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42-4 クラスでのカムアウト
始業6分前に、教室に辿り着いた。
俺の席までついてきた涼弥は、集まるクラスメイトたちの視線に無関心。俺も特に気にしない。
たださ。
気にはせずとも、耳に入る音は聞こえちゃうよね。
悪気も悪意もなさげな。純粋な好奇心と、他人のこういうの楽しむ感の……ヒソヒソ声。
「……やられたんじゃ……どう見ても……」
「……バイってなってたよね……やっぱりあれ……」
「……女子部に女いるだろ……男いたことねぇよな……中坊ん時……」
「……杉原と……意外に……デキてんの……」
「……早瀬きっと……だったんだろ……」
「……俺も突っ込みてぇ……」
「涼弥。ただの感想だから」
声の主を振り返る涼弥に、薄く笑う。
「ありがとな。もう時間……」
「凱 」
涼弥が呟いた。
「おはよー。なんとか歩けてんじゃん」
「おはよ……うん。大丈夫」
隣の席に腰を下ろした凱が、からかいの瞳で唇の端を上げる。
「楽しんだ?」
音量を下げずに聞く凱を、止める気はなし。
「ん。よかった。すごく」
「涼弥も満足?」
「もちろんだ。凱……」
嬉しさ満面に答えた涼弥の表情が、真顔にシフトする。
「まだだ……」
凱が方眉を上げて俺をチラと見やった。涼弥も俺を見やる。一瞬だけ……読めない瞳で。
「何……? まだ……って」
「まだ。俺のこと警戒してんの?」
凱がおもしろそうに笑う。
「將梧 に手出さねぇからさー。やったんならもっと自信持てよ」
「ああ……わかってる」
涼弥が息を吐いた。
「昼は風紀で呼ばれてるが、帰りは一緒だ。無理するな」
「うん……」
俺に微笑み。周りを一瞥し、涼弥が教室を出ていった。
すぐさま。
「お前、杉原とデキてんのか?」
「やられたの?」
等々。
俺と涼弥の様子。声をひそめるでもない凱との会話から、確信を持ったクラスメイトたちに聞かれ。
涼弥とつき合ってることと、セックスしたことを肯定した。担任の小泉の登場で、さらに追及されずに済み……クラスでのカムアウト終了。
SHLは上の空で、もの思う俺。
涼弥……今もまだ、凱を警戒してるのか? 俺が打ち解けてるから?
けど、凱の言う通り。
凱は俺に手出さないし、涼弥はもっと自信持っていい。セックスしたからじゃなく、俺が好きなのは涼弥なんだからさ。
ただ……。
昨日は、はじめて抱かれて……頭も身体も気持ちもいっぱいいっぱいで忘れてたけど。
凱のこと、涼弥に話さなきゃ……。
お互いの男経験を、セックスしたら話す約束だ。
涼弥に、悠のことも聞く。
まぁ、悠本人にちょこっと聞いてるし、相手が誰か知ってる俺はともかく。
涼弥は……。
やったのが、凱だって言ったら……。
どんな反応する!? キレない……? 怒るか? へこむか? 呆れるか……?
予想つかないっていうか……怖い。
なんか、だって……俺が抱いたほうってのはわかってても……あの嫉妬心と独占欲からすると……。
俺、監禁されそうじゃん……!?
いや。
そうじゃないだろ。
俺でなく。
凱が心配だ。
俺の頼み聞いて、俺の不安消すために、俺の相手してくれた……何ひとつ悪くない。
なのに。
もし、涼弥の怒りの矛が向いたら、理不尽だもんな。
俺に怒るのは仕方ない。
でも。
それも、あくまで涼弥の気持ちの問題っていうか。
浮気じゃないし。
俺も悠に嫉妬しなかったとは言わないけど、怒りはないよ?
つき合ってからってのと違うからさ。
涼弥もそう思ってくれればいい。
悪いことはしてない。
大丈夫……。
「將梧」
凱に呼ばれて。SHLはとっくに終わってることに気づく。
「まだ頭飛んでんの?」
「いや……平気。ちょっとボーっとしてた」
「腰痛い?」
「うん。かなり楽になったけどな」
凱が問うような瞳を向ける。
「どうした? やって安心出来たんじゃねぇの? 涼弥、嬉しそーだったじゃん」
「したよ。安心……涼弥も、きっと」
「なんかキツい趣味でもあった? お前吊るすとか道具使うとか?」
吊るす!? そんな世界、リアルにあるの?
「ない。俺、経験値低いから、ノーマルなので十分満足」
「言えよ。どうした?」
凱を見つめる。
「明日話す。お前とのこと」
それだけで、察した凱が……表情を緩めた。
「いーんじゃん? 今なら涼弥、余裕あんだろ」
ある……かな?
「でも、不安だ。さっきの様子見てたら、理不尽にお前にあたりそうで……」
「俺は平気。聞けばムカつくかもしんねぇけど、お前にその気がねぇのわかればさー、あいつは引きずんねぇよ」
俺のことは、信じさせられる。
凱にもその気がないって……信じさせられるか?
「手出さねぇっつったら、わかってるって言ってたじゃん。大丈夫」
自信たっぷりな凱につられ、楽天的思考に向かいながらも。
「休み挟むから少しは落ち着けると思うけど……涼弥がお前になんかしたら、教えて」
「オッケー。けど、なんもねぇよ」
「ん。うまく伝える」
「涼弥もほかの男とやったんだろ?」
「あー……うん」
「んじゃ、おあいこ」
そう……だよな。なんだけども。
俺をジッと見て、凱が悪い顔をする。
「わかった。俺がやる。涼弥と」
「は……!? え!?」
「それで気済むんじゃねぇの?」
ちょ……っと。待って?
「タチでもネコでも。どっちでもいーよ」
涼弥の意思は……!?
「あ。やっぱ、涼弥の処女はお前がほしい?」
「凱……」
やっと声を出す。
「ダメだ。何言ってんだ? 涼弥に手出すな」
笑う凱……冗談……か?
「出すわけねぇだろ」
「焦った。変な冗談やめろ」
「たださー、涼弥がごねるなら言っていーぜ。じゃあ、お前もやればって」
涼弥に?
お前も凱とやれば……って!?
「言わない。けど……」
ちょっと呆れて。だいぶ楽に……てか、悩むことない気がしてきた。
「ありがとな。お前とでよかった。涼弥は大丈夫」
俺も笑った。
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