130 / 246
31-5 一家だんらん
今朝、父さんが俺に聞くと言った話は夜でなく、4時のおやつの時間に繰り上がり。
「聞きましたか?」
唐突な質問に、思い当たるフシがないフリはせず。
「うん」
例の話がスタート。
「涼弥くんには、すみませんでしたね。突然、部屋を覗いて……驚かせてしまった」
ダイニングテーブルで向かい合った父さんが、俺に微笑んだ。
「大丈夫……」
ミルフィーユにザクッとフォークを突き刺して、パイ生地を割りながら言う。
「心配するなって言っといたから」
「きみと涼弥くんの関係を、僕が誤解しているんじゃないか。あるいは、二人の関係を僕に反対されるんじゃないか。どちらの心配かな? まずは、そこをハッキリさせましょう」
「父さんが考えてることの9割は、誤解じゃないと思う」
視線を合わせて。
「俺と涼弥はお互いに好きで、昨日からつき合ってる。でも、まだセックスはしてない」
「ほら! やっぱり! 一緒に寝てたらそういうことでしょ? あなたは、違う可能性もあるから確かめてからにしようって言ったけど。ケーキ買ってよかったわ」
母さんがエキサイトした声を上げた。
え……このケーキって、だからなの? お祝い?
「そうですか。きみと涼弥くんの関係は恋人同士……いずれセックスもすると。幼馴染みでお互いをよく知っている。成り行きや一時の気の迷いではなさそうですね」
俺のカムアウト。
涼弥とつき合ってる。つまり……息子が同性愛者だって告白に。
興奮気味の母親と、冷静にコメントする父親……ちょっと怖いな。
「え……と。うん。そういうことなんだけど……いいかな?」
「もちろんよ。涼弥はいい子だし、ちっちゃい頃から將梧 と仲良しだし。顔も私好みだわ。沙羅の彼氏にいいなと思ってたくらい」
「お母さん。それ、やめて」
「沙希 さんは少し静かにしていてください」
母さんと沙羅をチラッと見やり、父さんが視線を俺に戻す。
「『いいかな?』と聞かれたら、よくないな」
え……!?
反対……なのか?
世間一般の常識と違う価値観で生きてるように見えて、やっぱり抵抗あるのか……自分の息子が男と恋愛って……。
「僕にダメだと言われたら、涼弥くんとの交際を考え直す?」
数秒、間を空けて口を開く。
「いや。父さんが何と言おうと、俺は涼弥とつき合う。認めてもらえないのは残念だけど、気持ちは変わらない」
黙ったまま見つめ合う、数秒。
「それならいいですよ。認めます……というよりも」
父さんが、からかうような笑みを浮かべる。
「第三者の承認など不要でしょう? なのに、いいかなと問われたのでね。弱気な恋愛感情なら、早めに崩してあげようと思っただけです」
「そんなんで怯まないけどさ」
ゆっくりと息を吐く。
「家族には、出来れば反対されたくないじゃん?」
「嬉しいですね。僕たちを大切に思ってくれているのは。けれども、將梧」
いきなりの凄み顔で、父さんに見据えられる。
「半端な気持ちで恋愛するのはやめなさい。涼弥くんでもほかの男でも。女でも。相手を本気にさせる覚悟が持てないなら、軽々しく愛を語らないように」
「はい……」
神妙に頷くと。
「では、この話は終わりです」
「じゃあ、このケーキで。おめでとう!」
母さんが満面の笑みで俺を見る。
「將梧と涼弥のおつき合いが順調にいくように。応援するわ」
「あ……ありがとう」
この人も、だいぶ変わってるな。
順調にいくと俺、涼弥に突っ込まれるんだけど。自分の息子がそうなるの、心から応援してるのか?
まぁ……祝福されて嬉しいことは嬉しい。
素直に喜ぶべきだよね?
4人で和やかに、うまいケーキを食べて笑って。そのまま、珍しく在宅の両親と時間を過ごした。
家族4人揃ってる時の家での娯楽は、カードゲームだ。何故か、うちでは昔からそう。まったりテレビとか映画鑑賞じゃなく。外遊びでもなく。
小さい頃は、子どもたちを楽しませるために手加減してた両親だけど。小学校高学年くらいからは、本気で勝ちに来るようになった……大人げないというか、本気で遊んでくれるというか。
もちろん、俺も沙羅も親と互角に勝負出来るレベルになった今は、白熱したゲームを対等に楽しんでる。労働を賭けることもしばしば。
今回の、負けた二人が夕食の支度ってゲームに、勝利したのは、俺と父さんだった。
沙羅と母さんが夕飯を作る間、俺たちはチェスを2戦した。結果は2敗。チェスの腕前はまだ父さんに及ばず、勝てるのは5戦に1勝がやっとだ。
夕食を終え、自室へ引き上げてホッと一息ついた。
久々の一家だんらんってやつを十分にした今日。いつもはふんだんにあるひとりの時間は、風呂掃除した時ぶり。
あーその前の24時間は、涼弥と二人きり……だったなー。
部屋に置き去りにしてたケータイを何気に見ると……。
30分おきの着信5回。メールが3件。全部、涼弥から。
今10時になるところで、最初の着信は8時3分。メールは3件とも、この30分以内にきてる。
どうした!? 何かあったのか……!?
ともだちにシェアしよう!