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21-1 テスト最終日は決行の日

 月曜の中間考査1日目は、何事もなく無事終了。  涼弥の姿は見かけなかった。  火曜の中間考査2日目も、何事もなく無事終了。  涼弥を見かけたけど、向こうは気づかず。  (かい)との予定を水曜のテスト最終日に決めた。  水曜の中間考査3日目、テスト最終日。  何事もなく無事終了。  ただ。  2教科目のテスト後の休み時間に、涼弥と廊下ですれ違った。  目が合って、俺はスマイル。  なのに、あいつは目を伏せた。  避けるなよっつったじゃん……!  俺と目合わせるのも……何だ?  気マズい? つらい? 耐えられない? そんなはずないよね? 悪いコト何もしてないだろ? 俺、全然責めたりしてないよね?  はぁ……何だよもう。  何だとしてもさ。  そういう態度取ってほしくないから、大丈夫って言ったのに……!  土曜の予定、反故(ほご)にならないよな?  こんなんでまともに話とか出来るのか?  涼弥は一体、何をどう考えて……どうしようと思ってるんだ?……って。  かくいう俺のほうは。  今日。これから。  男が平気かどうか、凱と試す。  俺が頼んで自分の意思で、男とセックスしようとしてる。  涼弥は思いつきもしないだろ。  俺が何をどう考えてこうすることにしたのか。  だから……涼弥が何を考えてるかなんて、俺にわかるはずないよな。 「何か食ってから行く? うちで食べる? 昼飯くらい出せるぜ」  3教科分のテストを終え、12時過ぎ。  中間考査が終わった解放感の中、階段を下りながら凱が言った。 「そうだな……駅前で食ってこう。腹減ったし」 「オッケー」  本当は、腹はそこまで減ってない……ていうより。なんか緊張してきて、空腹かどうかよくわからない。  けど。  凱は軽く言うけどさ。  家でゴハン食べさせてもらうって。母親か誰か、家の人とバッチリ顔合わすことにならない? 会話とかもして……。  このあと、お宅の息子さんとエロいことするんですって顔してたら……マズいじゃん? 「あれ? 今日は二人でつるむんだ? せっかくテスト終わったのに、彼女はいいの?」  声をかけてきたのは玲史(れいじ)だ。 「あ……うん。今日は向こうも用事あるみたいだし……」  これで逃してくれるか!?  あー頭が回らない!  代わりに凱が口を開く。 「將梧(そうご)、彼女のことで悩みあんだって。女とつき合うのはいろいろ面倒みたいねー」 「そうそう。凱も女はやめて、俺と遊ぼうよ。將梧も」 「んーもうちょっと女と楽しんでからな」  凱の持ってった方向で、話を合わせておこう。 「俺もまだいいわ。彼女と別れて、もう2、3人つき合ってから考えるよ」 「二人ともつまんないなー」  ガッカリ気味の玲史に、凱が新たなネタを振る。 「紫道(しのみち)は? まだ落とせねぇの?」 「今、いい策考えてるとこ。見てて。今年中にはモノにするから」 「おーがんばれ」 「じゃあね。また明日」  機嫌よさげに手を振って、玲史は去っていった。 「玲史、本気で狙ってるのか。紫道のこと」 「そーみたい。話出せば、俺たちから気逸れると思ってさ」 「お前、そういうのよく思いつくよな。咄嗟に」 「自分じゃわかんねぇけど。慣れじゃん?」  凱が笑う。  思い通りにってのは言い過ぎかもしれないけど。  会話の流れや状況を不自然じゃなくコントロールする術を、凱は持ってる。  意識しないでそれを身につける……それが身についちゃう環境にいたってことか。  自分が知ってる部分だけで、俺は凱を信頼出来る。  そう言い切れるコイツの謎な部分、家に行ったら少しは見えるかな? 「あ。樹生(いつき)だ」  その言葉で凱の視線を追うと、下駄箱の前に俺たちをジッと見てる御坂がいた。  近くまで行ってから、凱が先に声をかける。 「今日はナンパ?」 「まぁね。正親がやる気満々なんだ。でも、テストで睡眠不足だから、今夜は家で寝たいかな。お前たちは?」 「適当に飯食って……どーする?」  え……俺!?  お前のがうまいこと言えるのに、ここ俺なの……? 「あー……俺も寝不足でキツいから、今日は家でのんびりするよ」 「凱は? あとから合流する?」 「俺も帰るかなー。そんで弟の勉強みる。今日か明日って約束してんの」 「へぇ、お前弟いるんだ。いいな。仲いいの?」 「けっこうね。まだ小学生でかわいいよ。だから、また今度誘って」 「じゃあ、来週にでも」 「オッケー」 「將梧も、たまには一緒に行こうよ。女遊びはなしでいいからさ」 「うん。ありがと……今度な」  佐野を待つ御坂を残し、俺と凱は靴を履いて昇降口を出た。  テスト最終日のせいか、今日はみんな帰るのが早い。  すでに人気の少なくなった門までの通路を歩く。 「俺に振るから焦ったよ」  大きく息を吐いた俺に、凱が肩を竦める。 「樹生は鋭いからアレが精一杯」 「何かあやしんでそう?」 「お前に頼みたいって言われた時。昼に。鈴屋と樹生いるとこで俺、言ったじゃん? 相手するぜって」 「あー……」 「流れで普通に言っちゃったけどさー。覚えてたら、本当にやりそーに見えるかもな」 「え? そう見える? どのへんが?」  ほんのりと。凱がおかしそうに笑う。 「そう思って見なきゃわかんねぇよ。なんとなくレベル」 「なら、大丈夫か。御坂も鈴屋も、考えなしに人のアレコレ口外しないと思うしさ」 「けど、そのせいで涼弥に伝わるリスク、いくらかはあるよな」 「涼弥に知られるのは心配しなくていいよ。お前何も悪くないんだから、責められる筋合いないだろ」 「俺の心配はしてねぇの。お前がちゃんとリスクわかってんのかなーって。それ込みでのオッケーだぜ」 「わかってる」 「やめてもいーよ?」  合わせた視線の先にある屈託のない瞳。  凱は本当にやめてもいいし、やってもいいんだろうな。  右にも左にも傾いてない均等なバランスで。俺の選択だけで決めるに任せてる。  やっぱり、謎な男だ。  普通ならさ、謎って解きたくなるもんじゃん?  わからない部分の正体が不安で……俺が男もOKか否か判明させたい、みたいに。  だけど、これはこのままでかまわない感じ。  正体は何でもアリ。  自分がそう思ったそれが正解。  感じた通りでいい。  どう取っても受け手の自由。  そういうところに安心してる気がするよ。 「いや。やめない。予定通り、飯食ったらお前んちで」  俺たちは駅前へと向かった。

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