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26-6 この件落着

「何だ?」  玲史(れいじ)の笑みに胡散臭げな目を向けて、水本が尋ねる。 「お友達の江藤さんの……シークレット情報」 「はぁ!?」 「(かい)。端末で画像」 「あーアレ?」  凱がケータイ画面をタップしながら、玲史とともに水本の前へ。 「聞かれちゃマズいから。耳貸して」  水本より10センチくらい背の低い玲史が、横からヤツの腕を掴んでちょっと屈ませる。 「いったい(じゅん)が何っ……ッ……ん……!」  う……わ、玲史……!?  緊迫感の薄れた空間が、新たな緊張に包まれた。  俺を含めて。マイルドに水本と玲史のやり取りを眺めてた店の中にいる人間は、唐突な出来事に驚きを隠せない模様……凱を除いて。  玲史が水本にキスしてる。  突然ってだけじゃなく。まったく予期してなかった玲史の行動に、水本は咄嗟に拒絶のリアクションが取れなかったようで。  プラス、首に回された玲史の右手に押さえられ、頭も動かせないっぽい。  場が停止しておよそ10秒後、水本が両手で玲史の肩を掴んで引き剥がした。 「な……にしやがる!? なんの……」  事態を飲み込めない顔で玲史を、そして、凱を見て固まる水本。  玲史も凱を見る。 「撮れた?」  かまえたケータイを下ろし、凱が黒く微笑む。 「連写でバッチリ。最後いーね。お前のこと引き寄せてるみたいで」 「ごめんね。將梧(そうご)と杉原の動画の……保険にもらっといた。そんなに悪くなかったでしょ? 男も」  平然と言い放つ玲史を、水本はひきつった表情でただ見つめるだけ。たぶん、言葉が出ないんだろうな。  ちょっと……同情する。 「將梧。もういいよ。帰ろう」  玲史のニッコリと満面の笑みを見て。  コイツが一番怖いんじゃないの? 数々の面において……と思った。  玲史の行動が新たな揉めゴトを引き起こすこともなく。  微妙な空気の中、涼弥に顔の血を顔を洗い流させてから。ディスガイズを無事脱出した俺たち6人は、駅に向かって歩き出した。  店の中ではアレコレあってすっかり忘れてた唯織(いおり)のことを、店を出てすぐに尋ねると。さっき増えた他校の3人と顔を合わせたくない事情があって、店での対峙には加われなかったらしい。  駅付近で沢井と合流する予定の唯織には、会ってしっかり礼を言わなきゃな。  俺と涼弥が、あらためてみんなにありがとうを伝えて一段落ついたあと。 「玲史。お前、何であんなこと……」  言葉を濁して聞いた。  きっと、御坂も沢井も涼弥も気になってるはずだけど、誰も言い出さないから。 「言った通り、保険だってば。自分のキスシーンこっちに押さえられてたら、水本が將梧の悪用する確率グッと下がるでしょ」 「だからってさ……」 「深く考えないで。ただの演技。俳優と一緒。来る前、凱と話してたんだ。同じネタ作れないかなーって」 「俺がやるより玲史のほうがあいつ、嫌悪感ねぇだろ」 「ノンケにとったら男はみんな……ダメなんじゃない?」  凱への御坂の問いにも、疑問が浮かぶ。 「それって、女ならいいのか? あー……誰でも?」 「よっぽど自分の嫌いなタイプじゃなければ。基本、男はそうだと思うけど。ねぇ?」 「どうだろうな。俺はあんまり……その手のことは、得意じゃないから……何とも言えないが……」  御坂に話を振られた沢井は、ちょっとしどろもどろだ。  ほんとに得意じゃなそう……硬派な感じだしね。  女好きの御坂はともかく。  一般的な男は、女に……たとえば、かわいい女にキスされたら。  ラッキーって思えるの? 好意を持った相手じゃなくても?  ゲイだってさ。  好みの男ならオッケーって思えるのか?  俺は……全然そうは思えないんだけど。  玲史や凱にとっては、嫌悪感ナッシングなことなら……まぁよしとするか。  なんかモヤっても、助かったのは事実だ。  事前に知ってたら反対したけどな。 「水本の顔は見物だった。殴るよりスカッとしたな。涼弥。お前はこれでよかったか?」 「十分だ。こうなったのも自分のせいだ。俺が悪い」 「何べん言ってんだよそれ。いつまでもウジウジしてんじゃねぇ。早瀬に愛想つかされるぞ」  沢井の言葉で、涼弥が俺を見る。  あーつかさないからさ。  今! みんないるとこで、ジッと見つめないで!   「んじゃ、早く二人きりにしてやろーぜ」  涼弥プラス4人の視線に耐えられず俯いた俺に、凱の声。 「將梧。お前、家帰ったら涼弥の面倒みてやれよ」 「うん。大丈夫」 「明日のことは樹生(いつき)と考えとくねー」  顔を上げた俺に、凱が意味ありげな瞳で微笑む。 「お前はそっち。キッチリハッキリ。誤解残んねぇように、させねぇようにな」 「そうする。ありがと……」  凱に笑みを返し。 「玲史も御坂も、沢井も。ありがとな」  あらためて礼をする俺から涼弥へと視線を移し、沢井が口を開く。 「早瀬の顔、やったのは俺だ。1発殴ってもいいぞ」 「ダメだ。これは自業自得だから。やるなよ」  すかさず、涼弥に言った。 「なら…俺がお前にやられる分、將梧のお返しと帳消しだな」 「そりゃ助かる。今のお前殴るのは気が引けてたとこだからよ」 「涼弥! 友己(ともき)!」  沢井の笑い声に、唯織の呼ぶ声が重なる。  ちょうど駅が見えてきたところだ。 「うまくいったって? 結局、何がどうしたっての?」 「悪かったな、手間かけさせて。助かった。ありがとう」 「うわ。やられてるじゃん。涼弥が何で? 縛りつけられでもした?」  涼弥の顔を見て眉を寄せた唯織が、俺に視線を移す。 「將梧が来てるってことは、チームのいざこざじゃないよな?」  唯織のクエスチョン全てに答えるには、気力がないだろう涼弥をいたわってくれてか。 「俺がわかってることは説明する。涼弥からは今度な。今日は帰らせてやれ」 「いいよ。とりあえず、解決してよかった。水本に加えて松田もだと、揉めるのしんどいしね」  沢井の言葉に、唯織はあっさり承諾した。 「ありがとな、唯織。お前が涼弥の居場所教えてくれてなきゃ、もっとやられてたよ」 「いまいちわかんないけど、役に立ったなら何より。將梧も今度、俺らとつるもうな」 「うん。そのうちまた顔見せる」 「じゃあ、唯織。悪いが、詳しいことは日曜に話す。友己……頼むな」 「ああ、任せとけ。つってもよ、お前らが何でそうなってんのかは俺も知らねぇ。あとで聞かせてもらうぞ」 「わかった」  駅に着き。俺と涼弥は、玲史たち5人と別れて改札を抜けた。  涼弥の家に一緒に行って傷の手当をして、取り急ぎ今話さなきゃならないことだけは話し合うつもりでいる。  水本との一件にカタがついて、手を貸してくれた友達たちには感謝しかない。  コトの発端は、撮られた動画……いや、涼弥の誤解……そもそもあそこでキス……俺が話あるって言った……涼弥が目逸らすから……じゃなくて。  俺たちの意思疎通がなってないからだ。  反省しきりの俺。  するなら、反省は行動とセットにしなきゃな。

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