63 / 246
21-2 森を抜けて
午後1時半過ぎ。
駅前のファストフード店で昼飯を食べてからバスに乗った俺と凱 は、いかにも街外れな様子のバス停で降りた。
「駅から30分足らずで、ずいぶん景色変わるんだな」
バス停の後方、道路から一段低くなった場所は広い自然公園みたいになってて。道路向こうは見渡す限り木ばっかりの……林? 森? 低い山?
とにかく。
見えるところに民家や店舗がない。ここまでの通りには数軒あったし、この先にはあるのかもしれないけど。
少なくとも。今立ってるこの場所の印象は、人里離れたところって感じ。
「このへん緑ばっかだからねー。うちはこの森抜けた上、2キロくらい先」
「え……2キロ……!?」
こんもりとした森を見上げるも、家屋らしきものは見えない。
「大丈夫。下に原チャリあるからすぐ着くぜ」
凱に連れられ、道路を渡って森に続く道を進む。
そこを50メートルほど行くと、左側に森へと入る小路と空き地があった。
「待ってて」
空き地の端に建つプレハブ小屋の前から、凱が原チャリを引いて小路に戻ってくる。
「ここ、うちの家っつーか……館の私道だから、ニケツもオッケー。乗れよ」
エンジンをかけた原チャリに跨り、凱が言った。
確かに、原チャリのシートは二人で十分座れそうだけど……。
「俺、原チャリもバイクも乗ったことなくてさ。後ろにも」
凱が不思議そうに俺を見る。
「持つところないじゃん? バーみたいなやつ。お前に掴まってれば平気なもん?」
「全然平気。スピード出さねぇから。原チャリだしねー」
ちょっと安心して、凱の後ろに乗った。
「片手はシートの後ろんとこ掴んでてもいーけど、慣れてねぇなら俺に両手回しといて。落っこったら嫌だろ」
「嫌ってか痛いな。きっと」
カバンを背中のほうにやり、凱に手を回す。
「もっとちゃんと。痛いの好きなのお前?」
「そんなヤツ……いるかもしんないけど、俺は嫌い」
ためらいはあったけど。
安全第一。
凱の胴体に回した左右の手を、お腹らへんで握る。
「んじゃ、行くねー。離すなよ」
俺の両手がしっかり組まれてるのを確認した凱が、原チャリを発進させた。
スタートの加速で身体が置いてかれそうになり。咄嗟に、手に力を込めて引く感じで身体を前に倒した。
凱に身体が密着してるけど、隙間があると落ちちゃいそうで。怖くて離せない。
照れるなコレ……なんて思うな俺!
こんなんで照れるメンタルで、どうやってセックスする気だ?
ほんとにやるんだよね? コイツと。今から。
イマイチ現実味がないのは……。
凱がすげー普段通りだから!
いろいろ話聞いてるけどさ。
男も女も経験豊富っぽいの知ってるけどさ。
本気で俺の相手するつもりなのも疑ってないけどさ。
そういうモードになった凱が想像出来ない。
俺の妄想の中でなくリアルでよ?
今まで一度もエロい目したの見たことないし。エロトークしてもな。
そのせいじゃないとしても。
それよりも何よりも。
凱にドキドキしたことない俺と、いたって通常モードの凱。
恋愛要素なしで、さぁやろう!って突然エロいこと始めるのって……可能なのかソレ?
一番の目的は。身体が男に拒否反応起こさないか、男に反応するか確かめること。
次に、レイプ未遂で感じた恐怖と嫌悪感が残ってないことを確認したい。
さらにいえば。
男が平気だってわかったら、俺は純粋に欲情するのか……それも知りたい。
だから……なんていうの?
いい結果を出すためにも、ベストな条件で臨みたいと思うのね。
信頼と安心感ベースの親密さだけじゃ足りなくない?
恋人同士みたいな雰囲気はなくても、せめて相手を求める的な……欲望? 湧くかな? 気合で? 物理的な刺激で?
うーん……どっかにスイッチとかないのかな。
「將梧? いる?」
聞かれて、凱の背中に伏せてた顔を上げる。
車1台が楽に通れる幅の小路を走る原チャリは……チャリよりは全然速いけど、車に比べればゆっくりなスピードで。緩い坂を上ってる。
「いるよ。落ちてない」
安定してて怖くない乗り物なことがわかり、周りを見る余裕が出来た俺。
ずっと坂じゃなく、平らなところもカーブするところもある森の中の小路。
「いいな。森」
当然、右も左も木ばっかり。
あと草な。緑と茶色の景色。
あー癒されるわー。
森林浴って、リラックス効果あるっていうよね。
交感神経を抑えて、副交感神経が活性化するって。ストレスホルモンも減るらしいし。
森がα波 を出してるんだっけ?
緑がいい。匂いもいい。
植物が身を守るため殺菌のために出す成分が心地いいってことは、俺は敵じゃないんだなーってホッとするよ。
あー凱に抱きついてるのにも慣れてきたな。もう照れないし、むしろ落ち着く。
これなら男も平気だろ……まぁ今は服着てるしエロい気分じゃないし、エロ目的でもないけどさ。
それにしても凱の身体、細いけど硬い。見た目俺より華奢 でも、力はありそうだ。組み敷かれたら、抵抗しても勝てないね俺。
でも、まぁ…力で抵抗しなきゃならないこと、されない予定だからいいか。
「もう着くよ。歩くと20分くらいかかるけど、これだと2分」
凱がそう言ってほどなく。
前が開けて現れたのは……なんか、デカい建物だ。
さっき凱、館って言ったか?
まんまその通り。
ヨーカンだこれ。洋館。
合宿所とも言ってた気がするけど。
ずいぶん洒落た合宿所だな、おい!
ここに何人で住んでるの?
この中に普通の高校生の部屋ってあるの?
ていうか何ていうか。
ここ、何年も使ってない部屋とか開けてもいない部屋とか……地下牢とかありそう。昔のヨーロッパの領主の別宅みたいなイメージ。
俺、監禁されたりしないよね!?
なーんてな。
そんなことは、一瞬たりとも心配してない。想像はしてみても。
あらためて、凱を信頼してる自分を認識出来てホッとする。
大丈夫。
うまくいく気がしてきた……第六感を信じよう。
ともだちにシェアしよう!