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39-4 お前は、俺が傷つくことはしない

 写真部での撮影を終えたあと。  涼弥にメールして美術室で時間を潰し、一緒に帰った。  予定通り、明日セックスするから……公園に寄ってイチャつくことなく、それぞれの家へ。  前日に気分が高まり過ぎても困るし、早く寝て体力チャージしときたいからさ。  そして。  朝から落ち着かない木曜日が始まった。  俺…何で今からこんな緊張気味?  もちろん、涼弥とはじめてセックスするから、ドキドキもワクワクもしてるけど。フェラとかエロいことはしたじゃん? 挿れられるのははじめてだからか?  あ……そうか。  セックスしたことはあっても。恋愛感情で好きな相手とするのは、はじめてなんだ。  だから、気負ってるのか。  たとえば、1年後。  涼弥とやることに慣れちゃったら、また別の感覚で。それはそれでいいものなんだろうけど……。  今だけの、期待と不安ミックスのこのフワフワ感……これも悪くない。  そんな感じで浮足立った感じの俺に、目ざとい友人が気づいた。 「將梧(そうご)、変」  昼休み。玲史(れいじ)の的確なひと言が、学祭の仕掛け作りの詳細決めを中断させる。  ゾンビ役の玲史と紫道(しのみち)、エスコート役の俺の3人が同じグループだ。 「そう……?」 「うん。浮ついてる。何かあった? それとも、何かあるの? 今日」  俺をじっと見る玲史の目力に、ごまかせないことを一瞬で悟る俺。 「今日……涼弥とやる」  一瞬の間。  玲史が瞳を輝かせ、紫道が案をまとめてたノートから顔を上げた。 「へぇ! とうとう……いいな」  意味ありげに、玲史がチラッと紫道を見やる。 「こっちは委員決定までお預けなのに」 「約束だろ」  すげなく言って、紫道が俺を見る。 「涼弥のケガはいいのか?」 「ん……もう待てないから。俺も涼弥も」  南海(みなみ)との一件は、言ってない。 「気をつけてやる」 「そうか。まぁ……しっかりな」  励ますように笑みを浮かべる紫道は、エロトークは苦手なはず。最初がムリヤリなら、なおさらだ。 「そう。しっかり準備してから、挿れてもらいなよ」  エロ話が進まないようにしなきゃって俺に対し、そんなのおかまいなしの玲史。 「痛いのが気持ちいいとか、ないんでしょ? 將梧は」 「ない。痛いのは嫌だ」 「じゃあ、杉原に焦らないでゆっくりしてって言わないとね。経験あるんだっけ?」 「ある。けど、慣れてはいないと思う……言っとく」 「裂けたら痛いよ。やってる最中は快感に逃げられても、あとでくるから」  紫道とともに、玲史を見つめる。 「僕はバリタチだけど。最初の頃にネコも試したし、レイプされたことも何度かあるから。ヘタクソなバカどもにね」 「玲史……」 「やられるのは、ほんと屈辱。怖くも傷つきもしないけど、ムカつく。僕は自分が支配する側じゃなきゃ、満足出来ない」  玲史のタフな思考に、何て言うべきかわからず。 「ネコの感覚がわかるから、僕はいいタチでサドなの。紫道のこと、ギリギリのとこで攻めてあげる。安心して支配されて」  言葉とは裏腹なやさしい笑顔を向ける玲史に、紫道は笑った。 「俺は別にマゾのネコってわけじゃない。どうするんだ?」 「もちろん。僕好みに調教するよ」 「出来るならやってみるんだな」  二人のやり取りは、和やか風味……邪魔しないよう、このままおとなしく……。 「楽しみだね。ま、とにかく」  玲史の視線が俺に移る。 「將梧は思ったより従順じゃなさそうだし、杉原は攻めるの好きそうだし……どんなセックスするか興味あるな。見てみたい」 「ダメ。見せるもんじゃないだろ」 「興奮するよ?」 「おい。俺も嫌だぞ」  俺に続き、NGを出す紫道。 「はいはい。今は嫌でも、先はわからないでしょ」  紫道は、反論せずに溜息をついた。  玲史とつき合うの……大変そうだ。  こんな調子で。学祭の案を詰める作業は少ししか進まないまま、昼休みは終了。  続く5、6限目は、芸術じゃなく学祭準備。  実行委員会のあった火曜から、学祭は実行委員主導になり。クラス委員はその他大勢とともに、自分の担当の準備に集中出来る。  この時間にそれぞれの仕掛け、装飾に必要な物をリストアップして提出。明日にはクラス予算が割り振られ、来週から材料を揃えて実作業に入るとのこと。  バタバタしてて実感ないけど、学祭まであと1週間ちょっとだもんな。  そして、SHL終了。 「(かい)。ひと言、アドバイスして」  最後に。  凱からの助言がほしい。  ガタガタと席を立つクラスメイトたちをよそに、隣を向いて唐突に頼んだ。 「んー何の?」 「今日、涼弥とやる。俺に何か言って」  片方の眉と唇の端を上げた凱の瞳が笑う。 「快楽の入り口」 「そ……」  れって、アナル……。 「涼弥が入ったら一緒に楽しめばいーの。気持ちよがるだけで、あいつ喜ぶぜ? お前、勘も感度もいーからさー。そのままで十分」 「そう……かな。うん……ありがと……」  望み通り、気が楽になった……感謝。 「好きな男とだろ。溺れろよ、めいっぱい」  凱と見つめ合って、微笑んだ。 「ん。わかった」 「明日、肩貸してあげるねー」 「助かるよ」  朝よりもリラックスして、教室を出た。  2-Aの前で涼弥と会い。  学祭の話をしながら、学園を後にする。  今日のビッグイベントについて触れたのは、電車に乗ってからだ。 「気……変わってないか?」 「うん。やる。お前は?」  涼弥に聞かれて、答えて聞き返す。 「変わらない。ただ……あんま自信がねぇ」 「何の?」 「……暴走しそうだ」 「大丈夫。俺の声は聞こえるだろ」  合わせた目で、涼弥を安心させる……そこのところを不安がる必要はないんだって。 「お前は、俺が傷つくことはしない。気持ちいいことだけ。だから、大丈夫だ」  お互いの瞳に同じ熱が増すのを見て、俺と涼弥は期待を胸に電車を降りた。  家に着き。自室に入るまで待って、俺たちはキスをした。  この先を我慢しなくていいキスは、何故かゆっくりで。少しずつ気分を高めるように丁寧で。   わざと自分たちを焦らして楽しんでるみたいだ。

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