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20-2 攻めはよくて受けがダメって理屈は何
沙羅が目を瞬いた。
「嘘……誰と!? 学園の子!?」
「さっき一緒にいた悠 と。俺、話してるの聞いちゃってさ。涼弥すげー焦ってた」
聞こえた涼弥と悠の会話と、その後のやり取りを沙羅に話した。
「だから、お前にすぐ出てくれって言ったんだよ。悠に会わせたくないってより、悠の前で俺と話すの嫌だったんだろ。嫌っていうか……気マズいじゃん?」
沙羅は黙って俺を見つめたまま。
「俺が大丈夫って、あいつちゃんと信じてるかな? 俺の気持ち知らないんだからさ。そんな気に病むことないよな?」
沙羅の返しがない。
「もし感づいてたとしても。俺がハッキリ言うまでは、涼弥の自由だろ。逆も……」
あれ? 俺ひとり言?
「おい。聞いてる? 何でお前が固まってんの」
「涼弥が……」
やっと口を開く沙羅。
続きは? なし?
おかしいな。沙羅にとっては大して衝撃でも重大でもないじゃん?
まさか。もしや。実は自分も涼弥が好きなことに今気づいた……!?
なんてな。
実の姉妹で男取り合う三角関係もドロドロでエグいけど。
姉と弟と男の三角は、歪 過ぎだろ。
大丈夫。俺らにそれはあり得ん。
「涼弥が攻めなんて、ショック!」
「え……!?」
そこ!? ずっと考え込んでたの、そこなの?
「知ってるでしょ? 最近の私の萌え。筋肉質で男らしい受けに、一見受けっぽい中性的な攻めのカプ。涼弥と將梧 ならピッタリだったのに」
腐ってるな。とことん。
けどさ。
今は切り離そうよ?
「沙羅。現実にそれ持ち込むな。俺は真剣に話してるの。涼弥が攻めなのは納得だろ」
沙羅が目を細める。
「じゃあ、將梧は受けなの? 悠くんに抱いてみない?って言われたなら、攻めもアリなんじゃない?」
う……そこ来るか。
「俺は……正直どっちがいいか、自分でもわからないけど。もし、いつか涼弥とってことになったら、受けになる……のかな?」
マジメに考えてみるも、現実味がいまいち。
男同士のセックスが、まだ実感として湧かないんだよね。
妄想は……あくまで妄想で。
「その前に。男が平気かどうかが先。男がアリかナシか、わかってから考えるよ」
「でも!」
ソファの上に足まで乗せた身体を真横にして、俺を正面に見据える沙羅。
「もし本当に涼弥以外の人とやる気なら、將梧が攻めにして」
「は……!? 何だよ。いい加減、お前の自萌え押しつけんのやめて」
「そうじゃないの! 初めての受けは涼弥とじゃなきゃダメ」
「だから何で……?」
沙羅の言いたいことが、本気でわからない。
攻めはよくて受けがダメって理屈は何。
「だって、ほかの人に抱かれて虜 になっちゃったらどうするの!? 好きじゃない男に!」
あーそういう……快楽堕ちとかメス堕ちとか。マジで心配なのか?
腐ってもいいけどね、沙羅ちゃん。
BLとリアルは別物よ?
「そんなことあり得ないって。そもそも誰かとする予定ないから」
嘘は堂々と。
「ほんと?」
挑むような沙羅の瞳に、たじろいだら負けだ。
たとえ、俺と凱 のことを疑ってても。認めなきゃ、ただの推定……っていうかさ。
この前、凱と何かしても心配しないって言ってたじゃん?
「うん。それに、好きな相手は特別なんだろ? 御坂がさ。気持ちがあるとないとじゃいろいろ……あ。悪い」
沙羅の視線の鋭さが増す。
「樹生 と何の話してるのよ。誰とでも寝る男の言うことなんか真に受けないで」
「でもあいつ、好きな相手とするのはいろいろ違うって。お前が嫌なら仕方ないし、言い分全部が正しいわけじゃないけど……」
「間違ってるでしょ? 彼女がやめてほしいって頼んでること、平気でするのは」
「そうだけどさ。御坂にとって、お前とやるのと浮気は全然別なの。それだけはわかってやれよ」
お互いの瞳を暫し見つめ合ったあと、沙羅が溜息をついた。
「頭でわかるのと感情も、全然別なの。將梧は樹生寄りの考え方が出来るのかもしれないけど、涼弥は私寄りだと思う」
否定しようとしてやめる。
沙羅の言う通りかもしれない。
今の俺は、セックスをお試しでやろうとしてるんだもんな。
好きな相手と……涼弥とつき合ったら、俺は変わるのか。変わらないのか。
わからないなら、後悔しなそうなほうを選ぶしかない。
けど。
それが今出来れば……後悔なんて言葉はないよな。
「俺が男と経験あったら、涼弥はそんなに気にする? 深音とつき合ってるの知ってるし、この前の時もいたし。自分とつき合う前のことまで気にするもの?」
「女は別。それに、將梧だって気にしてるんでしょ? 悠くん」
俺は眉を寄せた。
「ね? そういうもの」
「わかったよ。俺は、ちゃんとつき合ったら浮気はしない。その前にもし誰かと何かあっても……涼弥には知られないようにする。セックスの虜とやらにはならない」
沙羅がニッコリと微笑む。
「浮気しないのはイイコね。虜にならないように祈ってあげる。だけど……もし何かあって涼弥にバレた時は覚悟しとかないと」
「何を?」
あ。微笑みが黒い笑みに……瞳の輝きが増したのは……。
「お仕置き。涼弥はきっと、タフでねちっこいセックスするタイプだと思うから」
話がどうしてもそっちに行くのは、もう諦めるしかないのね。
「十分気をつけるよ」
反論せずにそう言って、コーヒーを飲み干した。
沙羅と話すと、気が軽くなりも重くなりもする。
自分と違うモノの見方をする人間の意見を聞くのはためになるし、よけいな情報に煩わされることもあるからさ。
ラストの姉の助言は除外して、あらためて向こう1週間の予定を見直す俺。
後悔しないように、大事なことは自分で決めないとな。
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