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30-1 お前だけだ
結局というか予想通り。
土曜の今日、涼弥はうちに泊まることになった。
ゆうべ電話で涼弥の意思を尋ねると。
『誰もいない……って……いいのか? お前、俺が治ってからって言ったよな? 明日……』
待て!
泊まる、イコール、セックスする。じゃないだろ……!?
やっぱり、涼弥はそれなのか? だけ、じゃないにしてもだ。
やらないことをシッカリと伝え。それでも泊まる気はあるかと聞くと、イエスの返事。
声にガッカリ感が滲んでたのは、気のせいだと思おう。
でもって今日。午後2時頃。
凉弥が家にやってきた。
「いらっしゃい。久しぶりね。元気にしてた? 痣だらけの顔も哀愁あっていいじゃない」
涼弥の挨拶の声に続き、母親の声。
「また背が伸びて、ずいぶん大人びましたね。相変わらずケンカばかりですか?」
父親の声。
「はい。あ……これは、ちょっと……」
「きみはもうそれだけ大きいし、力も強いでしょう。やり過ぎると子どものケンカでは済まなくなる。相手は選びなさい」
「はい……」
玄関で俺の両親に出迎えられた涼弥は。2階から下りてく俺に、助けを求めるような顔を向けた。
「大丈夫だよ。涼弥は理由なしで人は殴らない」
横に来た俺を見て、父親が片眉を上げる。
「では、涼弥くんが殴られた理由もあるということですね」
「ある。けど、涼弥は悪くない」
「興味深いな」
顎に手をあてて考え込む父親は放って。
「上がれよ」
涼弥を救出。
「じゃあ、今日はゆっくり楽しんできて」
二人に言った。
「ありがと。あと1時間くらいで出るわ。ゆっくりしてってね」
涼弥に微笑む母親と、未だ思案顔の父親を残し。俺たちは2階の自室へ。
「ここにお前がいるのも、久しぶりだな」
部屋に入り、ベッドを背にローテーブルの前に腰を下ろす。一応、二人で遊べるビデオゲームを用意してある。
「座らないのか?」
立ったままの涼弥が、俺と合わせた目を逸らす。
「隣はヤバい……」
「は!? ゲームするだけだろ」
「……自信ない」
ないって……。
隣でゲームも出来ないほどなの?
何でそんな飢えてんの?
俺に求めるモノ、それだけか……!?
ちょっぴりそう思い。
でも、そんなはずないと気を持ち直す俺に、涼弥がぎこちない笑みを見せる。
ただ遊びに来るには不要な……泊まり用の着替えとか入ってるだろうバッグを床に置き、羽織ってたシャツを脱いで。
「先に藤宮の話させてくれ」
涼弥が俺の対面に座った。
「うん」
「一月くらい前、街で男3人に絡まれてる藤宮を助けた」
「言ってたな。ナンパか?」
「いや。藤宮は……」
僅かに眉を寄せて、涼弥が続ける。
「一見女っぽくない恰好で、女を連れてたんだ」
「え……」
「最初、絡んだヤツらも男だと思ったらしくてな。揉めて女だとわかって、二人連れてかれそうになってたところに出くわした」
「お前も男だって思ったのか?」
「女に見えた。男なら、暫くは放っておいたぞ。彼女の前で少しは格好つけさせてやらないとな」
「そう……か」
「先週、女子部で会ったのが二度目だ。あの時、自分は女が好きだが気づいたかと聞かれた」
「え!? 女がって……和沙がレズってこと……?」
「みたいだ。そこはいい。俺も同類だからな」
俺もか。確かにそこは問題なし。驚いたけどさ。
「気づかなかった。興味もないと答えたら……やっぱり、あんたもこっちだと思った……と。で、彼氏のフリをしてほしいってなった」
なんか話飛んでないか? でも、とりあえず、そこもいい。
「よくオーケーしたな。お前、その類のこと得意そうじゃないのに。人助けか?」
「いや……俺にもメリットがあった。それに、藤宮に軽く脅された」
「は……!?」
涼弥の瞳に怒りはなく。すまなそうな瞳で俺を見る。
「和沙は何て……?」
「俺がお前をそういう目で見てるって、すぐに気づいた。他人にも本人にも知られたくないなら、あんたにとっても悪い話じゃないだろうってな」
すごいな、和沙。
気づくのもだけど、涼弥相手にそれ言えるってのがさ。
「俺がお前をって誰かに思われるのは避けたかった。お前にも。女とつき合ってるってなりゃ、ノンケに思われるだろ」
「けど、フリしてほしいって頼まれたって……俺に言ったじゃん? 何で?」
「それは……藤宮とつき合ってみるかって言った時、お前が……」
先を続けず、涼弥が俯いた。
俺が……? 何言ったっけ? 驚きはしたよね。動揺もした。
待つこと10秒。
「傷ついた顔したからだ。ショック受けたみたいな、悲しそうな……その時、ちょっと期待しちまった自分が嫌になった」
顔を上げた涼弥に見つめられ、胸が熱くなる。
「だから、今度遊ぼうって言ったんだ。そろそろ、もう……限界だってな」
それで土曜日に話がある、に繋がるのか。
ほんとギリギリっていうか……いろいろ、タイミングよく起きて……今がある。
「おととい、お前に藤宮とのこと聞かれなけりゃ今日、どうなってたか……考えるとゾッとする」
「襲いかかる前に好きだって言ってくれたら、少なくとも終わりにはなってない。俺もお前が好きなんだからさ」
笑みを浮かべる俺に、涼弥が目を細める。
「だといいが……」
「和沙とホテル行ったのは……?」
そもそもの発端の理由を聞いた。
「藤宮は、ああ見えていいところの娘で、親に結婚相手を決められたらしい」
「へぇ……」
「相手から断らせるために、昼間から男とホテルに入るところを撮らせたい、ここ何日か探偵の尾行がついてるからと頼まれた」
「なるほど。でもさ、度胸あるよな。お前のこと、あんまり知らないのに」
「女に興味がないってので十分だと思うが……まぁ、気概のあるヤツだ」
「涼弥……」
一度、ハッキリ聞いておこう。
「お前、女はダメなのか? その……やろうと思えば出来そう?」
涼弥が目を瞬いた。
「やろうと思うことなんかない。抱きたいのはお前だけだ」
普通に言われても…顔が火照る。
コイツはよく照れないよな?
「そうかもしれないけど……物理的にとか、必要に迫られてとか」
「かもじゃない。お前だけだ」
涼弥が繰り返し、口元だけ笑う。
「だが……扱かれりゃ勃つだろうから、出来はするな。それに、やらなけりゃお前が犯られるって状況ならやるぞ。誰が相手でも」
瞳の奥を見つめ合う。
「お前だけだ、將梧 」
「俺も、お前がいい」
あぁ……遠いな。もっと近くないと……触れない。
テーブルに身を乗り出そうかと思った時。
「將梧! 私たち行くわね!」
階下から母親の声。
「いってらっしゃい! 気をつけて!」
部屋の外に出て、大声で返す。
「はーい。明日ね!」
玄関のドアが閉まり施錠された。
その音を聞いて部屋に戻ると。立ち上がった涼弥が、ベッド側に移動するところだった。
「やるか? ゲーム」
「ああ。やろう」
俺と涼弥、二人きりの時間が始まった。
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