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25-5 のん気にこうしてられるか!
俺たち3人を順番に見てから、鈴屋が口を開く。
「この前のことがあるから、3人には話すつもりだったこと先に言うね。不本意ながら、斉木さんとつき合うことになった。今日から1ヶ月間、お試しで」
束の間、沈黙が流れた。
え!? マジ? あんなに嫌そうだったのに……!?
暫し。俺の問題を忘れてそんな感想が頭に浮かんだのは、俺だけじゃないはず。
だけど、同時に。
なんとなく……そうなる気もちょっぴりしてた。
斉木のあの告白を見たから。
「へーよかったじゃん」
「よくないよ」
「あの男にとっては」
「1ヶ月、身を守らないといけなくなったんだから」
「その必要なくなるかもしんねぇじゃん」
「それはない」
笑みを浮かべる凱 と、憮然とする鈴屋のやり取り。
「嫌ならどうしてつき合うハメに?」
おかしそうに、御坂が尋ねる。
「あんまりしつこいから、テストで賭けして……負けたんだ」
「なるほどね」
「でも。その賭けに乗ったからには、斉木に……チャンスあげてもいいって思ったんだよな?」
「勝てると思ったから」
俺の言葉に、鈴屋が口を尖らせる。
「斉木さんの得意科目のテスト。95点以上取ったらつき合う。取れなかったら今後一切近寄らないって賭け」
「何点?」
「97点」
「すごいなそれ。相当がんばったんだろ」
「嘘かと思ったよ」
「まぁ1ヶ月、せっかくだから斉木のいいところ見て楽しくさ。そんなに悪いヤツじゃないよ、きっと。な?」
つい同意を求める俺。
「たぶんねー」
「あの時も、本気でレイプまでする気はなかったと思うよ」
おー!
二人とも好意的な意見で何より。
「とにかく。僕のことは報告終わり」
鈴屋の深呼吸で、場の空気が変わった。
「今日の昼休み、斉木さんに聞かれたんだ。2年の杉原、知ってるかって」
「え……!?」
声に出したのは俺だけ。
「涼弥が……何……?」
鈴屋の視線も、俺だけに向いてる。
「知ってるって言ったら、次は……つき合ってる男は?」
何も言えずに先を待つ。
「知らない。いないと思うって答えたよ」
「次は……?」
「こいつ誰かわかる?って……動画を見せられた」
一瞬つぶった目を開けて。
鈴屋を見つめた。
その先は聞かなくてもわかる。
わかりたくなくても……ほかにないから。
言いにくいことを、鈴屋に言わせる必要はないよね。
「俺と涼弥がキスしてるところ……だよな」
「うん……委員長、杉原と……?」
心配そうな鈴屋の瞳。
「つき合ってはいないけど、俺が涼弥を好きで……キスしてたのは事実」
「將梧 だって言ったのか? 斉木に」
御坂が聞いた。
「ううん。わからないって言ったけど……江藤さんが見てわかったからもういいって、水本さんから電話が来て……」
「水本なのか!? 動画の出どころ」
驚く御坂とは違い、スッと納得する自分がいる。パズルの4辺のピースが揃った感じ。
「じゃあ……ほんとに涼弥は今……水本と……」
呟く俺をチラリと見て、凱が鈴屋に聞く。
「斉木んとこに動画送られてきたの、いつ?」
「3限目かな。昼に見てほしいものがあるってメールあったから」
「じゃあ、同じ頃送られてきた動画見て、江藤はすぐ將梧だってわかったんだな。涼弥の相手が誰か、斉木は知んねぇまま?」
「うん」
「昼はずっとお前と一緒?」
「うん。水本さんに、お前こんなの撮って何やってんのって聞いてたよ」
「ふうん……なら、斉木はこれに関わってねぇな」
「たぶん……ねぇ、これって何? 水本さんはあの動画で何してるの? 委員長は何もされてない?」
鈴屋が俺たちを見回した。
「俺は誰からも何もされてない。されてるとしたら、涼弥だ」
「たとえ敵認定してる相手でも、杉原がキスシーンの動画くらいでいいようにされることはないんじゃない?」
「逆に水本のことブチのめしてるかもねー」
俺と御坂と凱のコメントを聞いた鈴屋が、眉間に皺を寄せる。
「杉原と水本さん、仲悪いの?」
「そーみたい」
凱が答えた。
「二人、今一緒にいるの?」
「動画撮られてすぐ、二人とも学校から出てる。それに、江藤に昇降口のとこで会った時、きみも行くの?って聞かれたから。一緒なのは間違いないと思う」
俺も答え、少しためらってから不安を口にする。
「水本の仲間もいるかもしれない……涼弥と連絡が取れないんだ」
「杉原のほうも仲間呼んだとかは?」
御坂を見て、自信なく首を横に振った。
「確かにさ。涼弥は、動画なんかどこに晒されても気にしないはず。だけど、あいつが誤解してるなら……俺もそうだって思ってくれてないだろ」
「自分のせいでお前がって考えたら、おとなしく言いなりになってるかもってこと?」
意味を捉えて、顔をしかめる。
「嫌だ。そんなの。俺、探しに行くわ」
「どこに? あてもなく探せないだろ」
御坂の言う通りで。
涼弥がどこにいるかなんて、わかりようがないのに。
自分が何も出来ず、ただここにいるのは耐えられない。
「だからって、のん気にこうしてられるか!」
胸の奥でざわざわする不安が、俺を急かす。
この不安のモトになる何かが……涼弥じゃなく俺の身に起こるなら、そのほうがいいと思った。
「待てよ。將梧!」
御坂の止める声を聞かずに歩き出した俺の腕を、凱が掴む。
「落ち着け。考えてから動かねぇと後悔するぜ。涼弥に会いたいんだろ?」
俺を見つめる凱の瞳が暗い。
暗く鋭く、鈍く光ってる。
「頭使ってたら間に合わねぇ時もあるけど、今は使う時」
「凱……俺……」
「会わせてやる。今はここにいろ」
「……うん」
会わせてやるって言われて。お前がどうやってとか、何を根拠にそんなこと……とか思わず、納得した俺。
コイツ……ほんとに……どうやって俺に、自分のこと信じさせてるんだろうな。
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