86 / 246

24-5 キスは思わぬ結果へと

 キスされるって予想出来てても。  された瞬間、ビクッてなった。  軽く触れた唇を少しだけ離して、涼弥が閉じてた目を開ける。目を閉じてなかった俺と合った瞳が……すごく切なげで。  無意識に生唾を飲み込んで息を吐いた口を、乱暴に塞がれた。 「ん……ふ……はぁっ、りょ……んんっ」  口内に入ってきた涼弥の舌に、戸惑ったのは1秒。  遠慮がちに触れてくる舌先を舐め。そのまま自分の舌を横から奥へと這わせ、涼弥の口の中に差し入れる。  薄く開けた目で涼弥を見ると。  驚きと……熱に満ちた瞳で俺を見返して、目を閉じた。同時に舌を強く吸われ、俺も目をつぶる。 「っん……は……あ……」  身体中が熱くなる。血が沸騰するみたいに。  互いの舌を吸い合って。唇の内側を歯茎を舐り合って……涼弥と。  好きだ……もっと、感じたい……!  キスで目を閉じるのは、視覚を失くすため。  瞳から間違った感情を読み取らないように。  嘘に気づかなくて済むように。  そして、よけいな情報を遮断して、触覚で心を見るために。 「んっ……あ……はっんんっ……あぁ……」 「はぁっ……ん……は……うっ……」  涼弥の荒い息づかいに、俺を求めて性急に動く舌。  ゾクゾクする快感が押し寄せる。  初めてしたキスは、涼弥とだけど軽く一瞬で。  深音(みお)として、性欲を刺激するキスは気持ちいいものだと知って。  快感がほしくて、安心したくて興奮したくて……(かい)がほしくてしまくったキスは、心も身体も近づけて気持ちよくて満たされた。  恋愛感情を抱く相手……好きなヤツとのキスは。  満たされたと思ったらすぐ足りなくなって、終われる気がしない……!  もちろん、俺のペニスも反応してる。  昨日、男に欲情する自分を認めて、素直に快楽を求められるようになったおかげで。(せき)を切ったように、快感への欲求が湧き出てくる。  それもあるけど、それとは別に。  心で涼弥がほしい。  近づくだけじゃなく、重なって浸食して一緒になりたい。  まるでキスでそれが出来るって思ってるみたいに。  快感以上の何かを涼弥に求めてる。 「ん……涼弥……はっんんっ……!」  キスの合間に名前を呼んだら、そんな余裕は許さないとばかりに深く舌を捻じ込められて。  理性が飛んでく。  何も考えられなくなってく。  ひとしきり、口の中で貪る快感を追ううちに。立ってられなくなって、ズルズルと壁を擦りながら腰を落とす。  このままじゃ……ヤバ……ここ学校……!  俺に覆いかぶさるように膝をつき、なおも激しくキスを続ける涼弥の胸を両手で押した。  けど。  涼弥の身体はビクとも動かず。  それどころか、俺の両手首を掴んで壁に押しつけて、口内を舐り続ける。 「はぁっ、ん……ふ、あっ……」  舌を吸って唾液を飲んで。腰回りがじくじくと疼いて。  離された唇を耳の下に感じた直後、首筋を下へと舐める涼弥の舌のねろりとした感触に声が出る。 「ん、ああッ……!」 「將梧(そうご)……」  熱にうかされたような瞳で俺を見つめる涼弥。  ダメ……だ。これ以上……ここで俺まで止められなくなったら……! 「やめろ! もう……ここじゃ……」  俺の言葉を、授業開始のチャイムが遮った。  その音はひどく大きくて。俺たちの意識を一気に現実に引き戻す。物理室を出てから、まだ10分しか経ってないことが信じられなかった。  さらに信じられないことに。 「ごめん……俺……は……」  チャイムが響き終わる前に、俺の手を離して立ち上がった涼弥が言った。 「悪かった……許してくれ……」  床に座り込んだままの俺を。ものすごく悲痛な表情で見下ろした涼弥が、そのあとどうしたか。 「え……!? おい! 涼弥!」  ハイスピードで階段駆け下りてったよ……!?  ワケがわからず。  呆然と涼弥が下の階に消えてくのを見送った俺。  遠ざかる足音と……怒鳴り声? あいつの? いや、先生か? 運悪く見つかったか?  だとしても、チャイム鳴ったとこだし。早く行けって言われるくらいか。  それよりも。何よりも。  何でごめん!?  何で謝る!?  何を許せって……!?  まさか。まさかだけど、あいつ……。  自分が、ムリヤリ俺にキスしたとでも思ってるのか……!?  そんなはずないよね?  だってさ。だって……。  俺、超自分からほしがってキスしてたじゃん!  わかってくれてなかったのか?  俺が感じてたのも?  好きだからキスに応えたのも?  わかんないまま、あんな激しく?  いや。ないだろ。  そこまで鈍くないよな?  つーか。  俺が嫌がってるって思ってあんなキス続けてたとしたら、逆に怖いわ。  だけど……チャイムで現実に戻されたあとの涼弥の言葉と行動は、そんな……感じ。  いったいぜんたい、どうしてそうなるんだ?  あ……俺がやめろって言ったから、か……?  いや。  でも、それはさ。  あそこで止めなきゃ、その先までいきそうだったから!  キスして気持ちよくて……俺は勃っちゃってたよ?  だから……涼弥もそうなんじゃ……って。  そうなら、ほかのことどうでもいいまで二人して理性飛んだら……マズいじゃん! 今ここで!  はぁ……もう……なんなの。あいつ……俺も。  学校で盛るなんて、以前の俺じゃあり得ない。自分が怖い。  涼弥も……あんな瞳で俺を……ほんとに……思ってくれてるんだ……って!  俺はわかったのに!  涼弥が俺を好きだってこと、言葉で言われなくても感じたのに。  あいつ、ちゃんと言わなきゃわかんないの……?  わかんない……んだろうな。  だから、逃亡したんだよね。俺、置き去りにして。  よくないだろコレ。  欲情収めて一緒に戻るのも微妙だけど、話す時間あれば……お互いの気持ち確認出来たんじゃないの?  俺が、もっと早く言えばよかったんだよな。  でも。  涼弥の態度に仕返しみたいにして。好きだって伝えるのあとにしたの、俺だけどさ。  あいつだって、自分の気持ち伝えないでキスしてきたじゃん?  し始めたら、言う暇なかったし!  伝えなきゃ。ちゃんと。  はー……教室戻ろう。  勃ったの収まったし。ここいても、涼弥が戻ってくるとは思えないしね。  ひとり、屋上に続く階段を下りながら。  途中までは予想の範疇だったはずが、何故かこうなった突然の出来事に溜息連発の俺。  これってほんと予想外……思わぬ結果だよな。

ともだちにシェアしよう!