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19-4 間違っても、このまま逃げるなよ俺

 はー生き返る……。  真水に近い温度でシャワーを浴びて、熱い身体を適温に戻す。  うっかりサウナに長居するとよくないね。心身ともに。  サウナで汗を出し切るのは好きだけど、涼弥と一緒にサウナは……思ったよりキツい。  身体を熱で追い込むなら、せめて心はリラックスしてないとさ。  そもそも。  涼弥はどうしてサウナについて来るんだ?  一緒に来てる友達を放ってまで。  俺とサウナに入る意味って……何?  話は土曜日にしっかりする予定だし。  急ぎの用があるなら、明日でもあさってでも時間作るしさ。  明日から3日間は中期試験で、学校は昼で終わり。  テスト勉強はもういい。昨日までちゃんとやった分でなんとかなる。  今日ここに友達と来てるってことは、たぶん涼弥もそうっていうか。テストだからって勉強しないんだよな、あいつ。  赤点取ったら追試のために勉強するスタイルだから……清々しく合理的。  涼弥の意図はわからないけど。  とりあえず、沙羅のとこに行こう。  服を着てトレーニングジムへ。  沙羅は、さっきと同じトレッドミルで歩行続行中。 「早い、じゃない。サウナは、やめたの?」  真横まで来た俺を見やり、さっきと変わらない途切れ具合の声で尋ねる沙羅。  「涼弥がいる」 「ここに?」 「うん。友達と来たって」 「すごい、偶然」 「で、今一緒にサウナにいたんだけど、身が保たない」  足は止めずに、沙羅がこっちを向く。 「サウナに? 將梧(そうご)が、心配で?」 「何を心配するんだよ」 「ナンパとか?」 「そんなのないだろ。それより、また戻って普通に喋れる気がしない。うっかりボロが出そうで。どうしたらいい?」 「半裸で接近、してると、変な気、起こさない? 勃っちゃったり。お互い」 「は……!? んなことあるわけないじゃん! あったら俺、もうあいつの顔二度と見れない。勘弁して……」  一瞬口を開けて固まった沙羅が、マシンの速度を最低値まで徐々に落として。のんびり散歩するくらいの速さで歩きながら、溜息まじりに答える。 「情けないわね。誤解されたままにしとくから、いろいろ面倒なんでしょ。私のアドバイスなんか聞いてもムダ」 「何で?」 「好きって言っちゃえば、だから」  確かに今の俺、情けないし。  好きって言えないのが一番のネックなのは、認めるけどさ。 「わかった。自分で何とかする。じゃ、行くわ」 「將梧。もうひとつ、アドバイス」  行こうとして振り返ると、沙羅の笑顔。 「堂々とつけない嘘なら、つかないほうがマシ」  再び。  ロッカーに服を置いてシャワーを浴びて、飲み干したお茶の代わりに買ったスポーツ飲料を手にサウナへと。  水風呂とジャグジーのあるエリアの自販機コーナーから歩き出してすぐ、人の話し声に足を止めた。  シャワールームから離れた奥のロッカーのほうから聞こえるそれが気にかかったのは、涼弥の声だったからだ。     「いい加減にしろ」 「用あんならいくらでも待つからさ。その代わり……あとでつき合ってよ、ホテル」 「そんなとこつき合えるか。バカ言うな」 「何で? あの時は抱いてくれたじゃん。一度も二度も同じだろ」 「あれは、俺がそうしなけりゃお前が……」 「理由は何でも、あんたの意思だったよな。怒るような恋人もいないんだし。楽しもうよ」 「断る」 「なぁ……その気にさせてあげよっか?」  バンッ!  スチール製のロッカーを殴るか蹴るかする音がして。 「(しゅう)。調子に乗んなよ。これ以上言ったら、いくらお前でも容赦しねぇぞ」 「はいはい。わかりました。でもさぁ……もうちょっと頭ソフトにしたほうが、涼弥も人生楽に生きれるよ? 俺みたいに」 「いいから行け。端から順番にマシンでもやってろ」 「はーい……っと。あ、いって!」  目の前に現れた人物を、避けることが出来なくて。  ロッカーの裏から通路に出る位置に突っ立ってた俺に、その男がモロにぶつかった。 「何やってんだお前は……」  腕をさする男の背後から、涼弥が現れて。  俺と涼弥の間の空間が、瞬時に静止した。  連れの男……悠って言ってたっけか……の衝突相手が俺なのに気づいた涼弥は、完全にフリーズ。  ロッカー裏での二人の会話を聞いて、すでに金縛り状態の俺…は。今、身体の中で唯一動かせてた目も停止。  頭と心だけ、かろうじて機能してる。  この……男と、涼弥が……?  え……マジで? 本当の話……?  聞き違ってないよね?  この男が涼弥に、抱いてくれたじゃんって言ったのは……。  この二人がセックスしたって意味だよな!?  涼弥が男と……やってたのか!?  そうか……男と出来るんだ……じゃあ、ゲイかバイ?  とにかく、俺に対して鳥肌悪寒にはならないな。  それはよかった……じゃねーだろ!!!  よかったなら、何で硬直してんだよ!?  何か言え!  口きけないほどショック受けてるのか?  そんなわけないよな?  俺たちはつき合ってないし。  偽装といえども俺、彼女いるし。  涼弥は俺が好きなの知らないし、ノンケ認定してるし。  涼弥は、自分が誰と何してても俺がショック受けるなんて、夢にも思わない……はず。  あ! やっぱ、いっこあったわ。  涼弥が男を抱いたことがあるって知って、俺が引く理由。  親友が自分を襲い得るって恐怖を感じて。  ゲイとは思ってなかったのに。  もしかしたら、自分をそういう対象としてみてたのかもっていう嫌悪感。  あくまでも、いろいろ無知誤解がある涼弥から見た場合な。  なのにっていうか、だから!  これ、俺……魔除け像みたいに棒立ちしてたら変だろ!  がんばって動こう? 動かそう?  まずは声帯からね。  間違っても、このまま逃げるなよ俺。  そんなことしたら、涼弥との仲は……ここで行き止まる!

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