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21-4 準備完了
準備とシャワーを済ませて、バスルームを出る。
服は着てない。
どうせ脱ぐし、せっかく汗流したんだし。
見てる前で服脱ぐほうが照れるし。
脱がされるなんてのは、さらにこっぱずかしい……女みたいじゃん?
ベッドの前に座って何かいじくってた凱 が、顔を上げた。
バスタオルだけの俺の姿にはノーコメント。
「お疲れさん。飲み物、好きなの飲んで」
見ると。ラグにローテーブルが置かれ、その上にペットボトルが5本並んでる。
緑茶、無糖紅茶、ブラックコーヒー、水、そして、スポーツ飲料だ。
「部屋のもん、何でも見てていーよ。これやんのも時間潰せるぜ」
凱が手に持ってたものをテーブルに放った。
「知恵の輪?」
「そー難解なやつ。じゃ、待ってて」
立ち上がり、凱がバスルームへと消えた。
さっきまで凱がいた場所に腰を下ろして、まずは水分補給。無糖紅茶を4分の1ほど一気に飲む。
はーっ。
今何時……2時41分か。
外、いい天気だなー……って。
そういえば。
深音 とした2回は、薄暗くした部屋でだったけど……この明るさの中でするの?
裸見られるのは別に恥ずかしくないんだけどさ。
暗めなほうが、全部ハッキリ見えないほうが気分的によくない?
エロい気分が増すっていうか……そんなことないのか?
あーどうでもいいこと気にしてると、思考が負に偏りそうだ。
知恵の輪をやろう。無心になれるかもしれない。
テーブルの上の知恵の輪を手に取って、ガチャガチャと動かすこと数分。
ちっとも出来ない。
何コレ?
超複雑な作りしてるのね。子どもの知育玩具か、歳いってからの脳活性的なオモチャと思ってナメてたわ。
そもそも。
どこをどっから攻めるべきかが不明で、ゴールまでの道が見えない。
部品が外れればいいだけなはずだけど……今の知恵の輪ってパーツ2つじゃないのな。どう見ても3つはあるだろこれ。
無心っていうより。
半ば意地になってゴリゴリやってたら。
「お待たせー」
バスルームのドアが開いて、凱が出てきた……全裸で。
「おまっ……前くらい隠せよ」
急いで目を逸らす俺。
「んー? あーあと少し。頭拭いたらね」
手元の知恵の輪にフォーカスして、視線を凱に向けないようにする。
「あ。出来た? それ」
「全然。俺こういうの苦手かも。暇つぶしにはなるな」
「うち、いっぱいあんの。一緒に住んでるおばさんがカウンセラーでさー。なんかよくわかんねぇ気鎮める道具とか、いろんなの」
「へぇカウンセラーか。悩み相談とか、お前もするの?」
「しねぇよ。人がどーにか出来る悩みなんて俺、いっこもねぇもん」
つい目線を上げると。
窓の前に立ち、タオルで髪をかき上げる凱の後ろ姿。
まぁ、尻くらいは見えててもいい。
やっぱ引き締まった身体してるな……あ! そうそう。
「凱。カーテンちょっと残しで閉めて。明るいと……やりにくくない?」
「そー? 暗いとつまんねぇじゃん」
そう言いながらも。凱が15cmほど残してカーテンを引いた。
うん。このぐらいがちょうどいい感じ。
雨降ってる日で、本読むには灯りがほしいなーくらいの暗さ。
バスタオルを腰に巻いてから、凱が振り返る。
「オッケー? いろいろと」
「あ……うん。あと……凱」
先に言っとかせて。
「ここまで準備して、鳥肌だったらごめんな。そうなったら……その気になってても、やめにしてくれ。頼む」
「わかってる。理性失くさねぇから。信じていーよ」
「うん」
難解な知恵の輪をテーブルにそっと置いて、深呼吸。
凱が俺をまっすぐに見て指示を出す。
「んじゃ、ベッドの上行って。お前の意思で」
口を開きかけて閉じる。
俺が動くのを待つ凱は。急かすでも強いるでもなく、ニュートラルな顔してる。
ちょっとギクシャクしながら、ベッドに上がる。
シーツを敷いてあるだけで、畳んだ薄手のフトンと枕は床に降ろされてるのに気づいた。
俺がベッドの真ん中らへんに落ち着くのを見届けて。凱がキャビネットから取り出したものを、ローテーブルに置く。
ローションらしきボトルとコンドームの箱……リアルアイテムを見て。胡坐で座ってるのに、ほんのりめまいでクラッとする。
「準備完了」
ペットボトルのコーヒーを二口飲んでから、凱がベッドの上……俺の前に来た。
「將梧 」
ゆっくりと伸ばした左手を俺の首の後ろに回し、凱が静かな声で聞く。
「男に触られんの、怖い?」
「……怖くない……少なくとも、お前は」
凱が唇の端を上げて、そのまま俺に近づける。
残り1cmのところで一度息を吐いて吸ってから、その距離をゼロにした。
軽く触れるだけのキスをする間。
凱は目を閉じない。俺も動かず目を開けたまま……至近距離にある凱の瞳を見つめてる。
まだ、いつもと同じ瞳をしてる。
いや。やっぱりどこか違うか……? 近過ぎてわからない。
近過ぎて……視線が熱い。俺に触れる唇も熱い。
凱が俺に続けるキスは、欲情を促すようなものじゃない。
俺の唇を少しずつ確かめるようにそっと触れては、ほんの少しだけ離れる。
繰り返し、繰り返し。
息はちゃんと出来るから、苦しくはならない。ならないけど……息が上がってくる。
凱に見られ続けられてるのは俺の瞳だけなのに。段々ほかの部分も見られてる気がしてくる。
「凱……も、うッ……!」
長く感じたけど。時間にしたら、たぶん1、2分。
耐えられずに凱を呼んで目をつぶった途端。
薄く開いた唇の隙間から強引に入り込んだ凱の舌が、俺のそれに絡みついた。
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