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25-4 見えそうで見えない何か

「もういーじゃん。放して」  平然とした様子の(かい)に苦々しい視線をぶつけた上沢が、掴んでた手を乱暴に離す。 「凱! お前何やって……」  さっきの話。生徒会の守護人、上沢。てことは……。 「江藤のとこ行ったのか?」  上沢が俺を睨む。 「いきなり生徒会室にやって来て、わけのわかんねぇ話で会長に詰め寄ったんだよ」 「ちょっと聞きたいことあっただけ」 「答えなけりゃ秘密をバラすとかなんとか、脅しただろうが!」  うわ……キレてるな、上沢。  凱が江藤に何を聞いたかは、だいたい想像出来るけど。  ここは穏便に。 「悪い、上沢。俺が言って聞かせる」 「おまけによ。天野さんに、將梧(そうご)には彼女がいるから諦めろって……何を勘違いしてやがんだコイツは!」  「あーほんと悪かったな。面倒かけて」  とりあえず宥めようと下手に出たところで、予鈴が鳴る。  今日はチャイムに助けられるな。  これで終われる……。 「あ。言い忘れ。明日の4時の約束、会長さんにオッケーって伝えといて」 「明日!? お前が……マジで会うのか? 会長と……!?」  凱の言葉に、上沢の顔色が変わった。 「うん。寮のCルームで待ち合わせ。そっから部屋行くんじゃねぇの?」  複雑な表情で凱を凝視する上沢。 「何? 会長さんが俺に手出さねぇか心配?」 「……あの人はそんなことしねぇ」 「俺もしねぇよ。心配ならお前も来て見張ってれば?」 「ああ、そうさせてもらう。早瀬」  上沢の目が俺に向く。もう睨んでない。  むしろ、ちょっと不安げな瞳をしてる。 「お前も行くのか明日」 「え……と……」  行くけどさ。コッソリどっかで待機予定っていうか……まだ綿密なプランないんだけど。  答えを考えあぐねてると。 「責任持って来い。お前だって心配だろ?」  答えを先にくれた。  もしもの時の言いわけ要素も。 「行くよ。でも、俺は内密に動くから」 「俺もだ。明日、ここで待ってろ」 「は? 待て! 勝手に……」  決めるなよ……。  言い捨てて、上沢は廊下に消えた。  残った凱が俺を見る瞳は……ちょっと悪げ。 「ごめんね」 「狙い通りか?」 「んーほぼほぼ」 「あとで全部聞かせて。5限終わったら、今日の6限は掃除だからその時」 「わかった」 「將梧。明日、俺も行く」 「うん。それもプラン練らないとな」  御坂が頷く。 「あとで」  本鈴の響く中、俺たちはそれぞれ自分の席に着いた。   テスト終了翌日の6限目の清掃は、各々の教室廊下とクラスごとに割り当てられた区域をやる。2-Bの担当は第2校舎1階2階の廊下と2ヶ所の階段。  まぁみんな最初だけキチっと掃除して、ある程度キレイになったら時間潰しが常。  15分ほど経って、美術室近くの階段下に集まった御坂と凱と俺。 「水本、学校にいなかったぜ」  前置きなしに、凱が本題に入る。 「それ確認しに行ったのか?」 「うん。お前気にしてたから。可能性あんなら先見れるし、ねぇならほか見れんじゃん?」 「杉原と同じ3限から? だから江藤のとこに?」  俺に答える凱に、御坂が問いを続ける。 「そー。で、將梧の前で水本の邪魔はしねぇって言ったけど、協力はしてんの?って聞いたらさ。少しはっつーから……」  ずいぶん強引にカマかけたな。  でも、成功……江藤の言った『あいつ』も、涼弥が学校出てった理由も水本……か?  俺じゃなく。  俺から逃げたんじゃなく。  なんて、ホッとするにはまだ早い……じゃなくて!  俺が原因じゃないほうが問題だろ……!?  涼弥と水本の間に何があったんだ?  あの短時間で……ほんとに階段下りたとこで、文字通りぶつかりでもしたのか? 「それが何か聞き出そうとして、上沢に阻止されて連行されてきたんだね」  御坂が溜息まじりに結果を口にした。 「出てくんの早くて。あの男、隙ねぇの。やり合ったら負けそーだから。けど、もいっこ収穫。天野ってヤツ、將梧に彼女いるって言ったら、お前に見えてることだけが全てじゃねぇぞってさー」  凱が俺と目を合わせる。 「お前がノンケじゃないって知ってる。誰か見てたぜ。お前と涼弥」 「それって……水本か、ヤツの仲間の可能性ある?」 「あったとして。だから何ってなるよ。杉原とお前がつき合ってるって噂流されても、特にダメージないだろ? 脅しネタにもならない」  御坂の言うことはもっともだ。 「そうだよな。涼弥もそう思ってくれてれば……いいけど」  なんだろう? 自信ない。  不都合は思いつかないのに。  涼弥が困るとは思わないのに……この不安感。 「実際、杉原に彼女はいないんだし。ノンケで通してるかもしれないけど、うちの学園でゲイだってバレてもどうってことないしさ」 「そーね。あいつ脅す材料になんの、お前に害あることくらいじゃねぇの?」  二人の前向きな見方に、少し気持ちが楽になる。 「ん。帰りにもう1回電話してみるよ。涼弥のことはひとまずこれで。明日の計画立てないと……」 「委員長! ここにいたんだ」  廊下から、鈴屋が現れた。 「鈴屋。どうした?」 「凱と御坂も。ちょうどよかった」  俺たちのいるところまで来た鈴屋が息をつく。 「何があった? 大丈夫か?」  再び聞くと、鈴屋の真剣な瞳が俺をジッと見る。 「僕は大丈夫。委員長は? 何もない?」 「え……俺には何もない……けど」  涼弥には、あったかもしれない。  心の中でつけ加える。 「將梧に何があったの? つーか……あるはずなの?」  凱が妙な言い方をした。  見えそうで見えない何かに目を凝らすような感覚の中、鈴屋の答えを待った。

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