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29-7 明日の夜、泊まっちゃえば?

 玄関に行くと、沙羅はまだ靴を履いたままだった。 「私、樹生(いつき)とつき合うことにした」  ハッキリ口にして、沙羅が口角を上げる。 「決めたの。あたたかく見守って」 「うん……いいのか?」  別れた時と、御坂が変わらず同じでも?  口にしないそれに、沙羅が答える。 「よくはないわよ。でも、嫌いになる理由にならなかったから。今は自分のしたいようにするの」 「ん、わかった」  頷いた。 「どうした? 上がらないのか?」 「明日、樹生のとこ行くんだけど……あさって帰るわ」 「え……泊まるの?」 「そう。家、ひとりだって言うから。なんかマズい?」 「いや……マズくはないけど」  いきなりハードだな? 「今このまま行くんじゃなくて、明日だろ?」 「外に樹生がいるの。將梧(そうご)の許可がほしいって」 「は……!? あー……」  御坂の言ってたことを思い出した。 「悪いな」  外に出ると、うちの入り口の前でこっちを見てた御坂が言った。 「いいよ。沙羅がそうしたいなら、お前んとこ泊まるのも。言ったじゃん? 俺の許可とか要らないって」 「俺も言ったろ。安心するって。送ってきたついでだし。あと……」  御坂が真顔になる。 「ちょっと気になった。お前、寮でおかしかったから」 「あれは……」  言うか。簡潔に。 「1年の終わりに、先輩にレイプされかけたことあってさ。寮の部屋で。(かい)見て……思い出して気分悪くなっただけ。すぐ治ったし、大丈夫」  眉を寄せる御坂に。 「セックスに恐怖もないし、ほんとに」 「そんなことあったのか……無理はするなよ」 「うん。あ。御坂……」  手枷で連想して思い出した。 「監禁はやめろ」  御坂も自分が言ったことを思い出したらしく、口元に笑みを浮かべる。 「日曜日にちゃんと帰すよ。うちに監禁なんか出来ないしな」 「手頃な場所があったらやるみたいに聞こえる」 「しない。大切にするから」  御坂の本気はわかる。互いに好きなら、つき合うのは自然なこと。  ただ、出来れば……浮気なしでつき合えるよう、傍で見る俺は願うだけだ。 「じゃあ、また月曜」 「学校で。沙羅のこと、よろしくな」  頷いて、御坂が帰っていった。  庭のベンチに座って待ってたらしい沙羅の横に、腰を下ろす。 「いいよって言った?」 「うん」 「ありがと。樹生が、そうしないと不安だって。最近、仲良くしてるみたいね」 「そうだな。前より、よく話してる。凱が来てからいろいろあったし」 「ほんとに」  沙羅がゆったりと微笑んだ。 「深音(みお)とは終わりにしたよ。今日、駅で会って話したんだ」 「偽装交際はおしまいでも、特別な友達よね? 仲間だもん」 「まぁでも……彼女とは違うじゃん? 涼弥にとってもさ」 「これで心置きなくつき合えるじゃない。明日、將梧たちも会うんでしょ?」 「うん。うちで遊ぶことにした。父さん母さんも、お前もいないし」 「涼弥も明日の夜、泊まっちゃえば?」 「え……うちに!?」  素で狼狽える俺を見て、沙羅が愉快そうに笑う。 「今までにも泊まったことあるのに、何でそんなに焦るの?」 「いや、だって……」 「明日は恋人同士だから?」  溜息をついた。 「でも、やらないから。まだ」 「だとしても、好きなら一緒にいて楽しいでしょ? せっかくだし、涼弥は絶対喜ぶって」  涼弥が……喜ぶならいい……かな。俺も嬉しい。  たださ。長い時間一緒にいると緊張するっていうか、間が持たなそうっていうか……。 「沙羅。御坂といて、何するんだ? あーえ……と、セックス以外に。ほかにも何かするだろ?」  眉間に深い皺を刻み、沙羅が顎を上げる。 「將梧。あなたがどう思ってるのか知らないけど。私は樹生の性欲処理の道具でもセフレでもないのよ?」 「だから聞いてんじゃん……彼氏と昼から一晩中一緒にいて、何するのかって」 「普段ひとりですること、一緒にするの。ご飯食べたり、テレビ見たり映画見たり。買い物するとか散歩するとか。のんびりお喋りだって楽しいでしょ」 「それ、男同士でもか? なんかしっくりこない」 「かまえ過ぎ。前みたいに普通に遊んで、たまにイチャイチャすれば? やらないって決めてるなら……適度にね」  それが出来なそうなんだよ。  普通にってどうだっけ?  イチャイチャって、触るとかキスするとか?   そんなのずっとしてられなくないか?  だって勃っちゃってるだろきっと?  やらないのに、イチャイチャするの……生殺しだよね?   「適度にって無理。お前と御坂は、最終的にやるだろうからいいけどさ」 「ねぇ。つき合ってるからって、エロくなくてもいいのよ? 涼弥が將梧に求めてるのってそれだけなの?」 「え……どうだろう」 「じゃあ、將梧は?」 「それだけのわけないじゃん。でもさ、すげー近くにいたら……そういう気分になるだろ」  エロに不慣れな俺。中坊みたい。童貞なみに自信なさげ。 「その気分を楽しむの。相手をうまく宥めてかわしながら」  なるほど。  さすが姉……たった数十秒か1、2分でもな。  恋愛に関して俺は初心者だし。 「とにかく。明日は邪魔されず二人きりになれるチャンスなんだから。涼弥に聞いてみれば? うち泊まるか?って」 「うん。そうする……かな」  満足気な笑みを浮かべる沙羅に、ひとつ警告を。 「明日さ。御坂に、知らない場所に閉じ込められないよう気をつけろよ」  今週ラストイベントの『涼弥と話をする』は『遊ぶ』に変わり、『お泊り』へと進化しそうだ。好きなヤツと眠ってる間も一緒にいるなんて未体験の俺。  恋愛経験って、積めばいろいろ余裕になるのか? 今はとてもそうは思えないけどな。

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