91 / 246

25-5 のん気にこうしてられるか!

 俺たち3人を順番に見てから、鈴屋が口を開く。 「この前のことがあるから、3人には話すつもりだったこと先に言うね。不本意ながら、斉木さんとつき合うことになった。今日から1ヶ月間、お試しで」  束の間、沈黙が流れた。  え!? マジ? あんなに嫌そうだったのに……!?  暫し。俺の問題を忘れてそんな感想が頭に浮かんだのは、俺だけじゃないはず。  だけど、同時に。  なんとなく……そうなる気もちょっぴりしてた。  斉木のあの告白を見たから。 「へーよかったじゃん」 「よくないよ」 「あの男にとっては」 「1ヶ月、身を守らないといけなくなったんだから」 「その必要なくなるかもしんねぇじゃん」 「それはない」  笑みを浮かべる(かい)と、憮然とする鈴屋のやり取り。 「嫌ならどうしてつき合うハメに?」  おかしそうに、御坂が尋ねる。 「あんまりしつこいから、テストで賭けして……負けたんだ」 「なるほどね」 「でも。その賭けに乗ったからには、斉木に……チャンスあげてもいいって思ったんだよな?」 「勝てると思ったから」  俺の言葉に、鈴屋が口を尖らせる。 「斉木さんの得意科目のテスト。95点以上取ったらつき合う。取れなかったら今後一切近寄らないって賭け」 「何点?」 「97点」 「すごいなそれ。相当がんばったんだろ」 「嘘かと思ったよ」 「まぁ1ヶ月、せっかくだから斉木のいいところ見て楽しくさ。そんなに悪いヤツじゃないよ、きっと。な?」  つい同意を求める俺。 「たぶんねー」 「あの時も、本気でレイプまでする気はなかったと思うよ」  おー!  二人とも好意的な意見で何より。 「とにかく。僕のことは報告終わり」  鈴屋の深呼吸で、場の空気が変わった。 「今日の昼休み、斉木さんに聞かれたんだ。2年の杉原、知ってるかって」 「え……!?」  声に出したのは俺だけ。 「涼弥が……何……?」  鈴屋の視線も、俺だけに向いてる。 「知ってるって言ったら、次は……つき合ってる男は?」  何も言えずに先を待つ。 「知らない。いないと思うって答えたよ」 「次は……?」 「こいつ誰かわかる?って……動画を見せられた」  一瞬つぶった目を開けて。  鈴屋を見つめた。  その先は聞かなくてもわかる。  わかりたくなくても……ほかにないから。  言いにくいことを、鈴屋に言わせる必要はないよね。 「俺と涼弥がキスしてるところ……だよな」 「うん……委員長、杉原と……?」  心配そうな鈴屋の瞳。 「つき合ってはいないけど、俺が涼弥を好きで……キスしてたのは事実」 「將梧(そうご)だって言ったのか? 斉木に」  御坂が聞いた。 「ううん。わからないって言ったけど……江藤さんが見てわかったからもういいって、水本さんから電話が来て……」 「水本なのか!? 動画の出どころ」  驚く御坂とは違い、スッと納得する自分がいる。パズルの4辺のピースが揃った感じ。 「じゃあ……ほんとに涼弥は今……水本と……」  呟く俺をチラリと見て、凱が鈴屋に聞く。 「斉木んとこに動画送られてきたの、いつ?」 「3限目かな。昼に見てほしいものがあるってメールあったから」 「じゃあ、同じ頃送られてきた動画見て、江藤はすぐ將梧だってわかったんだな。涼弥の相手が誰か、斉木は知んねぇまま?」 「うん」 「昼はずっとお前と一緒?」 「うん。水本さんに、お前こんなの撮って何やってんのって聞いてたよ」 「ふうん……なら、斉木はこれに関わってねぇな」 「たぶん……ねぇ、これって何? 水本さんはあの動画で何してるの? 委員長は何もされてない?」  鈴屋が俺たちを見回した。 「俺は誰からも何もされてない。されてるとしたら、涼弥だ」 「たとえ敵認定してる相手でも、杉原がキスシーンの動画くらいでいいようにされることはないんじゃない?」 「逆に水本のことブチのめしてるかもねー」  俺と御坂と凱のコメントを聞いた鈴屋が、眉間に皺を寄せる。 「杉原と水本さん、仲悪いの?」 「そーみたい」  凱が答えた。 「二人、今一緒にいるの?」 「動画撮られてすぐ、二人とも学校から出てる。それに、江藤に昇降口のとこで会った時、きみも行くの?って聞かれたから。一緒なのは間違いないと思う」  俺も答え、少しためらってから不安を口にする。 「水本の仲間もいるかもしれない……涼弥と連絡が取れないんだ」 「杉原のほうも仲間呼んだとかは?」  御坂を見て、自信なく首を横に振った。 「確かにさ。涼弥は、動画なんかどこに晒されても気にしないはず。だけど、あいつが誤解してるなら……俺もそうだって思ってくれてないだろ」 「自分のせいでお前がって考えたら、おとなしく言いなりになってるかもってこと?」  意味を捉えて、顔をしかめる。 「嫌だ。そんなの。俺、探しに行くわ」 「どこに? あてもなく探せないだろ」  御坂の言う通りで。  涼弥がどこにいるかなんて、わかりようがないのに。  自分が何も出来ず、ただここにいるのは耐えられない。 「だからって、のん気にこうしてられるか!」  胸の奥でざわざわする不安が、俺を急かす。  この不安のモトになる何かが……涼弥じゃなく俺の身に起こるなら、そのほうがいいと思った。 「待てよ。將梧!」  御坂の止める声を聞かずに歩き出した俺の腕を、凱が掴む。 「落ち着け。考えてから動かねぇと後悔するぜ。涼弥に会いたいんだろ?」  俺を見つめる凱の瞳が暗い。  暗く鋭く、鈍く光ってる。 「頭使ってたら間に合わねぇ時もあるけど、今は使う時」 「凱……俺……」 「会わせてやる。今はここにいろ」 「……うん」  会わせてやるって言われて。お前がどうやってとか、何を根拠にそんなこと……とか思わず、納得した俺。  コイツ……ほんとに……どうやって俺に、自分のこと信じさせてるんだろうな。

ともだちにシェアしよう!