると、部室の窓の横に張りつくように立つ人影がひとつ。
静かに近づいて肩を叩くか迷う前に、涼弥が振り返る。
「將梧。何しに来た?」
窓から少し離れ、涼弥が俺を見下ろして言った。
「鈴屋と凱が心配で。お前は?」
「俺も……水本の野郎が一緒だって聞いたしな」
「中の様子は? ドアの前で、斉木がしつこく鈴屋に言い寄ってるの聞いたけど」
「ああ。鈴屋はいい度胸してる。これ以上つきまとわれないように、ここでキッパリ断るつもりだ」
さっきまで涼弥がいた場所から中を窺 う。
5人の位置は変わってない。
そして、ここからは凱と江藤の声も聞こえた。やけにハッキリと聞こえると思ったら、目の前の窓が少し開けられてる。
やった!
これなら、助けが要る状況になったらすぐ加勢出来るじゃん……!
ホッとしたところで、背後に涼弥が来た。
「江藤が凱にちょっかい出してるぞ。マズいヤツに気に入られたな」
頭のすぐ上で涼弥が囁く。
近い!
久々なこの近さに、不本意にも動揺する。
いや。だってさ。
恋愛感情あるの自覚しちゃったもんだから、どうしても意識するじゃん?
恋心なんてものにまだ慣れてなくて。好きなヤツが触れられる距離にいるんだよ? 体温ていうか、出してる波動っていうか……身体の周りにある見えないこの何かも、好きな人間の要素だろ。
だから、それに反応しちゃうのも道理で。ドキドキしてくるのは自然現象で……。
あー落ち着け俺!
平常心平常心。涼弥にとって俺は親友で幼馴染み。それ以上になる可能性があるなら、それ以下もあり得るからな。
覚悟が決まるまでは、気持ちを悟られないようにすべし。
涼弥が俺をどう思ってるとしても。今以上に遠い存在になるのは耐えられない。
失くしたくないんだ。
だから今は、気づかれたくない……それが、俺の恋の状況をこんがらせることになっても。
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