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31-6 心配の電話

 まさか……ケンカでケガしたとかじゃ……!?  不安に急いでメールを確認。 『電話出てくれ』 『責められてるなら俺が説明する』 『大丈夫か?』    新しい順に見た短いメッセージで、涼弥が電話してきた理由がわかった。  涼弥は無事。  俺を心配してる。  今朝のことで、俺が父親に責められてないかっ……て。  すぐに、涼弥に電話する。 「將梧(そうご)。何で出ねぇんだ」  呼び出し音が鳴った途端につながり。聞こえたのは、怒ってるのと安心するのがまじった声。 「ごめん。ケータイ部屋置いてて、今気づいた」 「何ともないならいい……大丈夫か?」 「うん。平和に一家だんらんして飯食ったとこ。お前は?」 「こっちも平和だ。揉めゴトいっこ解決して飯食ってる。ケンカはしてないからな」  それを聞いて、俺も安心する。 「ん。よかった」 「親父さん、どうだ……?」 「お前とつき合ってるって言ったよ。大丈夫。反対されてない。てか、お祝いにケーキ食ったから」  ちょっと間があって。 「そうか……俺が將梧と……いいのか。マジで……」 「今さら何だ。誰が認めなくても、俺はお前とつき合うの」 「ああ……その通りだ」 「けど、お前んちに反対されたら、俺もへこむみはするけどな」 「反対なんかさせるか。お前の親父にオーケーもらったんだ。誰にも文句言わせねぇぞ」  顔が緩んで笑いが漏れた。 「うん。あ、涼弥。学校では、つき合ってるって……オープンにするのか?」  ふと、気になって聞いた。  俺と涼弥のことを知ってる友達は口外しないだろうけど、ほかにも知られてるしな。上沢とか。江藤、天野、斉木、水本……あと、動画撮ったヤツ。  隠してもどうせ、いつかバレるだろ。 「自分から言いふらさないけどさ。聞かれたら、そうだって言う感じで」 「お前がノンケじゃないってなったら、心配が増えるが……」 「何の心配だ?」 「誰かに()られるかもしれないだろ。誘われたり告られたりしてよ」 「は!? 俺がそんなの乗るわけないじゃん」 「……1日、考えさせてくれ」 「わかった」  後ろで、涼弥を呼ぶ声がする。 「あ。じゃあ……また明日。あんま遅くなるなよ」 「ああ。明日な」  一呼吸おいて、通話を切った。  1日考える……って。  涼弥の心配性は、あのレイプ未遂のせいだよな。  でも、あれから何もないし。俺がノンケじゃなくゲイだって知られても、襲われる可能性だけ考えたら同じだし。  それに……。  男もアリだと、ほかのヤツに奪られるかもってのは……要らん心配だろ?  仮に誰かに告られたとして、俺が簡単になびくと思ってるのか? 誘われて、ついフラフラと浮気するように見えるのか?  昨日今日と。  あんなにイチャイチャしたのに、俺が自分のモノだって思えてないとか……ないよね?  涼弥を安心させる愛情表現……してるつもりだけど、足りてないのか。  セックスしたら何か……何が変わるかな……って。ヤバい。妄想する。  考えただけで熱くなる身体を鎮めるように、深い息を吐いた。  風呂に入ってネットを見て、寝る間際。  メールの着信音が鳴った。 『学祭、お前のとこ何やる?』 『お化け屋敷』  今、それを知ってどうするって思いつつ返信すると、20秒経たずに電話がかかってきた。 「お疲れ。今帰りか?」 「ああ。駅に向かってる」 「学祭って。急にどうした」 「いや……唯織(いおり)が気になること言うんで、ちょっと……」 「何?」 「うちの学校はホモで有名だから、学祭はナンパ目当ての男がたくさん来る。クラスの出し物が接客系なら気をつけろってな」  唯織……からかってるよね絶対。 「そんなの気にすることない。去年もなかったろ?」  同じクラスだった1年の時は、定番のたこ焼き屋だった。 「俺が一緒にいて見張ってられた。お前のこと舐めるような目で見るヤツなら、何人かいたぞ。殺気込めて睨んで追っ払ったが」  え!? そうだったの? 確かに同じシフトで店番してたけどさ。 「そうか……気づかなかった」 「女にも声かけられてたよな」 「お前もじゃん」 「俺は興味ないって断ってただろ」 「俺もだって」  溜息をついた。 「涼弥。俺……信用されてないのか?」  ためらいがちに聞く。 「してる。お前は俺が好きだ」  即答されて一安心。 「ん。じゃあ、心配要らないな?」  間が空いた。 「……するに決まってるだろ」 「どうして」  さらに長い間のあと。 「お前が、俺を好きだからだ」 「は……!? だったら、心配する必要ないじゃん?」 「うぬぼれちまってんだよ俺は……お前は俺のもんだってな。お前にコナかけるヤツいたら許せねぇ」 「うぬぼれじゃない。俺はお前のモノだ。誰もお前から俺を奪えない。わかるか? 俺がそう決めた」  涼弥が大きく息を吐く音が聞こえた。 「早く帰って休め。お前、まだ本調子じゃないんだからさ。骨、痛くないか?」 「大丈夫だ。將梧……」 「ん?」 「俺……やっぱりおかしいみたいだ」 「おかしくない。俺を好きなだけだろ」 「ああ……そうだな」  ホッとしたような涼弥の声に、俺もホッとする。 「学祭のことは、ほんと気にするな。あ。お前のクラスは何やるんだ?」 「……カフェだ」  メンズカフェ……か。ノンケは女、ゲイは男の客担当するのがデフォだよな。 「1日考えるって言ったけどさ。ノンケのフリやめたら、男担当になるんじゃん?」 「お前はどっちがいい? 俺が接客するなら」 「んー……女、かな」  涼弥が客をもてなしてても、心配はしないけど……女相手のほうがいい気がする。 「お前は? 俺が接客するとしたら……」 「するのか?」  何の気なしに尋ねちゃったよ……失敗。 「お化け屋敷じゃないのか?」 「あー……エスコートつきなんだ」 「エスコート? 何だそりゃ」 「一緒にまわる役。お化け屋敷の案内人ってとこ」  沈黙。涼弥が考えてることは想像つく。  ニセモノのお化け出現にドキドキする客と、寄り添って歩く……暗がりで。 「明日のLHRで決める予定だけど、俺はエスコート係じゃなくてお化け役やるつもりだから」 「いや。エスコート役やれ」 「え……!?」  涼弥の思考回路……クセなく繋がれててわかりやすいって思ってたのに。どうしてその言葉が出てくる? 「俺が……お化けやるより、接客するほうがいいのか?」 「ああ」 「そうか……うん。お前に心配かけないなら……」 「そんなわけあるか。心配するのは当然だろ。暗闇だぞ?」  そう! 俺もそう思ったよ!? 「じゃあ何で……?」 「客より、ずっと暗い中一緒にいるお化けのほうが危ない。客の女はお前に……ひっついたとしても、手出さないだろうからな」  あ……そういう考え……なの?  うちのクラスに俺をってヤツはいないけども。 「ん。わかった。あ……てことは、ひとまずノンケのフリでいくか?」 「ああ……気はすすまないが」 「俺が男のエスコートやるの、嫌なんだろ?」 「嫌だ」 「なら、学祭終わるまで、俺たちのことは内緒な」  笑って言うと、はーって溜息を返された。  また明日って通話を切って、ベッドに寝転んで目を閉じる。  涼弥の心配……どう考えても過剰だよね?  今までは、お互いの内心はどうあれ……純粋な親友同士だったから、別に気にしなかったことも。  恋人同士ってなるとたぶん、気になること出てくるだろ。  俺はそんなでもないけど、涼弥は……。  不要な心配、警戒、疑い……山ほどしそうだ。  不安にさせたくない。よけいなストレス与えたくない。やっとつき合えたんだから……楽しい気分でいてほしいじゃん?  学祭が終わるまで。  何事もなく平和な日々を願う俺。  3週間……長いな。

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