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25-1 誤解か勘違いか、ほかの何か

 アンラッキーなことに。  3限目は現国だった。 「早瀬。今日はどこで盛ってきたんだ?」  15分遅刻で教室の後ろのドアをカラカラと引いて開けて入った俺に、鷲尾がいらん嫌味コメントを放つ。 「すみません。腹の調子が悪くてトイレにいました」  お決まりの言いわけで頭を下げ、そそくさと席に着いた。  隣をチラリと見ると、僅かに首を傾げて(かい)が瞳で問う。 『平気?』  たぶん、こう。 『腹は平気。俺は平気。涼弥が変』  俺も瞳で答えた。  テレパシーは自信ないけども。  現国のテストも1日目だったから、答案はすでに返されたらしく。授業開始してすぐの返却時にいなかった俺は今、名指しされて鷲尾のもとへ受け取りに行く。  自席に戻る際。御坂と目を合わせて、ちょこっと笑みを浮かべた。  御坂と凱には、涼弥とのこと話しとくべきだよね。ある意味……朝の話の続きというか結果、だもんな。  その前に。  現国終わったら速攻で涼弥のとこ行って……誤解を解かねば。  誤解するのが変!って思うけどさ。  してるっぽいから。最短で解かないと。  まぁ少しは期待もしてる。  あんな興奮状態から冷静になって考えれば……ね。  俺にごめんなんて言う必要一切なしなのが、わかるはず。  いくら色恋に鈍い涼弥でもな。  じれったい思いで時間が過ぎるのだけを待った現国が終了。 「凱。昼に話す。今、涼弥んとこ行ってくるわ。あいつ誤解してるみたいだからさ。俺は平気。御坂にも心配要らないって言っといて」 「オッケー」  ()いてる俺に、励ますようにニコッとする凱に頷き。  ダッシュで2-Aへ。  授業が終わって開いたドアから最初に出てきたのは、都合良く高野だ。 「早瀬。どうした?」 「涼弥呼んでくれるか? 急用なんだ」 「あー……涼弥は……」  高野が困ったような表情をした。 「授業遅れて来てさ。具合悪いからって帰ったよ」 「は……!? 帰った……!? え? 今の授業中に?」 「うん。すごい怖い顔して入ってきて、カバン持ったらすぐ出てった。英語の深津、気おされちゃってお大事にとか言ってんの。いつもなら遅れた理由英文で言わせるのに」  涼弥のヤツ……マジで帰ったのか!? 「そうか。あ……ありがと。またな」  高野に礼を言って、そのまま階段を1階まで下りた。  人気のない下駄箱の裏手で、涼弥に電話をかける。  出ねーのかよ!?  あいつ、ほんとに何考えてんの?  具合悪くなんかないよね?  元気だったよね?  あのあと即、帰ったんだよな。  とにかく、俺と……顔合わせたくないってことだよな。  俺に悪いことしたって誤解してるとしても。  そこまで逃げることないだろ!?  つーか、そんなに気弱いヤツだったか……?  もしくは……。  俺のほうが勘違いしてたり……する?  涼弥が好きで。あいつも俺をって思ってるから、脳内補正しちゃっててさ。  キスされて自分からもガッツリ求めて……そんな反応されてあいつ、引いちゃったとか。  だから、後悔してごめん……?  キスしたけど、やっぱりなしで……許してくれ?  ダメだ俺。  視野が狭過ぎて、2択しか見えない。  俺んとこから逃げたのは、涼弥の誤解か……俺の勘違いだとしても。  学校から帰ったのは、別の理由があるかもしれない。  タイミング的にほかの何かが重なる確率は低いけど、なしじゃない。  現に。  さっきの状況で『ごめん』ってなる確率はゼロに近いはずなのに……あるしな。  教室に戻る前に、もう一度涼弥に電話。  繋がらず。  メールを打つ。  今どこにいる?    送信して下駄箱の裏から出たところで、昇降口に人が来た。  生徒会長の江藤と、会計の天野だ。隠れる間もなく気づかれる。 「あれ? 將梧(そうご)くん。きみも行くの?」  近づいてきた江藤が聞いた。ごく自然に親しげに。  あー名前と顔バッチリ覚えられてる。  でも……『きみも』って何? 「え……? あの……どこにですか?」  わからずに聞き返す俺を見つめ、江藤が微笑む。 「そうか。知らないならいい。気にしないで」 「(じゅん)。よけいなことは……」 「わかってる。あいつの邪魔はしないよ。あ、そうだ。この前の約束だけど」  江藤と天野のやり取りに疑問を感じつつも、引っかかるものの正体が見えずにいると。江藤が話題を変えた。 「凱くんに伝言頼んでいいかな。明日の金曜日、4時に寮のCルームで……って」  Cルーム……寮の入り口入ってすぐのコミュニケーションルームか。 「……はい。伝えます」 「よろしくね」  どこか含みのある笑みを残し、江藤が背を向けた。  あとに続くと思った天野は、俺を見て立ち止ったまま。 「まだ、何か……?」  マッチョな体育会系の天野が、ためらいがちに口を開く。 「柏葉凱は本当にノンケか?」 「はい。そう聞いてます……」 「お前は?」  え……俺? 何故俺の性指向なんか知りたい? 「ノンケです……けど」  天野が眉を寄せた。 「何か、マズいですか?」 「いや。それが嘘じゃなけりゃな」 「え……!?」  わけのわからない俺を残し、天野もその場を去っていった。  今のは……何だ?  江藤は、俺がどこに行くと思ったんだ?  きみも…って。誰が行くとこに、俺も?  知らないならいいって……何を?  俺は何かを知ってるはずなのか?  あいつの邪魔……あいつって誰?  そして。  俺がノンケなのが、嘘じゃなきゃマズくない……嘘だとマズい?  実際、嘘だけどさ。  天野がその真偽を知りようないだろ?  このハテナたちを、今の俺の頭が解くのは無理。  とにかく今は、教室に戻ろう。  そして、昼に。  凱と御坂に相談して意見もらって……涼弥に会わなきゃ。  今度こそ、ちゃんと思いを伝えるためにな。

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