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31-5 一家だんらん

 今朝、父さんが俺に聞くと言った話は夜でなく、4時のおやつの時間に繰り上がり。 「聞きましたか?」  唐突な質問に、思い当たるフシがないフリはせず。 「うん」  例の話がスタート。 「涼弥くんには、すみませんでしたね。突然、部屋を覗いて……驚かせてしまった」  ダイニングテーブルで向かい合った父さんが、俺に微笑んだ。 「大丈夫……」  ミルフィーユにザクッとフォークを突き刺して、パイ生地を割りながら言う。 「心配するなって言っといたから」 「きみと涼弥くんの関係を、僕が誤解しているんじゃないか。あるいは、二人の関係を僕に反対されるんじゃないか。どちらの心配かな? まずは、そこをハッキリさせましょう」 「父さんが考えてることの9割は、誤解じゃないと思う」  視線を合わせて。 「俺と涼弥はお互いに好きで、昨日からつき合ってる。でも、まだセックスはしてない」 「ほら! やっぱり! 一緒に寝てたらそういうことでしょ? あなたは、違う可能性もあるから確かめてからにしようって言ったけど。ケーキ買ってよかったわ」  母さんがエキサイトした声を上げた。  え……このケーキって、だからなの? お祝い? 「そうですか。きみと涼弥くんの関係は恋人同士……いずれセックスもすると。幼馴染みでお互いをよく知っている。成り行きや一時の気の迷いではなさそうですね」  俺のカムアウト。  涼弥とつき合ってる。つまり……息子が同性愛者だって告白に。  興奮気味の母親と、冷静にコメントする父親……ちょっと怖いな。   「え……と。うん。そういうことなんだけど……いいかな?」 「もちろんよ。涼弥はいい子だし、ちっちゃい頃から將梧(そうご)と仲良しだし。顔も私好みだわ。沙羅の彼氏にいいなと思ってたくらい」 「お母さん。それ、やめて」 「沙希(さき)さんは少し静かにしていてください」  母さんと沙羅をチラッと見やり、父さんが視線を俺に戻す。 「『いいかな?』と聞かれたら、よくないな」  え……!?  反対……なのか?  世間一般の常識と違う価値観で生きてるように見えて、やっぱり抵抗あるのか……自分の息子が男と恋愛って……。 「僕にダメだと言われたら、涼弥くんとの交際を考え直す?」  数秒、間を空けて口を開く。 「いや。父さんが何と言おうと、俺は涼弥とつき合う。認めてもらえないのは残念だけど、気持ちは変わらない」  黙ったまま見つめ合う、数秒。 「それならいいですよ。認めます……というよりも」  父さんが、からかうような笑みを浮かべる。 「第三者の承認など不要でしょう? なのに、いいかなと問われたのでね。弱気な恋愛感情なら、早めに崩してあげようと思っただけです」 「そんなんで怯まないけどさ」  ゆっくりと息を吐く。 「家族には、出来れば反対されたくないじゃん?」 「嬉しいですね。僕たちを大切に思ってくれているのは。けれども、將梧」  いきなりの凄み顔で、父さんに見据えられる。 「半端な気持ちで恋愛するのはやめなさい。涼弥くんでもほかの男でも。女でも。相手を本気にさせる覚悟が持てないなら、軽々しく愛を語らないように」 「はい……」  神妙に頷くと。 「では、この話は終わりです」 「じゃあ、このケーキで。おめでとう!」  母さんが満面の笑みで俺を見る。 「將梧と涼弥のおつき合いが順調にいくように。応援するわ」 「あ……ありがとう」  この人も、だいぶ変わってるな。  順調にいくと俺、涼弥に突っ込まれるんだけど。自分の息子がそうなるの、心から応援してるのか?  まぁ……祝福されて嬉しいことは嬉しい。  素直に喜ぶべきだよね?      4人で和やかに、うまいケーキを食べて笑って。そのまま、珍しく在宅の両親と時間を過ごした。  家族4人揃ってる時の家での娯楽は、カードゲームだ。何故か、うちでは昔からそう。まったりテレビとか映画鑑賞じゃなく。外遊びでもなく。  小さい頃は、子どもたちを楽しませるために手加減してた両親だけど。小学校高学年くらいからは、本気で勝ちに来るようになった……大人げないというか、本気で遊んでくれるというか。  もちろん、俺も沙羅も親と互角に勝負出来るレベルになった今は、白熱したゲームを対等に楽しんでる。労働を賭けることもしばしば。  今回の、負けた二人が夕食の支度ってゲームに、勝利したのは、俺と父さんだった。  沙羅と母さんが夕飯を作る間、俺たちはチェスを2戦した。結果は2敗。チェスの腕前はまだ父さんに及ばず、勝てるのは5戦に1勝がやっとだ。  夕食を終え、自室へ引き上げてホッと一息ついた。  久々の一家だんらんってやつを十分にした今日。いつもはふんだんにあるひとりの時間は、風呂掃除した時ぶり。  あーその前の24時間は、涼弥と二人きり……だったなー。  部屋に置き去りにしてたケータイを何気に見ると……。  30分おきの着信5回。メールが3件。全部、涼弥から。  今10時になるところで、最初の着信は8時3分。メールは3件とも、この30分以内にきてる。  どうした!? 何かあったのか……!?

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