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26-2 待ってろよ

 鈴屋はディスガイズの情報を検索。  (かい)玲史(れいじ)を探しに。  涼弥に電話をかけ続ける俺の横で、御坂は何やら思案中。 「やっぱり出ない」  呼び出しコール音を20回数えて。ケータイの液晶画面を乱暴にタップして、通話を切った。この3分で5回目だ。 「コールするってことは、電源はオンのまま。呼び出し音はオフでもバイブにはなってるはず。誰かが持ってるか近くにいれば気づいてるよな」  溜息をつく御坂に、俺も長い息を吐く。 「でも無視……か」  6回目の通話マークをタップ。コール音が耳に響く。 「俺からだから出ないのかも」 「知らないヤツからは、よけい出ないだろ」  プッ……。  コール音が消えた。胸が逸る。 「涼弥! 聞こえるか!? 涼弥!?」  返事はない。  だけど、確かに涼弥のケータイがある空間と繋がってる。  その証拠に、誰かの……息づかいが聞こえた。 「おい! 涼弥……じゃないのか……?」  目を合わせた御坂は、黙って俺を見守ってる。  ケータイから顔を上げた鈴屋も俺を見る。  水本か?  そう聞くか迷った数秒後。 「早瀬。これはどういうことだ? お前、何やった?」  声量と怒りを抑えた低い声が返された。  涼弥でも水本でもない。  この声……沢井だ。沢井(さわい)友己(ともき)……じゃあ、今……。 「沢井! 涼弥は!? いるんだろそこに……」 「ああ、いる。店ん中にな。俺は外だ。これは店入る前に持ってろって渡された。お前がしつこく鳴らすから出たんだ」 「外!? 何で……」 「涼弥に言われてんだよ! 話済むまで絶対手出すんじゃねぇ、いいっつーまで中入んなって……わけがわからねぇ」 「中に……あいつといるの、うちの学園の水本か? ほかに何人……?」 「水本ともう二人。そんなことより説明しろ! 早瀬」  目を閉じた。  店の中に涼弥がいる。水本たち3人と。外に沢井。  話をするために、涼弥は水本とその店に……少なくとも、最初は。  手を出すなってことは、涼弥はケンカする気で行ってない。水本の要求をのむつもりで……そして……。  開けた目は、ぼやけてない。 「ごめん。俺のせいだ。涼弥は……俺にとって不都合なモノを、水本が握ってると思ってる。それ潰すためにそこにいるんだ」 「はぁ!? 何であいつがそんなもん気にする必要がある。何にしろ、力づくで取り返しゃいい。あいつら3人くらい、俺と二人で十分やれんのによ」 「……データなんだ。動画の」 「何の?」  言葉に詰まる。     どうせあとでバレるなら、今言うか?  ただ……俺はかまわないけど、涼弥は……仲間には知られたくないかもしれない……って。バカだな俺。  これじゃ涼弥と同じだ。  それに。  ちゃんと言わなきゃ、どうして俺のために涼弥が…って説明にならないよね。 「俺と涼弥がキスしてる動画。今日学校で撮られた」  沈黙。 「俺も今から行く。何かあったら連絡してくれ」  返事……出来ないほど……何だ? 驚愕? 嫌悪感?  何だっていいやもう。 「沢井。もし、涼弥に声届くチャンスあったら……動画なんかどうでもいいからやり返せって伝えて」 「……わかった」  通話が切れた。 「行けんの?」 「どこで誰が相手なの?」  いつの間にか戻ってた凱に、玲史もいる。   「うん。だいたいの状況わかったから。店の中に涼弥と水本たち3人。外に仲間の沢井がいる。沢井は、涼弥とやり合えるくらい強い」 「楽勝じゃん」  凱はすでに解決したみたいにリラックス。 「じゃあ、僕は要らない? 紫道(しのみち)は置いてきたけど」  玲史は……何故か楽しそうだ。 「いや。お前も来て。学校終わって向こうの人数も増えるかもしれないし」 「お礼にあとで僕の遊び相手してくれる? 將梧(そうご)、男もオッケーになったんでしょ?」 「高畑。それ……」 「いいよ」  御坂を遮って答える。 「SMでも何でもつき合う。だから、今は手貸して。頼む」 「へー本気なんだ」  数秒、真顔で俺を見つめて、玲史が笑った。 「冗談だよ。見返りなんか要らない」 「え……」 「期待させてごめんね。これとは別で、將梧が興味あるなら教えるから」 「教えなくていい。期待もしてない」 「残念」  わざと肩を落とす玲史を見て、笑みを浮かべる。  沢井との電話で尖ってた気持ちの先っちょが少し丸まった。 「玲史……ありがとな」 「相手、水本って言った? あのケンカ好きの3年?」 「知ってんの?」 「一度、僕が襲われかけたところに通りかかったことあってさ」 「あいつ、ノンケなんだろ? んじゃ、当然……」  凱が悪い顔で笑みを浮かべる。 「そ。襲ったヤツ、一緒にボコボコにしたよ。わりと容赦ない男だよね」 「今回は敵でいーの?」 「うん。將梧をネタに杉原が脅されてるんでしょ? 理由はそれで十分」  玲史と凱が、俺を見る。 「6限も終わるし、もう行く?」  御坂の言葉に頷いた。 「委員長。僕は残るけど、必要だったら連絡して。あと……斉木さんの端末の動画、なんとか消させるから」  鈴屋を見て首を横に振る。 「気にしなくていい。江藤のとこにもあるし。あ……そんなガッツリ鮮明だった?」 「ガッツリっていうか……」  例の動画を実際に見た鈴屋が、困り顔で言葉を濁す。 「わかった。うん。もう……」 「見ててドキドキしたよ。けっこう……」 「ストップ。言わないで」  照れる俺に、鈴屋が口元をほころばせる。 「気をつけてね」 「うん。じゃあ……」 「行こっか」  玲史が俺の腕を取って歩き出し、凱と御坂も続く。 「実は僕、紫道の次に杉原のこと狙ってたんだよね」 「え!?」 「好みのタイプだけど、ノンケだから遠慮してたのに。まさか將梧にさらわれるなんて悔しい」  腕を組むように擦り寄った玲史の瞳があやしく光る。 「と、思ったんだけど。將梧に興味湧いちゃった」  え……それはどういう……? 「杉原に飽きたりプレイが物足りなかったら、いつでも来てよ」  美少年顔の玲史の上目遣い。  これにやられる男は多いんだろうな。いや。騙される男は、か。 「うん。万が一そうなったらな。あーでも、縛るのはなしで」 「うわー何その自信たっぷりな返し。男と恋して変わったの? 將梧。前よりいい感じ」  変わった? そんなすぐ?   違う……素の自分になってるんだ。ここでも。  涼弥の前でも……素直な自分でいたい。  待ってろよ。  今、行くからな。

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