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41-2 次、その次も、ずっとある

「骨……」 「將梧(そうご)」  軽々と俺を運ぶ涼弥に言いかけて、遮られる。 「今無理して、お前抱けなくなるようなこと……俺がすると思うか?」 「……思わない」  涼弥の首に回した手に、力を込める。 「けど。大事にしろよ……自分。俺の大事なもんでもあるんだからさ」 「ああ……」  部屋に到着。 「お前もな」  そっと。下ろされて、抱きしめ合う。  唇を重ね、舌を舐り合う。  少し冷えてた身体が、たちまち熱くなる。 「あ……涼弥……んっ……もう……やめ……」 「ん……わかってる」  俺の舌をジュッと吸って。下唇を軽く噛んで引っ張ってから、涼弥が離れた。 「服着る前に……」  カバンから、何やら取り出す涼弥。 「コレ、塗ってやる」  ヴァセリンだ。 「切れたらもちろんだが、切れなくても塗っておくといいらしい」  ほんとに。上沢……アドバイスに余念がないな。 「最初に出せばいいのに、何で今?」  素朴な疑問に、涼弥がちょっと困り顔。 「やる前にそう言ったらお前……怖いかと思ってよ。それに、切れてもコレあるから大丈夫だっつってるみたいだろ」 「俺はそんなヤワじゃない。裂けなくてよかったけどさ」  笑って言うと。 「入るまで、不安だった」 「ありがとな。しっかり解してくれて。コレも……ヒリヒリはしてるから塗っとく」  ヴァセリンを受け取ろうと出した俺の手に、涼弥が手を重ねる。 「何……お手か?」 「……俺が塗る」 「ダメだ」 「沙羅がいるのに、エロいことしねぇぞ」 「だから、触るな」  視線が絡む。 「エロい気分になる……俺が」  涼弥が素で驚いた顔をした。 「お前にそこ触られたら、なるだろ。なっても続き……出来なきゃつらい。だから、次の時塗って」 「……ああ。次の時……」  嬉しそうに口角を上げた涼弥が、俺を目に映したまま考え込む表情で静止する。 「どうした?」  目が合ってるのに、俺を見てない瞳。 「涼弥!」 「あ……悪い」 「ボーっとして。どうした?」 「いや。何でもない……」  上目遣いでプレッシャーをかけると。 「次、お前とやる時……」  涼弥が口を割る。 「何しようかって……想像……しちまって……」  何……って。  ノーマルなセックスでいいじゃん……!  あ……俺は何度もイッて、初日からやりすぎた感あるけど。  涼弥はもの足りなかったのか?  何もしてないもんな俺。  そうだ。  セックスは二人で協力して楽しまないと!  喜ばせたい。  満足させたい。  もっと……積極的にならねば。 「お前が……あんなになるって思わなかったしよ。出来る限りつき合うって、さっき言ってくれただろ。妄想が止まらねぇ」  あ……う……。  言ったね。確かに。  開き直って瞳を輝かせる涼弥は……かわいい。  ヤラレル。  何でもしてやりたい。 「次。その次も、ずっとあるからさ。したいこと、しよう……ちょっとずつな」  さっき、セックス直後のテンションで思ったのと同じ……本心だからだ。 「ああ……わかった」 「服着ろ。帰るんだろ?」  目を細めて俺を見て、涼弥が名残惜し気に頷いた。  服を着て、ドロドロになったシーツを涼弥に替えてもらって。涼弥に支えられながら、1階に下りた。  ダイニングテーブルのイスに俺を座らせてから、涼弥が帰って行った。  玄関の鍵をかけるのに涼弥を見送った沙羅が戻り、夕飯タイム&コーヒーブレイク。 「今日はありがとな」  家を空けてくれた礼をはじめに言う。 「おかげで無事出来た。けど、内容は聞くなよ」  一応、先に言っとく。 「大切な初体験だもの。やっと二人……ほんと安心したわ」  初……受けでは、そうか。  アナル使うなんて、オナニー含めても初だ。 「さっきの姫抱っこはよかったわ。バスタオル姿で、足腰立たない受けを大切そうに運ぶ攻め……」  はぁ……。  よく、実弟のリアルを即BLワールドにハメた目で見れるよね?  (かい)との時は、身近な人のリアルに聞くと照れるわ……なんて言ってたのに。順応性高いな。  俺のジト目線を感じてか、沙羅が腐の世界から戻る。 「内容は聞かない。もちろん、將梧が話したいことあれば聞くけど」 「今はない。あ。さっき聞いたじゃん? どうだったって」 「あーあれはね。玄関入ったら、涼弥が不機嫌で……妙な雰囲気なの変えようと思って」 「樹生に、心配し過ぎはやめろって言われてさ」 「そっか……でも、予想通り。將梧が『よかった』って言ってくれて、機嫌直ったでしょ」 「ん。よかった」  機嫌直って。セックスも。 「まぁ、がんばって少しずつ……心配より安心が勝つようにするよ」 「そうね。涼弥の心配性が將梧のことだけなら、病的なものじゃないから大丈夫」 「ほかは全然……学校とか勉強とかケンカとかで不安がってるのは、見ないな」 「ほんとに怖いんだ。涼弥は」 「何が?」 「將梧を失くすのが」  沙羅が真剣な瞳を向ける。 「あと、誰かに傷つけられるのが。この前のこともあるし……」 「反省した。もう、油断しない」 「でも、選挙に出るんでしょ? 生徒会。樹生に聞いた」 「あー……マジでなりたくないんだけど。仕方なくてさ」 「目立つ立場になったら、今以上に気をつけないと」 「わかってる」  頷く俺に、沙羅が笑みを浮かべた。 「学園内で公認にしちゃえば? 涼弥とのこと」 「うん。そうするつもり」 「ふふ……」  からかいの笑みを漏らす沙羅。 「涼弥も気をつけないとダメかもね」 「何で?」 「ゲイだってわかったら、將梧が思ってるよりモテるわよ。涼弥」  え……男に、だよな?  それは頭になかった……うかつにも。  涼弥がいい男なのは、俺が一番知ってるだろ。  俺以外にそう思うヤツ、いて当然。好きになるヤツがいても、おかしくない。  ないのに……。  あ。どーしよ。いきなり、ちょっと不安……。 「心配?」  問われて。 「うん」  答えはイエスだ。  浮気の心配じゃなく。  心変わりされる心配じゃなく。  理解不能な人間がやらかす何かへの……漠然とした不安というか。  でもコレ、涼弥を信じる信じないは関係ないな。  好きな相手の身を案じるこの心配は、至極当然じゃん……!  度を越さなけりゃ、だけどさ。 「涼弥と同じ気持ちがあれば、將梧たちは大丈夫ね」   暫し無言でいた俺に、沙羅が言った。  好きな相手と同じ気持ち……好き以外の……があるなら、ないよりずっと近づける気がする。  たとえ、なくても。話して聞いてわかり合って……そうやって、ずっと一緒にいたい。  告って恋人同士になってセックスして。間違いなくハッピーな俺。  けど、リアルでは……これがゴールでもエンドでもないからな。

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