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29-1 寮へ
SHRが終わって間もなく、上沢が現れた……涼弥とともに。
「早瀬。とっとと行くぞ。コイツがうるせぇ」
「お前が信用ならねぇからだ」
不満げで不機嫌で、不安げな涼弥に。安心させるように瞳を見て笑いかける。
「大丈夫。俺は心配要らない。もちろん、凱 のほうもな。だろ? 上沢」
「当たり前だ」
「じゃあ、先行くな」
凱に言った。
「よろしくねー」
手を振る凱をじっと見つめるも何も言わず、上沢が歩き出す。
涼弥ともう一度視線を合わせて頷いてから、後に続いた。
「お前、いつから男好きになったんだ? 彼女いたよな?」
昇降口を出たところで、上沢に聞かれた。
「涼弥が好きだってやっと気づいた……っていうか、認めただけ」
「杉原が早瀬と……昨日、絢 に聞いてもすぐにゃ信じらんなかったぜ。杉原がゲイなのはともかく、相手がお前だってのはな」
「何で?」
「お前がデキてんなら、柏葉とだろ」
「は!? 俺が凱とって……何でそうなる? そんなわけないじゃん!? あいつは大事な友達だ」
つい声を大にして否定。
「お前、あの男の世話焼いて仲良さげだったからな。ムキになるなよ」
確かに。
ムキになって否定すると肯定に聞こえてくるしね。やめよう。
実際、凱とつき合ってはいないけどセックスしたんだから……上沢の見る目は、ある意味正しい……のか?
「まぁ、杉原に疑われねぇようにするこったな。らしくねぇくらいバカになってるぞ、あいつ」
上沢がおもしろそうに笑う。
「嫉妬心と独占欲。疑心暗鬼。恋する男ってのは愚かだねぇ」
「笑うな。俺と涼弥のことはいい。お前は?」
方向転換しないと。寮までは5分しかない。
「中学の時はノンケだったのに、いきなりゲイになったろ。何人かつき合ったの聞いたし、去年から生徒会のガードみたいなことしてるよな」
「それが?」
「高校入ってからは、お前とろくに話してないけどさ。江藤のこと……聞いていいか?」
険しい瞳で、上沢が俺を見据える。
「会長の何が知りたい?」
「その前に。お前と江藤の関係は? つき合ってるのか?」
「俺が会長と?」
「さっき、絢って言ったから。無意識にだろ」
足を止めた上沢と見つめ合う。
3秒……6秒……。
10秒経つ前に、上沢が目を逸らして歩き出した。
「早瀬……」
俺に視線を向けずに、上沢が口を開く。
「どういう関係なら、つき合ってるっていえる? つき合おうぜっつってオッケーしたらか? 好き同士でセックスしてたらか? お前らはどうだ?」
俺と涼弥は。
気持ちは通じたけど、まだつき合ってるとは言えないか?
そんな話はしてないし。
俺、偽装といえども深音 とちゃんと別れてないし。
お互い、好きだって言ってから、24時間も経ってないもんな。
でも、口に出してなくても。
好きでキスして、感覚としてはすでに恋人同士の気分だったよ。
特に涼弥は、昨日までとガラリと変わってるし。俺に対する態度とか、頭の中が……おかしいだろってレベルで。
「これからつき合うと思う。気持ち伝えたの、昨日だからさ」
上沢がフンッと鼻を鳴らした。
「会長……絢とは、6月の始め頃からだ。お前の、つき合うって定規で測れるかは知らねぇが」
「どういう意味?」
「つき合うことにオッケーで、セックスもしてる。俺は絢を好きだが、あっちはそうでもねぇ。ほかのヤツともやるしな。俺を信じてもいねぇんだ」
言葉の意味は理解出来ても、何も返せない俺。
「それでもよ。嫌いになれねぇし、放ってもおけねぇ。だから、今日みたいにわかってる時は止めてやる」
「止めるのは……江藤を、なんだな」
「柏葉もだ。絢が誘えば大抵落ちる。去年からずっと見てきたんだ」
「あの噂。江藤がレイプ魔ってのは逆で……脅して、江藤にレイプされたって言わせてるんだろ?」
「何だ。バレてんのか。脅しは、俺と天野さんがな。動画だけでも十分だが、拳が必要な時のためによ」
俺を見やり、上沢がニヤリとする。
「自分がやってる画 ってのは、人に見られたくねぇもんらしい。杉原もそれで水本さんにやられたんだろ。たかがキスしてるだけので」
「ちょっ……と待て。偽の噂はお前と天野が? 何のために……?」
「大声出すんじゃねぇ。その話はあとでな。人に聞かれる」
寮の門をくぐった。まだ少ないけど、帰宅してる生徒もちらほらいる。
「見張るってどこで? 二人が部屋入ってから、ドアの前とか?」
「んなわけあるか。絢の部屋ん中だ。ケータイ出せ」
え!? 中……!?
「電源切って俺が預かる。どうせ、ほかのヤツらもここに来んだろ。連絡してこられちゃマズい」
「そうだけど……江藤の部屋の中って……どうやって……」
「いいから早くしろ」
「言っとかなきゃ、心配かける」
ケータイを取り出す俺の腕を、上沢が掴んだ。
「部屋にいることは言うな。音立てねぇように電源切るとだけ話せ」
「どうして……」
「俺がお前を質にするって思われると面倒だ。まぁ、俺は絢が柏葉と話すること自体、なくなってもかまわねぇけどよ」
合わせた目。上沢の暗い瞳から真意は探れない。
もし。
凱が危ない状況になったら、助けに行けるしケータイも使えるはず。
平和に話し合いで済むなら、連絡は不要。
凱は、江藤と話すことを望んでる。
ただ、涼弥が……納得するか?
しないだろうな。
でも、ここは堪えてもらうしかない。
あとは。
俺が上沢を信用出来るかどうか……。
「わかった」
頷くと、上沢が俺から手を放した。
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