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28-4 手出すな

 俺たちのほうへ向かってくる涼弥を、周りのヤツらがガン見する。  目立つよね。明らかなケンカ傷。  しかも、(まと)ってる雰囲気が和やかじゃない。 「どうした? 早いな。昼飯ちゃんと食ったか?」  尋ねると。立ち上がろうとする俺を制し、涼弥が薄く微笑んだ。 「ああ。薬もちゃんと飲んだ。飯食ってろ。ちょっと(かい)に言いたいことがあるだけだ」 「俺? 座れよ。ケガは平気なの?」 「このくらい何ともない」  凱に答え、空いたイスに腰を下ろした涼弥が3人を見やる。 「昨日は世話になった。ありがとな。鈴屋も」  鈴屋はディスガイズには行かなかったけど、協力してもらったって言ってある。 「僕はほとんど何もしてないよ。無事解決してよかった。この前、杉原も助けに来てくれたでしょ。ちゃんとお礼言ってなかったね。ありがとう」 「俺はあの時、見てただけだ」 「それでも。いてくれるだけで助けになることあるから。結果として何もしてなくても」 「……ああいうのは許せない」 「凱もそう。ジムで言ったろ。だから、江藤と話しにいくんだ。止めるなよ」  俺を見て、涼弥が目を(すが)める。 「止めに来たと思ってるのか?」 「思ってない」  涼弥と目を合わせて、口元に笑みを浮かべた。 「止められないのわかってるだろ。俺も、行くのやめないからな」 「それもわかってる。だから……凱。江藤に手を出すな」  凱が片方の眉を上げて涼弥を見つめる。 「お前、ゲイじゃないって言ってたが……嘘だろ」  御坂、鈴屋とさっと交わした視線を凱に向ける。 「嘘じゃねぇけど、ノンケでもねぇよ。女も男もオッケー」  一呼吸置いて、凱が答える。 「面倒だから、ノンケってことにしてんの」  涼弥が溜息をついた。 「今朝、上沢に聞かれた。早瀬と一緒に柏葉と江藤を見張る。柏葉は本当にノンケかってな。そのはずだと言ってあるが、信じちゃいねぇぞ」 「サンキュ。江藤に手出すつもりはねぇよ」 「そうしてくれ。江藤は危険だ。噂が間違っててもだ。お前も十分気をつけろ」 「うん。わかってる」 「杉原。何か知ってるのか? 凱に、江藤に手出すなって……向こうがレイプする心配より、何でこっち?」  御坂の疑問は俺も感じた。  江藤の噂について、涼弥と具体的に話したことはない。 「ひとり……江藤の噂を流したヤツを知ってる」 「やっぱ脅されたの? あいつ、ネコなんだろ?」  凱の問いに、涼弥が目を見開く。 「逆レイプってゆーみたいねー」 「そこまでわかってるなら何で……」 「ほんとなら。ムリヤリなのは変わんねぇからさ。どーしてそんなことして逆の噂流すのか、聞いてくんの」  凱が笑顔を見せる。 「大丈夫。俺に非があるよーな真似はしねぇよ。上沢の怒りが將梧(そうご)にいくの、心配なんだろ?」 「それもわかってるならいい」  涼弥も笑った。  そして、俺を見る。   「將梧。朝言い忘れたが、上沢のヤツ……俺とのこと知ってるぞ」 「あ……撮られてすぐ、江藤のとこにもあの動画いってるんだ。水本がお前の相手……俺が誰か知ってるかって。あと、斉木にも。ほかにいるかはわからない。ごめん。お前に言ってなかった」  涼弥が思い切り眉を寄せた。 「上沢は、昨日の昼会った時は知ってる感じじゃなかったけど。あとで江藤から聞いたんだろうな」 「水本の野郎……」  いまいましげに呟くも。それ以上は言わない。  涼弥も、自分と俺がそもそもの原因だってわかってるから。 「あいつ、お前に何つったの?」  凱が尋ねる。 「仲いーの?」 「いいほう……だな。生徒会の連中とつるんでる以外はまともなヤツだが、今日いきなり……お前やっぱりゲイだったんだな、早瀬とデキてんのかって聞かれてよ。否定したら……」 「何で否定……? お前また……」 「認めてよかったのか?」  遮った俺の言葉に被せるように、涼弥が聞き返す。 「俺はかまわない。お前は?」 「お前がノンケじゃないってなると、変なのが寄ってくるだろ。そう思ったが……ダメだ。お前に手出すなら覚悟しとけって上沢に言っていいな?」 「いいけどさ。言わなくても上沢は俺に何もしないって」 「何でそう言い切れる? 俺が否定したらあいつ、お前がいらねぇなら俺がもらうかなっつったんだぞ」  あー……上沢もよけいなことを……。 「涼弥。それ、お前のことからかってるだけだ。否定しても信じてなくて。仲悪くないなら、お前がどんな反応するか知ってるだろうし……」 「なおさらムカつくな。ぶん殴ってやる」 「お前、勝てんの? あいつ強いだろ」 「ああ。本気出されたらやられるだろうな」  凱に聞かれて、投げやりに言い放つ涼弥を睨む。 「何バカ言ってんだよ。くだらないことでケガ増やすなら……」  増やすなら……?  いい脅し文句は………。 「お前とやんの、お預けだって」 「凱……」  それ、言わないでおいたのに。  最強の脅しだけどさ。 「……ケンカはしねぇよ。上沢に釘刺すだけだ。放課後な」  立ち上がり、涼弥が去った。 「杉原ってかわいいね」 「からかいがいあんな」 「將梧とお似合いだよ」  鈴屋と凱、御坂のコメントに反論する気も起きず、深い溜息をつく。  いや。みんな褒め言葉だ。前向きに考えろ! 無理にでも前向けば、見えるのはポジティブな景色のはず……と、自分に言い聞かせる俺。  何事も捉え方だよな。

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