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26-1 後悔してる暇なんかない

「まず、涼弥の居場所知ってんのは誰か」 「本人たち以外は、江藤と……天野も知ってるかもね。あと……斉木はほんとに知らなそう?」  (かい)に続き、御坂が言って鈴屋を見る。 「一応聞いてみる」  鈴屋がケータイを取り出して操作し始めた。 「俺、江藤に聞きに行くよ。教えてもらえるなら何でもする」 「それは……マズいんじゃない? 水本と杉原が一緒にいて。さらにお前が江藤の手の内に入っちゃったら、杉原にとって弱みになるだけだ」  御坂が冷静に指摘する。  う……悔しいけど、一理あるな。 「んーじゃ、俺で。涼弥にとって(しち)になんねぇだろ。居場所聞ければ、何されてもかまわねぇからさ」  は……!? 「かまうだろ!」  つい怒鳴った。凱の提案が信じられず。 「お前、何言ってんの? そんなことダメに決まってるってわかんないのか?」  凱が俺を見つめる。 「わかんねぇよ。あいつの居場所、知りたいんじゃねぇの?」 「だからって……お前が江藤にやられるリスクなんか、負えるわけないだろ!?」 「お前も負おうとしたよな」 「俺は自分のためじゃん!」 「なら、俺もそー。別に犠牲でも何でもねぇの。そんでほしい情報手に入んなら。交換条件」  コイツ、本気で言ってる……取引でセックスするってこういうふうに……か? 「それにたぶん、江藤はやんねぇよ」 「たぶんなんて可能性の話すんな!」 「じゃあ、99パーセントって言えばいーの?」  声を荒げる俺に対し、いたってのん気な凱。  ゆっくり呼吸して。努めて静かに言う。 「嫌だ。ほかの方法で」 「お前手段選べるほど余裕あんの? 俺使えばいーじゃん」 「自分のこと、モノみたいに言うな」 「涼弥に会わせてやるっつったの、嘘じゃねぇよ。出来ることは何でもやんの」 「出来ない。それで会えても嬉しくない。お前は大事な友達だから。そんな真似はさせられない」 「俺にとってもさー、お前は大事な友達だから言ってんだぜ?」    こんな会話の最中でも。凱がいつもの笑みを浮かべる。  このスマイルには弱い……。  どうやってるのか知らないけど……世の中の邪悪も汚醜も全て見てきたような瞳から、無垢な子どもみたいな瞳にシフトさせて……。  毒されるな俺!  そして、落ち着こう。 「ダメだ。却下。江藤はなしで」  キッパリ言うと、凱が笑った。  ふと。  御坂と鈴屋が唖然としたふうに俺を見てるのに気づく。 「あー……ごめん。ちょっと熱く……なっちゃって」 「將梧(そうご)って……」  眉を寄せて言いかけて、御坂が表情を緩めた。 「いや。やっぱりいい。江藤と天野以外で……そうだ。お前、杉原の仲間で連絡出来るヤツいないの?」 「いる。親しく話せるのは2人くらいかな。何か知ってるか聞いてみるよ」  まだ学校だろうから、電話したい気をグッと抑えて。  ケータイの端末に、急いで文字を打ち込む。 『涼弥から連絡ないか? 今どこにいるか知ってたら教えて』    それぞれにメールを送信。  俺が顔を上げるのを待って、鈴屋が口を開く。 「ねぇ。僕が斉木さんに頼んで、水本さんに今どこにいるか聞いてもらおうか」  その申し出はすごくありがたい……けど。 「それ、絶対何かと引き換えになるだろ」 「うまく頼むから大丈夫だよ。お試し期間プラス1週間とか、その程度で」 「凱に言ったのと同じ。鈴屋にもそんなことさせられないって……」 「じゃあ、水本さんの電話番号聞くだけ」  鈴屋が次のオファーを出す。 「お試しでも一応つき合うんだから。もしもの時のために、友達の連絡先くらい知っておきたいって言うから。そしたら直接聞けるでしょ?」 「いいんじゃない? 問題は、誰がどうやって聞くか」 「將梧ならうまくいくんじゃねぇの?」 「俺?」 「お前のこと、涼弥が水本になんつってるか知んねぇけどさー」  策士の顔で唇の端を上げる凱。 「お前に。今すぐそこ行って話つけてやる、どこだって言われたら。水本のヤツ喜んで場所教えるぜ。お前が来たら、あいつのこともっと苦しめがいあんだろ」 「は!? 苦しめがいって……今、何されてる前提なんだよ……!?」 「動画消す代わりに無抵抗でボコらせてるか。ほかの……水本が満足する屈辱受けてるか。どんくらい仲悪いかによんじゃねぇの」  凱にしては珍しく、ちょっとためらいがちに答えた。 「お前いたら、もっと何でもやんだろあいつ」 「う……そん、な……」  言葉で聞いて、初めてリアルにイメージする……苦痛の中にいる涼弥に。  自分の甘さに嫌気がする。  なんっで俺は! 涼弥にキッチリわからせてなかったんだよ……!?    お前のことで俺が困るなんてない。  お前との関係をどう思われたって、誰に知られたってかまやしない。  キスだって、したくてしてた。  お前がごめんなんて言う必要、1ミリもなかった。  俺はお前が好きだ。  何よりも先に伝えるべきだったこと、伝えてないから……こうなった。  ほんと遅いよな。  後悔ってやつ、する意味あるのか!?  意味はあっても、してる暇なんかない。  俺の後悔で割を食ってるのは涼弥だ。  何してんだ俺。  とっとと頭、前に働かせろ! 「鈴屋。頼む。水本の連絡先、斉木から聞いてほしい。俺が電話してどこにいるか聞く。で、すぐに行く」 「わかった」  鈴屋が頷くと、御坂がすぐに待ったをかける。 「將梧。ひとりで突っ走るな。人手がいるだろ。俺も行くけど、腕っぷしに自信あるやつも連れてったほうがいい」 「いざっつー時、人殴れるヤツいねぇとってこと?」  凱がハッキリ言う。 「まぁ……そう。お前は?」 「やれる。5、6人までなら、もうひとり二人いれば何とかなんじゃん?」  思った通り、凱は自信アリ……か。  ほかに誰か……あ! 「玲史(れいじ)に頼んでみる。紫道(しのみち)にも」 「へーあいつケンカ出来んの?」 「うちのクラスじゃ一番強いと思う。みんな、あの見た目に騙されるけどな」 「んじゃ、俺が探してくんね。將梧は涼弥に電話して。仲間の返信待ちながら、何度もずっと」 「ずっと……って?」 「今持ってんのあいつじゃなかったら、誰か出るかもしんねぇだろ」 「僕は斉木さんに聞いてくるよ」  凱と鈴屋が背を向けたその時、着信が来た。  連絡を入れた涼弥の仲間内のひとり、唯織(いおり)からのメール。  11時頃連絡あったよ。  なんかモメゴトみたい。  友己が行ってる。俺ももう少ししたら行ける。  裏2本目のディスガイズ。 「場所がわかった!」  振り向いた二人と御坂が、俺に笑顔を向けた。

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