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31-4 楽しく過ごせた?
涼弥が帰った。
ていうか、街に出かけてった。
午後1時53分。
ひとりになると、いきなり現実に引き戻される気がする……いや、さっきまでも超リアルだったよ? それは身体に実感として残ってる。
ただ、頭が……。
この24時間の記憶、あらためて思い返すと……めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……!?
俺、涼弥にあんなことやこんなことして、されて……エロに全振り近い1日だっ……た……って!
ヤバい! 身体熱くなる! 生々しく思い出せるアレやコレ……アレもコレも……。
まともなこと考えよう。
俺はホモ・サピエンスだ。
涼弥が好きだ。
恋はエロだけじゃない。
キスは気持ちいい。
明日は学校。月曜日。
涼弥のペニス。あんなの、俺のアナルに入るのか?
学祭のお化け屋敷。お化け役がやりたいな……。
ダメだ。
思考回路がショートする。
こんな時は、肉体労働だ……風呂掃除しよう。
昨日の夜、今日の午前中と。
風呂場で盛ったから……キレイにしておくのがマナーだよね。
洗剤をたっぷり使って丁寧に掃除すること40分。風呂場はピッカピカになった。
よし。満足。
いかがわしい行為の形跡はゼロ……。
掃除で濡れたTシャツを脱いだ自分を、洗面所の鏡の中に見る。
皮膚に、紅く内出血したところが二ヵ所。左の首筋と、鎖骨の上……涼弥がつけたキスマークだ。
涼弥の……もう、先輩のじゃない。
もう……大丈夫だ。
キスマークの記憶は上書きされた。
単純だな俺。
でも。涼弥の気持ちが、この紅い痕が……俺を楽にしたのは確かで。涼弥にその力があるのは、俺が涼弥を好きだからだ。
ありがとな……。
涼弥に感謝。ほんとに。
で……。
俺のフラッシュバック要因のひとつを上書きするためのキスマークは、服に隠れる場所だからよしとして。
これ。こっちの。昨夜の風呂でつけられたやつは。
服で隠せない。正面から見えるとこにある。キスマークにしか見えない。けっこう濃くて大きめ。
あー……明日までに消えるか?
何日で消えるもんなのか、全くわからない。
ネットで調べよう……あ。沙羅にも聞いてみるか。キスマークつけてるの見たことないから、消し方知ってるかもしれない。
まぁ、御坂は、見えるところにつけたりしなそうだけどさ。
自分の部屋でロンTを着てほどなく。玄関のドアが開く音。
時刻はまだ3時。
静かだから、両親じゃない。
階段を下りると、思った通り沙羅がいた。監禁されずに済んだみたいで何より。
「お帰り。早かったな」
「ただいま。涼弥は? もう帰ったの?」
「うん。街で仲間と会うからって昼過ぎに」
「なんだ。部屋で盛り上がってるかもって思ったのに」
いたずらっぽい瞳で笑みを浮かべる沙羅は、いつも通り。男の家に泊まって帰ってきたっていう気マズさは皆無。
「楽しく過ごせた?」
「ん。かなり……な」
「聞くわ。下で待ってて」
笑顔のまま、沙羅が階段を上がっていった。
淹れたコーヒーを手にリビングに行くと、ちょうど入ってきた沙羅がソファに身体を投げる。
「ありがと」
マグを受け取った沙羅は、疲労感漂う感じ。
「お疲れだな」
「そうね……今日は早く寝なきゃ」
垂直の位置に座った俺を、沙羅がじっと見る。
「將梧 たちは、夜ちゃんと寝れた?」
このセリフ、うまいな。意訳するとこうだろ。
自分と御坂はセックスしてて夜あんまり寝てないけど、俺と涼弥は……?
「寝たよ、ぐっすり。やってない」
沙羅が首を傾げる。
「キスマークついてる」
「あー…セックスまではいかないけど、イチャイチャはした……濃いめに」
「涼弥が満足するくらい?」
「それなりに……ていうか、抜き合った。内容は聞くなよ」
ストレートなほうが、言いにくくない。これで足りるし。
「うん。そっか。よかった。いろいろ安心したわ」
ニッコリ微笑む沙羅に報告。
「でさ。ハッキリとつき合うことにしたんだけど……」
「けど……?」
「家でもオープンにするよ。ていうより、バレた」
沙羅が目を瞠る。
「どういうこと? 昨日顔合わせただけで?」
「今朝、何か用あって来たみたいでさ。一緒に寝てるとこ、父さんに見られたんだ。俺は眠ってたけど、涼弥が起きて……」
父さんと涼弥の短い会話を伝えた。
「お前の外泊もバレてるから。深音 んち泊まったとか、うまく言えよ」
「わかった。ねぇ。友達でも一緒に寝ることあるし……將梧が隠しておきたいなら、フトン敷くの面倒だったからで押し通せば?」
首を横に振る。
「起き上った涼弥、上半身裸でキスマークつき。それ見て友達は、無理あるだろ」
沙羅は溜息。
「お父さんがどう思ったか……あの人の思考は読めないわね」
「まぁ、特に反対しないだろ。お前と涼弥が寝てたらショック受けただろうけどさ」
「そう? そのほうがあり得るって思ってたんじゃない?」
「……それはそれで複雑だな」
「でも、二人とも涼弥のことよく知ってるし。気に入ってるし。大丈夫よ」
「俺もそう言った。涼弥はへこんでたけど」
「気落ちさせたまま別れてない?」
「あーそれは平気」
数時間前の。風呂場でのアレコレ……脳が勝手に再生する。
止めねば。
「気分上がることしたんだ?」
腐女子の瞳を俺に向ける沙羅。
「ちょっとは……まぁ……」
言葉を濁す俺。
さすがに自分のは語れない。BLワールドのエロに比べたら超ソフトなもんだけども。
「將梧も自分のこと好きだってわかったら、涼弥はかなり積極的でしょ?」
「何でわかる? 見てたのか」
「今まで抑えてた分。あと、普段物静かな分、そういう時は激しそう。涼弥って、愛情表現も惜しまないと思うしね」
愛情表現……か。
確かにそうなんだけど……。
「沙羅。御坂と、ヨリ戻してどう?」
「どうって……まだ三日目だもの。うまくいってるわよ」
「立ち入ったこと聞くけど。お前、御坂が満足するまでやってる? つーか……どこまでつきあえる? 参考までに」
眉間に皺を寄せて、沙羅が首を傾げる。
「樹生 は私を満足させてる前提なんだ?」
「いや、だって。御坂だから。してないのか?」
「ノーコメント。でも……そうね。樹生がやりたいことは、出来る限りつきあう。それも愛情表現でしょ。痛いコトじゃなければ、やらずにNGはしないかな」
すました顔で言う沙羅に感心する。
「そうか……うん。ありがと……」
「何? 涼弥にマニアックな要求されたの?」
「されない。今後のために聞いてみただけ」
「將梧」
微笑んで。真剣な瞳で、沙羅が続ける。
「好きだから何でも許したくなっても……嫌なことはちゃんと言うのよ。無理してたら続かないから」
説得力あるアドバイスに頷いた。
「ん。そうするよ」
「ただいまー!」
玄関が騒がしくなる。
「涼弥は帰っちゃったのかしら!? せっかくケーキ買ってきたのに……!」
母親の声に。沙羅と視線を合わせて方眉を上げた。
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