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30-2 我慢出来ない

「あっそこ……ちゃんと押さえてろよ!」 「悪い」 「今度は俺がやるから、お前先行って」 「わかった。タイミング合わせるぞ」 「あ……くそ……これ無理……」 「早過ぎだ。もう少しゆっくり……」 「でも、それじゃ間に合わない……あっ」  画面の中で。  涼弥が動かしてるソルジャーが、重い鉄の扉に潰された。俺の動かすソルジャーも、敵に脳天を撃たれて倒れた。 「あー難しいなこれ」  コントローラーを脇に投げ出して、ベッドに頭を預ける。 「簡単にクリアしちゃつまんねぇだろ。こういうゲームは」  涼弥が笑う。 「そうだけどさ。達成感得るためにやってるんだから、失敗で溜めたストレス解放出来なきゃな」  両親が出かけてから小一時間。俺たちはビデオゲームに興じてた。  今やってるのは、捕虜になったソルジャーが敵陣から脱出するゲーム。  二人のプレイヤーが協力してクリアするのが必須で。片方が囮になって見張りの目を引きつけたり、障害物をどかしたりトラップをしかけたりする。  オンラインで見知らぬ人間ともプレイ出来るけど、友達と互いの不手際を罵り合いながらやるのがおもしろい。 「喉乾いたな。なんか取ってくる。何がいい?」 「コーラか、炭酸なら何でもいい」 「ん。待ってて」    ひとりでキッチンに来て、息をついた。  ゲーム……思わず熱くなった。前みたいに遊べるじゃん? 最初はちょっと意識しちゃったけど、大丈夫。  俺たちはエロじゃないとこで楽しめる。  もちろん、エロいこともしたい。  でも。  親いなくなって即だと……。  あからさまにソレ目的っぽいし、ほかのこと出来なくなりそうだし……まだ、真昼間だし!  そりゃ、触りたくなったけどさ。  キスしたくもなった。  けど……今日はほぼ、タイムリミットがない。邪魔も入らない。止める人もいない。  てことは、だ。      涼弥がその気になったら俺、逃げられない……!  いや。逃げたいんじゃなく。嫌なんでもなく。怖いんでもなく。  今日は最後までやらないって決めた。  涼弥の肋骨が治るまでは。  ただの大義名分かもしれなくても。俺がそう言って、涼弥もしぶしぶオーケーした。  だから、それ守りたいって思うのは……俺のエゴか?  まだ、どこかに怯む部分があるのか?  もったいぶってるみたいか?  本当に、涼弥の身体を気づかってのことなら。  俺は全力で拒否出来るはず。  そう信じよう。  何の準備もしてないしな。  氷を入れたコップにコーラとアイスコーヒーを注ぎながら、沙羅の言葉を思い出した。 『その気分を楽しむの』  そうだな。  適度にイチャイチャ……出来なそうって決めつけずに、がんばろう。  飲み物を持って部屋に戻った。 「お待たせ」  ゲームの続きをすると疑わず、涼弥の隣に座る。  喉を潤し一息ついてから尋ねる。 「夜、何食べる? 簡単なもんでいいなら作るけど、弁当でも買いに行くか? ピザ取るとか」 「お前、飯作れるのか?」 「うち、沙羅と二人だからな。ほとんど毎晩。沙羅は料理うまいけど、俺は手伝いレベル。簡単なもんっつったろ。パスタ茹でるとかチャーハンとかくらい」 「チャーハンで。俺も手伝う」  何故か嬉しそうな涼弥に頷いた。 「じゃあ、そうしよう。ほかになんか要るか?」 「いや。外に出たくない」 「そうか……あ、続き。さっきのとこクリアしたいだろ?」  涼弥が俺を見つめてる。 「あそこ超えれば、きっと地下から上に行ける」 「將梧(そうご)……」  視線が、痛いほどだ。  涼弥の熱が……。 「したいのはゲームじゃない。もう……」  俺の熱と混じる。  涼弥の口を唇で塞いだ。  続きは俺が言う。 「我慢出来ない」  離れて開いた口を、すぐに重ねた。  涼弥とのキスは、どうしてこんなに底がないのか。  満ちるのに足りない感じ。  気持ちよさにプラスして。好きのやり取りをしてるから……思いを伝え切れないせいか? 「んっ……ふ……っあ、りょう、や……もっ……やめ……」  舌を絡めて口内を舐り合い、快感がペニスに届いてからもう数分。  このへんでやめないと、理性が負ける域に入る……それはマズい。  なのに。  涼弥はさらに深く舌を這わせてくる。上顎を歯茎から奥に何度もなぞられて、ゾクゾクが頭をクラクラさせる。 「やっ……は、ん……っは……んっ……!」 「まだ、時間……あるだろ……」  僅かに唇を離して涼弥が言った。  超至近距離で見るその目は、瞳孔が開いてる。焦点、絶対合ってない。 「あるけど……」  そりゃあるよ? たっぷり! まだ日も暮れてないしさ。 「いくらでも出来るって、言ったよな?」 「言った、けど……一回やめよう。これ以上は……ん、ふ……!」  キスを再開され、舌を口から引き出す勢いで吸われ。すでにベッドの縁に押しつけられてる頭がさらに沈み込む。 「はっ……ん……安心しろ……無理に抱いたりは、しない」 「そう……じゃなくて……」  時間の問題じゃなく。犯される心配でもなく。身体が……。  ほんとにわかんないのか?  涼弥は何故平気……!?  眉間に浅く皺を寄せた涼弥の目が、いいアイデアを思いついたかのようにパッと開く。  そして、耳に熱い息がかかった。 「つらいか?」  耳元で、涼弥が囁く。 「続けると、イキたくなるか?」 「な……そんなこと言うな……あッ……!」  左耳の穴の入り口を舐められた。 「ひゃっやめ……や、だ……うあ……!」  入り込んだ涼弥の舌が立てる音が、耳の中で響く。  ぞわっとなる感覚は、(かい)が言ったみたいに快感に繋がるものかもしれないけど……今は怖い! 音が! 「そ……れ怖い……! んあッ、やだ……涼弥……!」  涼弥の両腕を掴む。  やめてくれなきゃ、きっと蹴る。位置的に、膝で。股間を!  そう思ったのと同時に、涼弥が俺の耳から顔を上げた。 「將梧……イカせたい」

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