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39-5 準備いろいろ

 ひとしきり重ねてた唇を離し、息をつく。 「シャワー、先にして来いよ。俺……準備しないと」 「ああ……そうだな」  視線を外し俺を放し、涼弥が足元に転がしたカバンを手に座り込んだ。 「俺も、準備してきたぞ」 「え……?」  準備って……ローションとか持ってきたのか?  向かいに腰を下ろして、涼弥がカバンを探るのを見守る。 「必要なもん、前に聞いて用意しておいた」  ちょっぴりためらってから、ローテーブルの上にモノを並べ始める涼弥。  ローション。  ローション。  また、ローション……。 「何で3つもあるんだよ? そんな量使わないだろ」  素直な疑問。  いや、だって。何回分コレ!?  俺も買ってあるし。1コだけどさ。 「使い心地が違うらしい。試してみなけりゃ、お前がどれ気に入るかわからないからな」 「そう……か」  次に取り出したのは、コンドームの箱。  さすがに1コだけ。なんか、かわいい柄の箱。  で、次。  ビニールの袋に入った、けったいな形状のモノが……。  シリコン製っぽい容器に細長い管。 「これ何?」 「……中にお湯入れて……洗うためのやつだ」  涼弥を見つめる。  中って……直腸……だよね?  見た目からの予想通り、シャワ浣と同じ目的……ってことでオーケー? 「一応、用意しとけって言われてよ」 「お前、誰に聞いたの?」 「上沢に……」  あー……。  涼弥がこういうの聞ける友達って、悠かと思ったけど。  タチの意見、ほしかったのか。 「え……と。そこは俺、自分で準備出来るからさ」 「これもあるぞ」  出た。イチジク浣腸。 「うん。俺もある。大丈夫」 「あと……」  まだあるの? あと何……!?  窺うように俺を見つめる涼弥の瞳から、何か不穏なモノが出てきそうな予感がする。 「もしもの時に……」  現れたそれは。  ビニールに包まれてるけど、モロに……。  バイブじゃん……!  指よりはずっと太い。でも、ペニスより細いか? まっすぐじゃないし……アナルバイブってやつ!? 「ちょっと待て。そのオモチャ、俺に? もしもの時って何だよ?」 「もし……」  さっきから言葉がとぎれがちな涼弥が、大きく息を吐いた。 「痛がったら、これで慣らしてから挿れるか……どうしても無理なら、これ使って中でイカせんのに……」 「それも、上沢が?」 「今日は要らなくても、あとで遊べるからひとつ持っとけ……ってな」  上沢。何つーアドバイスしてくれんだ……!?  いや。悪気はないんだろう……けどさ。  俺たち、初心者だからね? 浣腸まででもういっぱいよ? 「これは使うな。もしもとかなし。お前の、ちゃんと挿れるから」  口を開けた涼弥に。 「お前とやりたいの。オモチャとは嫌だ」  そう言うと、表情を緩めて微かに頷いた涼弥に。 「こんなの、どこで買った?」 「ネットだ」 「アダルトグッズじゃん」 「だから、兄貴に頼んで買って送ってもらった」 「は……!? ハル兄に!? 言ったのか? 俺たちのこと……」 「ああ。つき合うってなった日、ちょうど電話きたからな」 「で……何て?」 「驚かれたが……昔から大好きだったもんな、大事にしろよって。喜んでくれたぞ」  ハル兄は涼弥と仲がよくて。一緒にいる俺もかわいがってくれた。  彼女連れてるの何人も見たから、ノンケだ。なのに、アナルバイブなんか買わせて…申し訳ない。 「ならよかった……けど。あとさ」  テーブルにずらっと並んだアイテムを見回す。 「これ全部。学校行くのに持ち歩いてたのか?」 「家に取りに帰る時間がもったいねぇだろ。だからよ……」  その気持ちはわかるし嬉しい。  でもさ。  バイブはマズいじゃん!?  誰にも見つからなくて、ほんとよかった。 「ん。じゃあ、早く……」  腰を上げた。 「下行こう。タオル出す」  涼弥も立ち上がる。 「今日はひとりずつな」  涼弥が浴室にいる間にトイレを済ませ、部屋で待った。  ベッド……マクラも毛布も要らないからどかして。そばに置いとくのは……何だ? ローションとティッシュか?  涼弥が持ってきた3つのローションを、手に取って確認。  普通の。  乾きにくい高粘度タイプ。  温感タイプ。  んー……。  俺が買ってあるのは普通のだ。まずは、普通のって気がして。  今日はこの普通タイプのローションを使おう。  いや、たぶん。  次もその次も、その次の次も。  だってこれ、1ボトル4、5回分はありそうじゃん?  当分……ローションには困らないな。  部屋のドアが開いた。 「いいぞ。お前も……」  バスタオル姿の涼弥に、ちょっと動揺する。  ローションよりコンドームより、リアルに実感させられる。  これから、セックスするんだ……この男と。好きなヤツと。涼弥と。 「うん。待ってて……あ。ローションはこれがいい」  そばに来た涼弥に、普通のやつを手渡す。 「浣腸は自分の使ったから、こっちのはまた今度な。でさ。これ……」  バイブを掴み取る。  うわ……なんか表面モチモチ。ぼこぼこっとしたペニス型の根元にも、ぼこっと取っ手みたいなもんが……変な物体だな。 「絶対使うなよ。届かないとこ置いとく」  じっと。俺に向ける涼弥の瞳に反論の色が……。 「さっき言ったろ。ちゃんと入るから」 「こういうやつ、かなりいいっていうしよ。お前喜ばせんのに……」 「いや、要らないって! もっとずっとあとで……10回目とか、20回目とか。余裕出来てからなら、あ……試してもいい。けど! 今はやめろ」 「……俺とやって、お前がよくなかったら……」 「いいに決まってる。俺はお前がほしいんだからさ」  見つめ合う視線が熱を持つ。 「俺もお前がほしい」 「もうすぐ……な」  伸ばしたくなる手を抑え、チェストの引き出しにバイブをしまい。 「シャワーしてくる。のんびりしてろよ」  このままセックスに突入しそうな雰囲気から抜け出した。  自分の気持ちをハッキリ認めて、涼弥の気持ちを知って。焦らされた欲はもう、溢れ出してる。俺も、涼弥も。  今思うと、よくここまでやらずにいられたって感じだ。  準備万端。不安なんかないだろ俺。  楽しもうな。

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